第112話 過去は過去だ<ソード視点>

 カレンが気まずい雰囲気を払うように明るい声を出して話題を変えた。

「あ、私ね! 今のパーティで、Cランクになったの!」

「へぇ。じゃ、ダンジョン試験クリアしたのか」

「うん! ……ま、王都のダンジョン踏破したソードには敵いませんけど?」

 苦笑した。

「俺だってソロなら無理だったよ。特に最深部はな。インドラがいなけりゃ無理だった」

 カレンが驚いた顔をした。

「……その子、強いの?」

「俺と戦ったら勝つのはアイツだな」

 絶句してる。

「剣でも魔術でも俺より上で、さらには魔導具も作れる、まさしく【オールラウンダー】だ。……そんなアイツでも、俺にしか出来ねーことがある、って言うんだよな。だから、支え合える。アイツが望むことを、俺はやれるから。だから、アイツにとっても、俺は最高のパートナーだ」

 もちろん、俺にとっても。

 アイツは結構なマメな世話焼きだから、俺がその世話を喜んでさせてやるさ。

 アイツが作る料理や酒を、全部うまいと思いながら食べ、アイツが作る玩具を喜んでもらって遊ぶ。

 虫から出来た服だって、アイツが作ったんだから喜んで着てるぜ?

 うん、相互関係、出来上がってるな!

 カレンが、乾いた笑い声を立てた。

「……なんか、惚気聞いたみたい?」

「いや、そんなんじゃねーし」

 女だけど、すっげー男体型だし。

 微乳とか抜かしてるけど無だ、一もねぇ、ゼロだ。

 ついてない男としか思えねえ。

「わかってるわよ。……噂じゃ、【迅雷白牙】は男色に目覚めた、とか言われてるけどね?」

 イタズラっぽく笑った。

 そんな噂があるのかよ。

 それでもいいけど、いやよくねーな、男に言い寄られても困るし。

「男も女も興味ないから。……つーか、ま、そうだよな……。どう見たって、女に見えないよな……」

「え?」

「いや、インドラは女だよ。どこから、どう見ても、男にしか見えないけど、女だ」

「…………え?」

 カレンがまた曖昧な顔になる。

 手で制した。

「いや、言ってやるな。本人、さすがに気になりだしたらしい。絶壁どころじゃねぇ胸だし、脚で勝負! とか抜かしてるけど、小僧の脚じゃ誰も欲情しねーよバカ、とか思うけど、気にしてるらしいから、俺も何も言わないことにしてる」

 色っぽい仕草を、本人はしているつもり、らしいが、全く、これっぽっちも! 色っぽくないのが逆に憐れだ。

「あ、あはは……。そう、女の子、なんだ……」

「逆に気楽だよ。あんな、女だって言い張られても誰もが男だって思う女だから、色恋抜きで付き合えるからな」

「あ! そうなんだ!」

 急に声を弾ませてきた。

 ふと気付いて頭をかいた。

「……悪い。俺のことばかり話したな。お前はどうなんだ? 今のパーティで長いのか?」

「え? あ、うん。そうかな、長いかな……」

 歯切れが悪い。

 ……あまりうまく行ってないのか?

 でも、Cランクなら悪くないだろう。

 年齢を考えるとちょっと遅いが、逆にこの年齢でCランクにいけたのなら、安定しているパーティ、ってことだ。

「Cランクなら悪くないだろう? 安定しているパーティの証拠だ。……俺も、パーティを組んで初めてわかったよ。やっぱり、仲間同士、支え合いながらダンジョンや依頼をこなすのは楽しいし、安心する、ってな!」

「…………うん、そうだね」

 だよな。

 俺はようやくそれを実感出来たし、それがうれしい。

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