第131話 勇者をご招待したよ

 話の流れで、なんとなく借りた家に招待。

 アマト氏、トイレに行ったと思ったら、走って戻ってきた。

「ト、ト、トイレ! トイレが! 水洗‼」

 そんな驚かなくても。

「私は潔癖症なのだ。元、貴族でな。汚いトイレは許せないのだ」

 トイレは大体家の外にある。というか、共用なんだけど、私は嫌なので庭に作ってしまう。

 スラリンは、私達がトイレに行くといつの間にかトイレに行き、綺麗にしてくれる、とっても良い子だ。

 ソードも最初だけ嫌がったが、スラリンの良い子さに、何も言わなくなった。そして、「ホラ、これも食えよ、出したモノばっかじゃなくて」って言いながらそっとご飯をあげているのをよく見かける。

 ソードは魔物に対してツンデレ過ぎるよな。ホントは可愛いって思ってるくせにー。

「というか、アマト氏、お前、別世界の人間だったんだろう? 同じ場所かはともかく、ある程度似通った世界観なら、私と同じようにトイレが汚いとか風呂に入ってない連中ばっかりで臭いとか思わなかったのか?」

 ギクリ、と揺らすアマト氏。

「いや、ハハハー……。……俺って、プログラマーだったじゃん? 社畜だったから、一週間どころじゃなく泊まり込んで、気付いたら風呂に入ったの何日前? みたいなことザラだったし、周りもそんな連中ばっかだったから特に臭いとか思わなかったし、田舎出身で登山とかよく連れてかれたから、トイレ汚いとかボットンとか平気だったし?」

 マジか。ガーン、とショックを受けた。

 ソードが笑いながら私の頭をなでる。

「やっぱ、インドラだけなのかよ。……コイツ、凄まじい潔癖症で、最初に中堅冒険者が泊まる宿に連れてったら、プルプル震えながら泣き出したんだよ。狭くて汚い、コワイとか言いながら」

「え。そんなんじゃプログラマーなんてやってけないぜ? それこそ、デスク下に段ボール敷いて寝たりしてたし! Gとかネズミとか走ってても、気にならないレベルになるのが、真の社畜!」

 いえ、私、社畜じゃなかったらしいので。システムエンジニアではあったらしいけど。始発で行って終電で帰り、休日は持ち帰って仕事、ってのを続けてたら身体壊したな……ってことを今思い出した。

「過信するなよ? そんなん続けてたら死ぬぞ」

「そう、死んでこの世界に来たのかと思った。……インドラさんは、転生したってことは、やっぱお亡くなりに?」

 腕を組んだ。

「そこは思い出せてない。ただ、何かを強く願った気がするのだが」

 アマト氏が曖昧な顔になった。

「……そっか。じゃあ、思い出さない方がいい記憶かもだね。うん、思い出さない方がいいよ」

 なんか同情されたっぽい?


 昼食になるが、早速途中買った魚で料理を作る。

「うわー、すっげーいい匂い! 俺、この世界に来て、初めて美味そうって思った」

「アマト氏、料理は作るのか?」

「そこそこかな。泊まり込みのときは外食ばっかだから、逆に手料理が恋しくて、自分で作るようになった。けど、ソレって調味料とか器材とか揃ってたから出来るものだったって、この世界に来て思い知った」

 ふーん。まぁ、そうか。

「もしかして、醤油とか味噌とかもチート出来てたりする?」

「残念だが、無理だ。似たものは作ったが……。アレは[麹菌]がないと難しい。そして、別世界で使用されていた[麹菌]は、何百年くらいの年月をかけて培養されてきたバイオテクノロジーの粋を極めたものらしくてな、土壌菌を使うと、カビ臭くて食べられたものじゃないらしいのだ」

「マジかよ。……あー、憧れの醤油……」

「似たものはある。風味が違うのだがな……」

 蛋白質と炭水化物をアミノ酸やブドウ糖に変える酵素は発芽させたりワームの消化液で補えたりしたけど、麹菌使うと特有の匂いが発生するぽくて、味わいが違うんだよね。現在、一番成功したものを使ってるけどね……。

 と、いうことで。

 昼食に、魚のガラから取った味噌汁! と、魚の塩焼き、大根(風、根菜)おろしに醤油を垂らしたもの! ……に、パン! の、ここに米があれば! というラインナップだった。

「惜しい!」

 アマト氏もそう思ったらしく、言ったら二人に怪訝な顔をされてた。

「御用聞きの商人曰く、[米]は、見つかったらしいのだが、途中で仕入れて拠点の屋敷に運ばれるらしい」

「俺、インドラ様の下僕になっていいですか?」

 って間髪をいれず言われた。また下僕候補が……。

「……構わないが、役に立てよ?」

 と、返しておく。

 勇者が下僕。ロブさん、あきれてるぞ?

 手を合わせ、

「いただきまーす」

 とは、アマト氏。

 早速、焼き魚に大根おろしを乗っけて食べた。

 …………後、泣いた。

「……うまい。…………すげー、久々、うまい。懐かし…………」

 そんなことを言いながら。

 ロブさん、なんとも言えない表情になり、俯いた。

 私とソードは顔を見合わせ、

「……うまいか?」

「うん」

 そんな会話を交わした。

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