第129話 勇者のお話をきいたよ

 勇者にされた召喚者の一人、アマト氏は、やはり別世界から来た異世界人らしい。

 社畜で、会社で一週間徹夜で仕事(プログラマーだったらしい)して、ようやく家に帰って寝ようとしたらこの世界に来てて、夢かと思ったらしい。そりゃそうだろう。

「……あのまま働いてたら遅かれ早かれ死にそうだったけど、まさか、こうなるとは思ってなくて……」

 ラノベは、たまにもらえた休みとか休憩の合間に読んでたらしく、この展開は……ヤバい! と思って、とにかく勇者になるのを回避しようと思ったけど、王様が割と良い人(って、ソードも言ってたね)だったのと、ラノベと違ってステータスが見られない! レベルがない! 職業とかランクがない! で、逃げる口上が見つからなかったそうだ。

 そして、魔法陣が呼び出した人は全て勇者。自分達が呼び出したわけではなく古の魔法陣が選んで勝手に呼び出している。だからと言って放逐するのも可哀想なので、せめて手を貸そうと王宮がサポートしている。……という話をされ逃げられなかった、と語ってガックリと肩を落とした。

「そうか。まぁ、お前の気持ちは解る。

 勝手に呼び出しておいて、生け贄のように「魔王を倒しに行け」など、義理もなければ恩もない人間に言われて唯々諾々と従う阿呆はそうはいない。しかも「呼んだのは自分ではない」というのなら、放っておいてくれと言いたいだろう。

 恩を押し売りしつつ、魔王を倒しにいくほか選択肢を与えてないところが嫌らしいな」

「そうなんですよ! あ、そう言って反論すりゃ良かった。今更遅いけど……」

 フェードアウトした。

 肩を落とす勇者らしき青年に、ソードもめっちゃ同情したらしい。

「……ま、王宮も事情があって召喚者を魔王討伐に向かわせてるんだ。

 やりたくはないだろうが、それこそ古の文献に書かれていて、やらないと王都が滅びるらしいぜ? 実際のとこ、逃げ出した勇者もいるだろうし、そもそも今まで魔王に勝ったなんて話聞いたこともないし、滅びてないんだから止めりゃいいんだろうけど……。

 王宮は、厄介なところだからなぁ、数人を犠牲にして王国が成り立てるのならば、リスクを冒して数人を犠牲にしない方策をとるより、安全を取って犠牲にする方を選ぶ連中の集まりだ」

 とかソードが言い出したけど。そしてそれに呆れ怒りの表情になった召喚者だけど。

「でも、王は、大勢を犠牲にして自分の身を守るじゃないか。

 騎士団という軍隊は市民ではなく王を守るために戦うのだろう? 自分の安全のみ計り、他の連中は多数を救うために犠牲になれ、とほざいても、納得するとは思えないが」

「そう! そのとーーーり! 自分が行って魔王倒してこいや!」

 めっちゃ怒ってる。

 ちなみに、お供と言う名のお目付役らしき若者が後ろにいるけど、いいのかな?

 じーっと見てたら、頭を下げてきた。

「……私は、家族に売られて今回の供になった者です。王に義理もなければ、家族には恨みしかございません。

 正直に申し上げますと、勇者様が勇者を辞めて逃げていただければ私も無駄死にせずに済みますので、積極的に協力致します」

 わぁ。

 召喚された人も可哀想だけど、お供の人も可哀想だー。








 ソードが困った顔で頭を掻いた。

「……で? 俺達にそんな話をしてどうすんだ? 冷たいかもしれないけどよ、俺達、そもそもそんな話を聞かされる立場にねーんだけど……」

 って、ソードにしては意外と冷たいこと言ってるぞ。まぁその通りだが。

「あ、すみません。違います。勇者って言われたから反論しただけで、話は全然違います。

 ……あの……

 貴方方も、俺と同じ世界から来た人なんですか? って、お聞きしたかったんです。

 英雄とか言われてて、でも、魔王は倒してない。何か、逃れる抜け道があるのかなーって思って、それが聞きたくて……」

 なるほどな。

 勇者として向かわせられてるときに、どうやら同郷らしき人間に会った。だがソイツは英雄と呼ばれ、この国で持て囃されている。ならば自分も魔王を倒さずにこの世界でこの国でやっていける方法があるのかもしれないと思ったワケだ。

「いや? 俺は違う。俺はこの世界しか知らない、地元民だよ」

 って言った後チラッと私を見た。

「私も、生まれはこの国だ。出生は確かなので疑いようがない。ただ、お前のいた世界と同じ場所かどうかは知らんが、記憶を持っている」

 召喚者とお供の人、固まった。

「……転生者?」

「違う、と思いたいが、この世界の精神界の者から「魂渡り」をした形跡があると言われたことがある。……だが、記憶にある私の性格や癖と、現在の私の性格や癖は全く違う。別人と言っていい。

 だから、私の感覚としては『記憶がある』だけなのだ。

 そういうわけで、申し訳ないが、ソードに聞いても抜け道はわからない。私もソードに聞いたことがあるのだが、〝勇者〟と〝英雄〟は全くの別物だそうだ」

 ソードが合点がいったような顔をした。

「あ、お前達のいた世界って、勇者と英雄がイコールなんだ?」

 私と召喚者が曖昧に頷いた。普通はそうだと思うんだけどね。

「つか、喋ってて決意出来たのでもういいんです。俺、やっぱ勇者にはならない。ロブさんが見逃してくれるっていうのなら、俺はこのまま逃げてどっかでひっそりやってこっかなーと思ってる」

 お供の人改めロブさんを振り返った。

「どうぞ。私も死んだことにしてください。貴方がひとまず落ち着いたのを見届けてから、行方をくらまします」

「ありがとう」

 解決したぽい。私達、何もしてないけど。

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