第85話 ガテン系職業の肌年齢は
露店を冷やかす。
「うむ! うむうむ!」
「ん?
なんか興味あるのあったか?」
「あった! 香り付けや刺激のある葉や実の種類が随分と豊富だ!」
スパイス類は、伯爵領でもイースでも中々手に入らなかった。
ベン君から、仕入れて持ってきてあげる、と言われてたが、先にここで買って試してみよう。
「ねえねえ、綺麗なお姉さん、これ、少しずつ全種類ほしいなぁ。いくらくらいになるの?」
ソードが呆気にとられた。
「あらやだ! この子ったらませてるねぇ。これ? 全部の種類がほしいのかい?」
「うん、僕、料理を作る人なんだ。でね、ここのこれらを使ったら、きっとおいしく出来る!って、ピンときたんだ!」
体格の良い四十代くらいの女将さんと話し込み、これはこんな料理に合う、これはこんな味、と教えてもらい、全種類買った。
お金はソードが払ったが、ここで女将さん、ソードに気付いた。
「じ、【迅雷白牙】様⁉」
「パーティ名【オールラウンダーズ】のソードだ。コイツ、パートナーな。こんなナリでも、王室の料理人がはだしで逃げ出す料理を作れる凄腕料理人だ。ちょくちょく買いに来るかもしれないから、よろしくな」
「は、はい! それはもう、喜んで!」
女将さん、途端にカッチンコッチン。
「お姉さん、そんなに固くならなくていいよ。ソードはこう見えても良いやつだから、悪意を飛ばさなければ普通に話して大丈夫だよ? なんかすごいことしたらしいけど、僕の生まれる前の大昔……いたいいたい!」
アイアンクローがまた炸裂!
「残念ながらな? そんなに前でもないんだよ? お前が引き籠もってて知らないだけだからな?」
え、生まれた後の話だったのか……。
首根っこつかまれた。
「コイツの言う通り、普通でいいよ。単なる客だし。……コイツは口が巧いようだけど、失礼千万のやつで、腹の立つことを言ったりするかもしれないが、なるべく気にしないようにしてくれ。悪意はないんだ、たぶん」
女将さんはペコペコしてて、
「じゃあね、またね、お姉さん」
私は気軽に手を振ったが、首根っこつかまれたままソードに連れ去られた。
「お前、俺をいくつだと思ってるんだよ⁉」
店を離れた後、ソードに怒鳴られた。
「むむ……この世界の生物の年齢は読みにくいのだ。別世界基準だと、三十はとっくのとうに超えてて、うーん、四十前後くらいか?」
ソード、フリーズした。
いや、石化した。
…………まずい、上に言い過ぎたらしい。
「えーと……。別世界は、アンチエイジング技術がかなり進んでいてな? あの青年くらいで三十前後だな」
前方を歩く青年を指差した。
「あ、俺だけが老けてるように見られてるワケじゃないんだ」
ソードの石化が解除された。
「……ちなみに、いくつなんだ?」
恐る恐る訊いたら、沈黙した。
痛いくらいに沈黙した後、ボソリと
「…………二十五」
て、言われた。
「うん、よし、美容製品を作ろう。冒険者は、陽にさらされる職業だったのを忘れていた。太陽光線というのはな、複数の光線で構成されていて、その中には人体に有害な光線も存在するのだ。それを浴び続けると、肌がその光線にやられて傷んだり、光線に対抗しようとして、結果老化したりするのだ。必要な光線もあるので全く浴びないというのも良くないのだが、何事も物事には〝適度〟があるし、よし、私が肌を正常化するようにしてやるからな?」
慌ててまくし立てた。
ソード、泣きそう。
ごめん、そんなに若いと思ってなかった。
お父さんの感覚だったんだ、今まで。
だからいろいろ枯れてるのかと思ってたのに…………。
「俺、回復薬飲んだりしてるよ?」
とか、泣きそうな声で訴えた。
「残念ながらな、その〝お肌の老化〟は、正常な細胞の反応なのだ。だから、回復薬じゃ美肌は作れない。大丈夫だ、そのために薬師にいろいろ教えを乞うたのだ。今このときこそ、勉強の成果を試すときだ!」
大丈夫、ここは王都で、そこそこ物にあふれてる。
……とはいえ、ここの世界じゃビタミンC誘導体も、セラミドも、W377も手に入らない。
さすがに作り方がわからない。
レスベラトロールも良いらしいが、アレって農の大国産の葡萄じゃないとダメとか聞いたし……。
唯一セラミドくらいか……?
まぁ、お手入れしないよかまだいいよね、くらいにしよう。
変に美肌になられても怖いし。
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