第84話 王都で王道を楽しみたいのに
やってきました、王都。
すっごい高い塀に囲まれてる。
そして関所で長蛇の列だ。
シャールを出してるとさすがに邪魔そうなので、しまって、ソードが背負った。
さて、定番だとここらでチンピラ冒険者に絡まれるのがセオリーなんだが、一緒にいるのがソードだ。
一緒にいると魔除け以上の効果で絡まれない。
「お前、ちょっとブロンコで走り回ってこい」
「なんだよ? どうした急に」
「私の知ってる知識だと、こういう長蛇の列では、私のようなか弱そうな冒険者は、チンピラ冒険者に絡まれるのがセオリーなのだ。だが、お前がいると絡まれない。旅の大半絡まれなかったのも、お前と一緒にいたせいだ。そろそろ冒険者の定番を味わってみたい」
ソードの目が細くなった。
「何お前わざと問題を起こそうとしてるんだよ。……あっ、お前! こないだベンに絡んだ連中に出来なかったこと、やる気だな⁈」
う。
そ、そんなこと、ないもん。
「…………違うぞ? ちょっと、シチュエーションを楽しみたいだけだ」
顔をそらしたら頭をつかまれて無理やり向かされた!
「おーまーえーーーー? むしろ、お前がチンピラ冒険者だぞ? わかってるのか?」
「ち、違うもん!」
「そんなときだけかわいく言ったって通用しねーよ!」
アイアンクローだ‼
「ぎゃー!」
結局、ソードと一緒に並んでた。
何も起きない。
ぶーぶー。
「お前といると、テンプレの展開を逃すんだぞ? 別に、拷問しようなんて思ってないぞ? シチュエーション! シチュエーションを楽しみたいだけだ。ホラ、あそこに見える冒険者なんて、いかにもテンプレの展開に持っていきそうな輩じゃないか? お前がブロンコで楽しんでる間、私もテンプレの展開を楽しみたいんだー! ……いたい!」
拳固が来た!
「お前って、つくづく! 人生なめてるよな⁉ わざわざガラの悪い連中に絡まれたいやつなんて、この世界中でお前だけだぞ!」
「ソードだって、その悪意の受信をシャットアウトしてシチュエーションを楽しむようになれば、ぐっと冒険が楽しくなったんだぞ? 相手がどんな悪意を持って挑んでこようが知ったことか! むしろどんどん来い! 私の人生を楽しむ糧にしてやる!」
「いや、俺、ブロンコ乗ってるのでジューブン楽しめるから」
つまんないやつだなーーー!
冒険者に向いてないぞ!
「……お前って、別世界の住人に向いてるな。生まれた場所を間違えたな。あっちはお前みたいにホドホドに人生を楽しむ輩がたーくさんいたぞ?」
「あぁ……俺もな、お前の話を聞いてると、薄々そんな気がしてたんだ。ブロンコみたいな、シャールみたいな乗り物があって、今飲んでる酒以上にうまい酒がゴロゴロしてる、ほとんど貧富の差がない世界なんだろ? 俺、絶対、そっち向きだわ」
小市民の英雄様って……。ウププ。
って考えた途端に唇つかまれたし!
「にゅーにゅー!」
「お前って、表情で考えてること丸わかり」
*
ようやく順番が来て、冒険者カードを見せる。
途端に! 役人さんの姿勢が伸びた!
しかも敬礼された!
「【迅雷白牙】様! ようこそいらっしゃいました! お声がけいただければ、すぐにお通しいたしますので、今度から是非! お声がけ下さい!」
唖然。
私は口を開けて役人を見て、ソードは困った顔をした。
周りもすっごいザワザワしてる。
横入りに対する抗議かな? と思ったら、「【迅雷白牙】様だってよ……!」って声が多数。
「いや、俺、パーティを組んだんだ。コイツ、俺のパートナーな? これからは【オールラウンダーズ】で呼んでくれ」
「え…………」
なぜか、周り中、絶句。
え、何?
オールラウンダーズ、ダメ?
結構マシなネーミングだと思ったんだけどな?
「かっこ悪い名前だったか?」
首をかしげたら、我に返った役人がブンブン首を振った。
「い、いいえ! で、ですが……どうせなら【迅雷白牙】様の二つ名をどこかに冠した方が……」
今度は私がブンブン首を振った。
「そんなかっこ悪い名前、イヤだ‼」
途端にアイアンクロー‼
「俺も、オールラウンダーズは気に入ってるんだ。いかにも〝俺たち〟らしいネーミングだからな」
私がぎゃーぎゃー言ってるのに、全く動じず手を緩めず役人と話してる。
役人がびっくりしているぞ!
アイアンクローされたまま門を抜けた。
完全に抜けて、ようやく手を離してくれたよ。
頭をなでた後、顔を上げて、驚いた。
ファンタジー!
ファンタジーな世界だ!
「……おぉ!」
ソードが笑う。
「お、ようやく物珍しいって顔をしたか」
「うむ! これは、私のイメージしていた通りの光景だ!」
道は整備されていて、馬車が行き交ってもかなり余裕がある。
道を歩く人々は小汚くない。
建物が高い。
その建物は、単に穴が空いてる四角い家ではなく、木や石で装飾されており、窓は木窓だったり、硝子窓だったりしている。
単に整備されずに残った雑木、ではなく、計画的に植林された植物が街を彩っている。
街に川が流れているのは、たぶん上下水道なんだろう。
「うむ! 清潔そうな街だな!」
「まぁ、今まで回った町に比べたらな……」
ソードがつぶやいた。
ソードを見たら、苦笑している。
「でも、ハッキリ言や、拠点の屋敷に比べたら、今までの町に毛が生えたみたいなモン。お前が納得するレベルじゃねーよ」
そっか…………。
期待値下げて覚悟を決めておこう。
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