王都編

第82話 Bランク試験を受けよう(前編)

 途中町で、

「お、ちょうどBランク試験やるってよ。参加してこい」

 って、お祭りやるから参加しよ? みたいなノリで言われた。

「…………。Bランク試験は、またダンジョンか?」

「いや? 魔物を倒すんだよ。何が出てくるかはそのとき次第だな。ま、何が出てこようがお前なら余裕だろ」

 …………。

「私は、脅えた魔物を倒したくないのだが? 無益な殺生はしたくない」

「完全に従えりゃ、合格に決まってんだろ」

 って言われたが……。


 ――Bランク試験に挑むのは私を含めて三組だ。

 よほど自信が無ければ挑まないらしい。

 なぜなら死ぬから。

 冒険者ギルドで申し込んだら、絶句された後

「……あの、試験はお一人でになりますが?」

 と当たり前のことを訊かれた。

「あぁ、知ってるぞ? コイツはもうSランクだから、私もとっとと追いつかないといけないんだ。でも、ドラゴンは次回また王都を襲うのか? となると、Aランク止まりだな」

 ソードが深いため息をつき、受付嬢、絶句。

「…………かしこまりました。試験を受領いたします」

 で、試験が受けれることになった。


 私は最後らしい。

 「できるだけ強くて脅えない魔物にしてくれ」って念を押し、待機。

 途中でソードが何度か呼び出されてる。

 最後はもめてた。

「特級は、白金貨だぞ? 払えるのか?」

 とか聞こえてきて、ソードが回復薬らしきものを渡して金を受け取ってた。

「んんー? どうした?」

「お前の作った特級を売ったぞ」

 って言い出した。

「別にいいぞ。……って、お前専用のを渡してないだろうな?」

「当たり前だろ。俺の細胞になったらお互い嫌だろ」

 そうよね、私も嫌だね。

「怪我人が出たって事か?」

「まぁな」

「お、そうか。なら、これもおまけで付けてやれ」

 傷薬と熱冷ましと化膿止めを渡した。

「おい……」

 ソードが渋い顔をした。なんでだ?

「前回の人体実験者の結果を見る前に去ったからな。今回は知りたいから、教えてくれたら無料でやる、と伝えて渡せ」

「…………了解」

 ソードが頭をかきながら出て行った。

 戻ってくる前に、出番が来たらしい。

 試験官が呼びに来た。


 闘技場のような場所に来た。

 ただ、観客席はなく、ドームだ。

「本当に一人でいいんだな?」

「当たり前だ。ちゃんと強い敵を用意したか? 気が強い、ってだけでもいいからな、脅えない敵を用意しろよ? じゃないと、殺さないからな?」

 試験官が呆れた顔になった。

「そりゃ、【迅雷白牙】と一緒なら、魔物は脅えるだろうがな……。……まぁいい、お前があの【迅雷白牙】のパートナーに選ばれたんだから、その実力を見せてみろ」

 って言われて現れたのが。

「マンティコア、だっけか?」

 ぎゅーっと顔をしかめてる猿、みたいな顔をしたでっかい魔物だ。

 あ、ナマハゲっぽいな!

 尻尾がサソリ……だっけか? サソリというより、ハリネズミみたいだぞ? あるいはタンポポ。

 すっごいごっつい首輪をしている。

「かなり気が立ってるからな、気をつけろよ。号令と共に、隷属の首輪の効果を一時的に切る。危険だと思ったら、お前のパートナーに何とかしてもらうよ」

「わかった。いつでもいいぞ」

 さて。

 久しぶりに魔物を見たな。

 中々に凶悪そうだ。ワクワク。

 さーて、どんな案配で楽しませてくれるかな?


          *


「……はじめっ!」

 号令と共に、マンティコアが鳴いた。

 そして、尻尾から針を撃ちだしてきたので、木刀で一閃。

 全部たたき落とした。

 その間に走ってきたマンティコア、迎え討つ十歩くらい手前でピタリと止まった。

 だけじゃなく、伏せした。

 …………なんだろう、アレは?

 新たな攻撃だろうか。

 暫く構えたまま、首をかしげた。

 隙を探してるのだろうか。

 また針を撃ち出す……には、尻尾が股に隠れているのだが……下から撃ち出すつもりか?

 一歩踏み出したら、「きゅーん」って鳴いた、「きゅーん」って!

「おい? さっき、開始早々は殺る気満々だっただろう? なんか脅えてないか? 私は『まだ』何もしてないぞ?」

 近寄ったら、すっごい、懸命に伏せをしながらジリジリ下がる。

 そして壁にぶつかって、震えながらきゅーんきゅーん鳴いた。

 …………。

「おい、試験官。私は、脅えない魔物を出せ、と言っただろうが。あんな脅え震えている魔物を殺せないぞ!」

 試験官に向かって怒鳴ったら、呆気にとられていた試験官。

「え? いや? あれ? なんで?」

 支離滅裂。

「もっと、強い、脅えない、魔物を出してくれ。魔物は強者がわかるらしく、私はほとんどエンカウントしないんだ。たまに挑んでくるバカとか、隠れてたのを見つけたとか、そういうのじゃないと見つからない。もっともっと、コイツより強く、向こう見ずな魔物を出せ!」

 最後は命令形。

 試験官、協議。

 私は脅えている魔物を宥めた。

「よしよし、しょうがないやつだ。針を撃ち出してきたのは不問にしてやる。大人しく、檻に戻っていろ。殺さないから、そう脅えて震えるな」

 なでて、檻にそっと押しやった。

 大人しく入ってった。

 うん、無理、殺せないぞー?

 しまったな、こんなことでBランク試験がクリア出来ないとは。

 なんとか試験官に脅えない魔物を出してもらわねば。

 なんなら、アレが倒せる人間を出してもらってたたきのめせばいいんじゃないか?

 となると、該当者が現在一名……。


 ――とか考えてたら試験官が寄ってきた。

「【迅雷白牙】にも確認し、絶対に脅えない魔物を急遽〝召喚〟することにした。ただ、この魔物は脅威度Aランク、デーモンだ。倒せるのは、今この場には【迅雷白牙】以外にいない」

 すっごい重々しい、暗く、真剣な口調で言ってきた。

「脅えなければ強者がわからないバカな冒険者だろうが倒せるぞ。いいからソイツを召喚してくれ」

 で、数人の魔術師っぽい人たちが現れた。

 魔法陣が浮き出た。

「時間制限で、五分、召喚する。五分後、消える。五分以内に何とかしろ」

「わかった」

 ……にしても、十数人がずーーーっと、詠唱してる。

 ものすごい大汗をかきながら。

 大丈夫かな?

 大分かかりそうなので胡座をかいて座って待機。

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