第128話 勇者には特徴があります
ソードを見た。めっちゃ警戒してる。つか、手が柄にかかってるし。
瞬殺する気だ!
「おい待て。会話したいぞ私は」
「……しない方が俺の心の安寧が計れるんだけど?」
私じゃないのか。自分なのか。
「悪意を感じてないならいいじゃないか。精神界の者や、ダンジョンコア様にも感じなかっただろう?」
「………………」
ハァ、とため息をついて、ソードは構えを解いた。
勇者と呼ばれた……見た目二十代後半くらいの若者も、いきなり斬りかかられそうになったのに驚いたのか勇者と呼ばれたのに驚いたのか、すっごい目を丸くして固まってる。まぁ、どちらにしろ驚くよね。
「用があってあとをつけたんだろう? 戦うのか、会話するのか、両方か、どれだ?」
「…………会話の方で」
「では、こんにちは」
「……こんにちは。
……あの……
俺は、勇者では無くって、ですね……」
ソードが怖い声で遮った。
「嘘をつけ。お前、その特徴、黒髪に凹凸の少ない顔、華奢な身体がその証拠だ。歴代の勇者は、全員とは言わないが、その特徴を持つ者が多かったと伝えられているんだよ」
わぁ。
私は彼の顔を見て、私のいた別世界の人間の特徴を備えてて驚いたんだけど、それって、勇者の特徴だったんだー。
「……確かに、『〝勇者〟として魔王を倒しに行け』とか呼び出されていきなり言われましたけど、それって、一方的だし、もう一人呼ばれた奴が乗り気だから、ソイツだけでいいじゃん、とも思ったし……。断ったら殺されそうだったから一応頷いたけど、王都を出てから、勇者とは名乗ってません。だって、いきなり知らない人……人か解らないけど、戦うとか、俺、そもそも別の世界に居て、そこは平和だったし戦うなんてとんでもない、人殺しとか無理だし……」
わぁ。
すっごい常識人(別世界の人としては)が現れたぞぉ。なんでこの人召喚されたかな? 絶対人殺し無理そう。逆に、こんな世界にいたら早々に殺されちゃうと思う。
ソードが唖然としてる。
「……お前、俺達が王都にいたとき、会おうとして、俺達が借りてる屋敷に押しかけて、屋敷破壊してかなかった?」
あ、そんなこともあったね。海の町に浮かれてて忘れてた。
他称勇者さんはキョトンとしてる。
「え? 知りませんよ。というか、王都にいたんですか?
俺は、王宮から出たらすぐさま王都を出てここにやってきたから、貴方方がいたことなんて知らないし、そもそもそんなことを聞けるような知り合いは誰もいないし。くどいようだけど、別の世界にいたので、知り合い一人もいないんです」
ソードもその弁明が事実だとわかったらしい。
確かに、私達はシャールに乗ってきたりブロンコに乗ったりしてきた。その間、誰かが後ろをついてくることはなかったし、そもそも私達の速度についてこられる奴なんていないし!
私達に会うには、王都を先に出て、ここに先回りしていないといけない。でも行き先なんて言ってないのだから、ここに来るかなんてわからない。
会いたがって屋敷を破壊したのは、彼じゃない。
「勇者は、もう一人いるのか?」
私が聞いたら頷いた。
「ちょっと……厨二病患ってるような奴で……あ、厨二病、わかります?」
「右腕にダークなんちゃらを封印している奴のことだろう?」
「そう!」
ソードが目を丸くした。
「え? 自分の右腕に封印してるの? デーモンとか? 危険じゃない?」
「あらゆる意味でな。……で、ソイツは今も王都にいるのか」
「さぁ……。でも、魔術の詠唱覚えられなかったから、飾りのいっぱいついた剣をもらって振り回して騎士団長に挑んでましたけど」
わぁ。
ちょっと、いくつなのかなそのお子様は? それとも逆におじいちゃんの方かな?
もう、お年寄りで暗記なんか何十年もやったことないわい! みたいな、厨二病患者……それって最悪じゃないか?
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