第133話 そこに拘らないでよ
「それで思い出したけど、別世界って、箒で空飛ぶとかってフツーにあるの?」
って、ソードが別れ際聞いてきた。
ロブさんは目が点になってる。
アマト氏は軽く、
「あ、空飛ぶ箒? 童話の方? 宅急便の方?」
って聞いてくる。
「両方だ」
私が答える。
「定番だよねー」
「「ねー」」
と、別世界のノリで言う。
「……すげーな、別世界。リョークみたいなゴーレムがいて、死ななきゃなんでもアリで、箒で空を飛ぶのかよ」
あ、ソードが間違った別世界のイメージを持ってる。
「いや、そうはいないぞ? リョークみたいなゴーレムは、超ほんの数人の、特殊警備隊……王国騎士団の、極一部、と考えればいい、が、持っているだけだし、箒で飛ぶ人間も、普通は見られてはいけないものなのだ、伝説の乗り物だ。あと、死ななければ何でもアリは、ここでもそうだし別世界でもそうだが、別世界の場合は役人に捕まるな。別世界は段違いに治安が良く、別世界には魔物がいない。だから、アマト氏は殺せない、殺す必要がない世界だったから。そんなアマト氏の自衛のために渡したのだ。ちなみに、私は別世界の知識は持っていてもこの世界で生きているため、死ななければ何でもアリは、私のルールだ」
「「…………」」
「インドラ様、そもそもタ……おっといけない、リョークも、空飛ぶ箒も、〝アニメ〟です、空想の世界のお話ですから。別世界でも現実には存在しませんて」
「…………」
ソードの目が細くなったと思ったら、アイアンクロー!!
「ぎゃー!」
「よしわかった。アマト、お前は俺に別世界の常識を教えてくれ。俺は、コイツから別世界の常識とやらを教わったが、間違ってるかもしれないってのは、アマトの説明で分かった。俺も旅がスムーズに行くよう、一筆書いてやるから。とにかく無事に辿り着いて、まず、屋敷の連中に、今の屋敷の状態は別世界では常識なのかを教えてやってくれ」
アマト氏がポカンとした。
ちなみにロブさんは、放心状態です。話についてけてなさそう。
ソードがようやく手を放したので頭をなでた。
「……そこまで食い違ってないぞ? 輸送車とバイクを作ったが、それは……ちょっと派手だが、なくはないだろうし。コレだって、別世界でもあっただろう?」
アマト氏に手首を突き出した。
「あ! スマートウォッチしてる!」
「これはあったよな?」
「あったあった、俺、持ってなかったけど。〝スマホ〟は作った?」
「作ってない。アレは、両手が塞がるからな。私たちは冒険者だから、両手は攻撃のために空けておかないといけないのだ」
「そっかー。〝スマホ〟はほしいよなー。俺、〝スマホ〟の〝アプリ〟も作ってたよ」
へぇ。
私はスマホアプリはなかったなぁ。
「アイデアがあったら道々考えて、拠点に着いたら伝えてくれ。一応、『勇者』として召喚されたんだから、それなりにチートスペックなワケだろう? ヘタレなのはどうしようもないとしても、投げたら思った部分に当てられて、撃ったら外さない、あと、逃げ足を速くすれば死なないだろうからな。……あ、そうか。あと、念のため、応急キットだ」
応急キットを渡した。
「回復薬は、この世界仕様だ。だが、余程の怪我の場合のときのみ飲め。普通は、治療薬で済ませろ」
「へー! やっぱあるんだ回復薬」
面白そうに見て、しまった。
そして、じゃあな、と手を振って別れた。
なんとか辿り着いてほしいけど、送るほど親切ではない。だって、今日会ったばかりの人だし。
この世界の厳しさに挫けないよう、祈ってます。
「おい」
……って考えてたら、コワイ声でソードが呼んだ。
「なんだ?」
「お前、本当に俺にちゃんとした別世界の情報を教えてるんだろうな!?」
「当たり前だ。確かに、空想のお話もあるが、知識は正しい。リョークだって、現実にもあったぞ? やつはそこまでその話のファンじゃなかったから知らないだろうが、ファンがリョークを作って展示したって記事だって読んだ! シャールも、外見はともかく、中身は戦車…馬のいらない馬車として、自衛隊…騎士団のような連中の所有物だった。ブロンコはそもそも私が乗っていたと言っただろう? 一般的じゃないにしろ、私はちゃんと知識に基づいてこの世界で作りあげてるのだー!」
そもそもが、この世界自体の仕組みにだって興味を示さないくせに、別世界の情報を疑ってどーすんだ。知ったところで行けやしないのに。
そして、行ったところで暮らせない。魔素のない世界で、戸籍のない金もない住所不定無職がどうしろと。
「空飛ぶ箒は?」
「…………」
顔を背けた。
……なぜ空飛ぶ箒に拘るんだ。
確かに、それは見たことないけど! でも、お作法だもん! 西欧の大国にはきっと乗ってる人がいるんだもん!
「空飛ぶ箒!」
ガシッと頭を鷲づかみ!
アイアンクロー!!
「ぎゃー! ……見たことないけど、きっといるんだ! 絶対いる!」
「いねーよ!」
「ぎゃー!」
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