第83話 Bランク試験を受けよう(後編)

 一時間後。


 発動した。

「おぉ!

 おめでとうございます‼」

 思わず拍手したし、魔術師たちもやりきった! みたいな顔をしていた。


 お! 出てきたぞ、なんか。

「……おやおや、久しぶりに呼ばれて来てみましたが、つまらなそうですねぇ。欲望が少ない」

 おぉ?

 会話出来るタイプだ!

「こんにちは」

「おや? 貴女……」

「五分しかないとのことなので、倒すのも含め、挨拶と軽い質問をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

 遠景で、ソードが額で手を打ってる。

 周りは呆気にとられてるし。

 いや、会話出来るならしたいじゃん?

 私、この世界で人間以外とも会話出来るって知って、会話したくて堪らないんだから。

「初めまして、お嬢さん。私は、名も無きデーモンでございます」

「私は、インドラと申します。あなたは、どちらからいらっしゃいましたか?」

「精神界、とでも呼びましょうか。物体に囚われない、そんな階層からやってまいりました」

「それはまたすごいところがこの世界にはあるのですね。きっと時間の概念がない世界なのでしょう」

「おや? ……さすが、物質に囚われながらもそれほど巨大な魔素を持つお方だ。その事を理解しておられるのですね」


 ん? んん?


 今、大事なことを言った気がする。

「魔素は、物質では、ない?」

「おや、ご存じありませんでしたか」

「魔素の存在を最近知ったもので。以前はそもそも魔素すらない世界にいました」

「そうでしたか。『精神渡り』をしたので、物質界にいながら魔素を纏わせているのでしょうかね。非常に興味深いお方だ」

 ニコリと笑いかけられる。

 うむー、もっと会話をしたいが、ソードが「巻け!」というジェスチャーをしてるので、そうも言ってられないらしい。

「私も興味深い。の、だが……。……ところで、貴方を倒した場合、貴方はどうなる?」

「倒し方によりますが、物質界の者には私たち精神界の者の完全破壊は無理でしょう。せいぜい物質から精神に還す、くらいが関の山でしょうね」

「なるほど。ずっと話していたいのだが、そろそろタイムオーバーだ。ここは物質界、時間の概念が存在する。……いつか、私が呼び出したら、応じてくれるだろうか?」

「もちろんですとも。再会を楽しみにしております。……ですが」

 デーモンの笑みが深くなった。

「あなたを物質の枷から外して、精神界にお招きする、という方法もございます。私としては、そちらをオススメしたいですね」

 魔素が膨れ上がった。

 お、本当に脅えないな、ヨシヨシ、ウシシ。

「私に脅えない貴方に、私の本気をお見せしよう」

 私も魔素を集める。

 フンワリさんは、今では「おいで」とちょっとたぐり寄せればごーっそりとやってくるほどになった。

 だから、すっごい集まってくる。

 デーモンからまでも。

 デーモンの笑みが一瞬消え、次にはまた笑顔が戻ったが、それは諦観の笑みだった。

「……参りました。私は愚かにも実力の一端のみを見て、貴女を判断してしまっていたようだ。完全なる破壊をされても、何も申し上げることはありません」

「いや、私が困る。私は知識に貪欲だ。だから、また会おう。今は、一旦精神界に戻ってくれ」

 木刀で一閃。

 それでデーモンはかき消えた。


 試験は終わったと思うが、私は無事Bランクに上がれるのかな?

 って考えながら待ってたら、呼ばれた。

「Aランク試験、合格だ」

 そっか、良かった、無事Aランク試験合格……んん?

「今、Aランク試験、と言ったか?」

「お前が倒したのは、Aランクのパーティが倒せるかどうかの魔物だ。最低でも光魔術の遣い手がメンバーにいなければ話にならないし、それだけでももちろんダメだ。受肉したデーモンの攻撃を抑えつつ、最高の光魔術で仕留めるのがセオリーだろうな。たった一人で倒したのは、現在、【迅雷白牙】のみだ」

 へー。

 そーなんだー。

「……そのデーモンを、魔術も使わず、たった一撃で倒すとは……」

 ソードが来た。

「まーな、俺とコイツが戦った場合、最後に立ってるのはコイツだろうな。一度殺されそうになったしな」

 前に、ろくでなし冒険者をかばった件か?

「アレは、お前が悪い。あんなろくでもない冒険者をかばうからだ」

 試験官たち、呆気にとられてる。

「……それはまた、凄腕の冒険者を見つけたな」

 凄腕って、私のことかな?

 うむ、いい表現だな!

 腕を組んでふんぞり返ったら、頭を押さえられてガシガシなでられた。

「かなり病んでるやつだけどなぁ。魔物に優しいくせに、礼儀知らずの人間には容赦ないっつーな」

「なぜ私が戦意のない、脅え恐れている魔物を容赦なく殺し、殺そうと向かってくる、礼儀知らずの人間に優しくせねばならんのだ?」

「……まぁ、こんなやつだ」

 私の問いに答えず、ソードが試験官に向かって言った。

 ともあれ、私はAランク!

 あと一つで追いつく!

 が!

「Sランクは難しいだろうな。ドラゴン、来襲しないかな? あるいはこっちから向かうか?」

「やめろって。寝た子を起こすな。Aランクまで上がれば誰も文句言わねーって。SランクとAランクの違いなんて、前回の戦いに参加したかしてねーかの違いしかねーんだからよ」

 そうなのか?

 そうなのか。

 残念だけど(ドラゴン退治も、Sランク到達も)諦めよう。

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