第94話 蜂蜜大好き!

 虫エリアに到着。

 ジャングルだ。

 ジャングルに虫、とか安直すぎない?

「とりあえずボス部屋まで行くか」

 ソードに言ったら、頭をかいた。

「まぁ、いいけどな。お前に興味があるのもあるぞ?」

「蝗虫の煮付けは食べない主義だ」

 とお断りしたら、拳固が来た。

「俺だって食わねーわ! そうじゃねーよ! ここはミリタリービーが出るんだよ!」

 迷彩柄の蜂?

 迷彩柄は好きだけどさぁ、興味あるとか、そこまででもー。

「倒したドロップアイテムは、蜂蜜だ!」

「よし、狩りまくろう。蜂は生き物、つまり、大規模真空魔術が効く。バッサバッサと狩りまくろう」

 即座に意見を翻したらソードが呆れた。

「途端に乗り気になったな……。でも、蜜なんて、お前、麦から作れるんだろ?」

「麦蜜と蜂蜜は別物だ。蜂蜜はな? 酒になるんだ。上質の蜂蜜は、上質の酒になる」

「よし! 任せろ! お前ほどじゃないにしても、俺も広範囲魔術は使えるんだ!」

 リョークも踊って戦意表明。

 皆、殺る気スイッチ入った!


 飛蝗や芋虫、蛾やカマキリ、蜘蛛階をすっ飛ばし、蜂蜜階へ。

「もう二階下でも出る。強いし集団で敵対してくるけど、俺らには関係ないだろ? 浅めの階は、他の連中の邪魔をするから下がるぞ」

 ってことで、ボス階手前で、蜂蜜採取、いや蜂狩り。

「フハハハハ! 私を『プーさん?』と呼ぶがいい! あるいは『青嵐さん?』でもいいぞ!」

 ハイテンションで狩っていく。

「おりゃぁぁぁあ! テメェ等、俺の酒になれーーーー!」

 ソードの心の声が、魂の叫びが、木霊する。

 一匹たりともリポップしないほどに、狩った。

「うん、昼になったので、飯にするか」

 時計を見て私が言うと

「そうだな。ついでに、酒を仕込んでくれよ」

 ソードが返してきた。


 せっかくなので採れた蜂蜜を使って作った。

 ハニースパイスグリルチキン(風)を焼いて、野菜と一緒に焼いたパンに挟む。

 ソードには、はちみつレモンハイボールもサービス。

 私はそれのウイスキー抜き。

「お前ぇ⁉ なんだよ、優しいじゃねーか!」

 いつも優しくないみたいに言うな。

 私は屋敷の使用人やベン君に、お前を甘やかし過ぎだと言われ続けているぞ。


 まず、酒を飲むソード。

「あっ! これ、いいな。 甘いけど、ウイスキーの味が引き立つぞ。 食前酒で軽く飲むなら、普通のハイボールよか、こっちの方が味が良い」

「上質の蜂蜜の味と香りは、ウイスキーと合うらしいぞ。 柑橘の酸味と香りも、どちらもより引き立たせるらしい」

 ソードがクイッと飲んだ後、私を見た。

「お前って、ホント…………。酒を飲むわけじゃねーのに、なんでうまい酒の味がわかるんだ?」

 まじまじと見つめられ、まじまじと見つめ返す。

「…………それは、たぶん。お前が何でも『うまいうまい』って飲んで食べるからだ」

「は?」

 ソードが呆けた。

「私の作る料理は、唯一絶対の美食じゃない。嗜好によって、好き嫌いが出るはずだ。そもそも、素材で好き嫌いするやつだっていっぱいいるだろう? レストランもそれを踏まえて、提供する場合に予約時点で嗜好と嫌いな食物を伝えてもらい、それでメニューを組む。…………お前は言わない。残さない、綺麗に、おいしそうに食べてくれる。『うまい』と言ってくれる。それはな? 作り手にとって、最高の勲章だ。金を積まれるより『うまい』の一言がほしいと、それは私でも、料理人でも、そう言う。実際、私が料理人の料理に『うまい』と言ったとき、彼は泣いた。…………私は彼の料理を一度も残したことなどないのにな」

「…………」

 ソードが、まじまじと見る私を見つめた後、ほほ笑んだ。

「そっか。

 んじゃ、俺ってよ、お前にとって、やっぱ、最高のパートナーなのか」


 …………とんでもないこと言い出しおったわ。


 プイッと顔を背けたら、抱きつかれた。

「おいぃ? そこは『当たり前のこと言うなバカ』とか返してくるんじゃねーのか?」

「知らん!」

「なんだよ? 照れてんのか? 俺のこと、最高のパートナーって、思ってるだろ?」

「知らん!」

 そんな、当たり前のこと、聞くな!


 ――そんなやり取りをしていても蜂はリポップしなかったので諦めてボス部屋へ。

 女王蜂だ。

 すっげーでっけー。

 しかも、フッサフサの豪華なファーが付いてるし!

「あ、私、このボスの宝箱の中身、わかっちゃったぞ?」

「え? なんだよ」

 木刀で一閃。

「[ローヤルゼリー]だ‼」

「……なんだよソレ」

 うーん、こっちの言葉で何て言うのかにゃ?

「うーん……〝クィーンミリタリービーのご飯〟、だな。花粉と蜜を食べた蜂が唾液と一緒にゲロッたもののはずだが」

「うーわ、お前の説明を聞くと、食べたくなくなる」

 なんでだよ。

「栄養価は高いはずだ。ミリタリービーにクィーンが付くのは、これを食べるか否かのはず……だが、ここではダンジョンコア様に召喚されるんだったな」

 話しながら宝箱を開けたら、入ってた。

「うん、やっぱりローヤルゼリー」

「何かに使えるのか?」

 手を顎に当てて考え込んだ。

「……うーむ。健康に良い、のは確かなのだが、栄養価が高いくらいだな。若い私たちには不要のものだ」

 ソードが目をパチクリさせた。

 後、笑った。

「お前、今まで散々俺をおっさん扱いしてきたのに、どういうことだよ?」

「実年齢を知らなかったんだ。そんなヒヨッコだとはな…………。ようやく半人前になるか? くらいの年齢じゃないか」

 今度は呆れた顔になった。

「え、お前のいた世界って、俺の年齢でそんな扱いなの?」

「そうだな、働き始めて三年目くらいか? まだまだ下っ端、上司にこき使われてるであろう年齢だ」

 ソード、ショックを受ける。

「この健康食品は、そうだな、四十歳を過ぎてからで充分だろう。そもそも私は[抗酸化]の薬を作ってるだろう? アレは、不老の薬だ。アレの方が効く」

「売りに出すか。お前のその言葉も添えようぜ」

 マジックバッグに放り込んだ。

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