第111話 昔話<ソード視点>

 乾杯して、飲んだ。

 …………うん、ま、冷やした分、飲めるな。

 ちょっと酸っぱいけど、そういうものだと思おう、うん。

「あ、おいしい! 冷やしてると、飲みやすいわね」

 カレンが喜んだ。


 暫くして、カレンのおすすめの料理が並ぶ。

 一口食べて、止まった。

 …………うん、舌が贅沢になってるな、俺。

 そうか、これが成功したってことか、いや違うな、インドラのせいだ。

「……それにしても、変わらないわね。見てすぐわかったわ」

 カレンがまじまじと俺を見て言った。

「え? 俺ってそんなに老けてた?」

 ちょっとショック。

 インドラから「若々しさが足りない」って言われてたけど、昔を知ってるやつにまでそう言われると、結構ヘコむ。

「違うわよ、逆。全然老けてないじゃない」

「……そこまでピチピチじゃないよ? 俺」

 大分、大分回復したってインドラが言ってたし、俺もそう感じるけど、やっぱ、本物の十三歳が隣にいると、十三の頃と変わらないって言われてもなー…………あ、昔ッから俺、太陽光浴びてた、だから昔ッからお肌が荒れてたのか。

「……え? なんで落ち込んでるの?」

「…………いや、昔から俺って肌荒れしてたのかなー、って考えた」

 カレンが笑う。

「男のくせに、肌荒れなんて気にするの? やっぱり変わってる、ソードって」

「……俺も気にしてなんかなかったよ。でも、俺の相棒が、俺のこと四十歳とか言い出して、すっごい気にしだした」

 カレンがまた戸惑う。

「……パーティ、組んだんだ?」

「あぁ。ようやく見つかった」

 本当に、ようやくだ。

 十二年かかって、ようやく。

「……どんな子? あの、一緒にいた子よね? 随分若そうだったけど……」

「実際若いよ。十三歳になった」

 カレンが絶句した。

「まぁ、でも、中身はおっさんみたいだけどな。しかもドS。アンデッドのダンジョンで、俺たち二人だと怖がるやつがいないからつまらないとかで、高飛車な、でもおびえまくって全く役に立たない神官に声かけて、おびえて泣きじゃくるのを見て楽しむような最低なやつだよ」

 ……本当に、アレは、俺の概念をひっくり返してくれた出来事だ。

 俺目当ての、役に立たない高飛車な神官を連れて行き、ソイツをかばうどころか積極的に盾にしようとか、わざと怖がらせるように至近距離で敵を倒すとか、自分を助けろと命令してきた女に蹴りを入れて、お前を盾にしてやるとか言い放つとか、すっげーよな。

 俺、今までの自分が間違ってたよ、うん、こうやって扱えば良かったんだ、って思い知った。

「……どうしてそんな子と? あなたなら、誰とでも組めたじゃない。選り取り見取りだったのに、どうしてそんな子と組んだの?」

 非難するような口調にムッとしたが、よく考えれば俺が『そんな子』みたいなこと言ったんだった。反省。

「いや、すまない。『そんな子』って言われるようなやつじゃない。大切なやつを大切だって思える、お人よしのまめな世話焼きだよ。確かに、ドSだけど、相手が悪いんだぜ? つっかかってきたり嫌味を言ってきたりするから、アイツが煽りスキル駆使して相手を底の底までへこませるだけだ。優しいやつには優しく出来る、いいやつだよ」

 弁解したら、カレンが黙った後うつむいた。

「…………そう、なの。ごめんなさい、嫌な言い方したわね」

「いや、俺こそ悪い。アイツは仲間だから、つい、軽く論うけど、でも、それはアイツの一部分で、いいやつってのが大前提だ」

 今まであいつの話をするのって、メイド嬢とか使用人とかだからなぁ……。

 信者があまりにもアイツを大絶賛するから、ついつい反論してやらかしたことを言っちまうけど、知らないやつはそこだけ言われたらひどいやつだって思うよな。

「――いいやつだよ。いつだって、俺の心配をしてくれてる。一緒に居て、気楽だな。『こんなふうに考えていいんだ』って気付かされる。……初めて、仲間が出来た、って感じられたやつだ」

 そう言ってカレンを見たら、カレンが曖昧な顔になっていた。

 ――あぁ、そうか。

「……お前たちには悪いことしたって思ってる」

「…………え?」

「俺は、あの時まだ子供で、初めて出来た〝仲間〟に浮かれた。だから、お前たちの気持ちなんて考えず、俺がどうにかすりゃいい、って、それだけしか考えてなかった。そうじゃなかった、って、ようやくわかった。…………いや、ダメだったな、どっちみちダメだったか。結局、支え合うことは、お前たちとは出来なかっただろう」


 ――俺は物心付いた頃には既に孤独で、村で殆ど無視されてきてた。

 そんな俺に「一緒に冒険者になろう」そう声をかけてくれた連中がいて、心底うれしかった。

 だから、俺が頑張ってコイツらを守れば良い、そう考えてた。

 そして、連中も、カレン以外は、俺が頑張ってるんだからそれでいい、そう考えてた。

 カレンは、俺についてきてくれたが、ついてくる〝だけ〟だった。

 そしてそのことがカレンを苦しめ、傷つけた。

「もう、ついてくことができない。私のいる意味がわからない」

 とうとうそう言われて、俺は、パーティを脱退することにした。

 仲間はとうについてこれず、俺が倒して稼いだ金で暮らしてるだけだった。

 ダメにしたのは、俺だった。


「……ま、俺がいなくなった方がまとまっただろ? 他の連中、どうしてる? 今日、声をかけてくれたら良かったのに」

 明るく言ったら、ますます曖昧な顔になった。

「…………うん。パーティは、ソードが抜けて、すぐ解散した。私……他の連中とは、うまくやっていける自信が無かったから、私も抜けて、自然と解散。サムは……実家に帰ったと思う。元々、みんなに引きずられて冒険者になったみたいだし。

 ジャックと、トムは…………冒険者を続けようとしたけど、うまくいかなくて、借金奴隷になって、そのまま死んじゃった。デンは…………。…………盗賊になった、って、風の噂で聞いた。生きてるのかな、どうだろ?」

 …………。

「…………そうか」

「うん」

 …………そういや、知り合ったやつ、何人も死んでたな。

 カレンが生きて冒険者やってるからって、他の連中も無事だなんて、思うのがおかしかった。

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