第81話 13歳になったよ
いつの間にか私は十三歳になっていて、メイド嬢たちが盛大にお祝いをしてくれた。
昔からの使用人、特にメイド嬢は、私を着飾らせたがる。
髪も伸ばしてほしいと言われているので、現在徐々に伸ばしている。
そして、昔からの使用人たちは着飾った私を絶賛するのだが、ソードや新参者たちが実に微妙な顔をする。
ソードなんかはハッキリと
「なんだかなぁ……。女装感が抜けないんだよなぁ。俺、いつものお前の方がいいわ」
って言うのだ。
お祝いの後、最後のシメで挨拶をし、
「落ち着いたのでまた冒険者家業に戻る」
折良く皆が集まったので宣誓。
ソードは頭をかいたが
「とりあえず、王都と海の方を回ってくるわ。インドラにゃ、イースの町だけってのは小さすぎるだろ」
って言って皆を説得。
ペット(牛と鶏とスライム)にも言い聞かせ、別れを惜しんだ。
そゆわけで、旅支度をする。
ソードは根性でシャールとブロンコを持っていく、らしい。
ブロンコはリョークに収納出来るから良いとしても、シャールはかなりデカい。
ワンボックスカー並だ。
山越えは無理だから諦めろと言ったが、いざとなれば巨大マジックバッグに入れて背負ってくそうだ。
まぁ、それなら良いよ。
キャンピングカーだし、雨の時は断然シャールでの移動の方が楽だもの。
トイレ問題はスライムのスラリン(安易)に頼めば中でも出来る。完璧。
さすがにゴーレムのワンタッチ縮小拡大は難しいなー。
カプセルタイプの、ほうり投げたらBON! って爆発と共に車や飛行機が現れるアレを開発するべきなのか?
最初はシャールで出発。
私たち、たぶん、自前の足で走った方が速いよ?
でも、まぁ、いっか。
旅は急ぐものじゃ無い。
のんびりと、皆に手を振って見送られながら出発した。
途中でソードが「歌え」とか言い出した。
楽器も持ってきたってよ!
「…………。私は別に歌姫を目指してはいないので金はとらないが、私ほどの美少女が歌を歌ったら、金を取るモノなんだからな?」
と言い添えて、歌った。
童謡からロックまで。
ソードが笑う。
「お前って、歌ってると踊り出すよな。それも別世界では普通か?」
「じっとして歌う場合もある。というか、別世界の私は踊らなかったな。この身体、歌ってるとなぜか踊り出すのだ」
自分でも変だなーとは思うのだが、勝手に踊り出すの。
車中だからまだそこまで踊ってないけど、コレ、外で歌ったら踊るだろう。
そういえば、食堂でミニライブやったときも踊ってたな。
その後、ブロンコに乗りたいと言い出したので
「なら、シャールをオートで走らせて、後ろに乗せてくれないか? タンデムツーリングだ」
ソードが途端にその気になった。
「オート操縦って、完全オートいけるのか?」
「ブロンコに追従出来るぞ。追従する位置も決められる。ただ、シャールの幅と道を考えて走れよ? お前がブロンコを走らせたい要望があるだろうから加えた機能だ。まぁ、私が運転してもいいのだが……」
大分背は伸びたが、ソードはまだまだ身長が高い。
足も長い。
つまり、届くかわからない!
座席位置はちゃんといじれるようにしてあるが、それでもソード専用車、限界があるからなぁ。
自分が運転することは考慮に入れてなかったのだ。
まぁ、リモコンもあるんだけどね。
車中でリモコン運転。
邪道過ぎ。
ブロンコでタンデムツーリング。
久しぶりにバイク乗った。しかもタンデムで。
いや、こっちでは初か。
「うん、気持ちがいいな」
「だよな! よくもまぁ作ってくださいましたありがとうございます」
そんなに好きか。
唐突にソードが
「……前いた世界でも、こうやって男と乗ったのか?」
と聞いてきた。
「いや? 乗り方を教えてくれた教官や、同じくこの乗り物が好きな仲間とだな。楽しみは、同じ趣味を持った連中と楽しむのが一番だ。特にこの乗り物はかなり趣味が偏るので、そう仲間はいなかった」
「そうか」
唐突に訊かれてびっくりした。
「どうした? 唐突に」
「別に? なんかお前が懐かしそうな声を出したから、またなんか思い出したのかと思ったんだよ」
そういうことか。
「まぁ、懐かしいというか、この身体では初だが。前に乗っていたのとは違う形だしな。前のは、飛蝗のような形をしていて……」
「お前が飛蝗を作らなくて良かったわ! 本当にこのデザインにしてくれてありがとうございます!」
怒鳴ってお礼を言ってきた。
飛蝗の形もかわいいよ?
*
旅は順調だ。
すれ違う人々にシャール、及びリョークを驚かれるのだが、お決まりの挨拶を流すと、ゴーレムと納得してくれてる……ようだ。
『ソードさん専用』、っていう台詞が一番納得してるらしい。
そういえば……私がよく歌っていた(というか歌わされていた)ら、リョークが歌を覚えたよ!
一緒になって歌い始めたよ!
「冒険者に音楽は必要だという証拠だな! 歌を歌うだけでもう、冒険をしている気分になる!」
「まぁ……お前が歌う歌はそうだよな。陽気な感じの曲だよな」
【ちびっ子冒険者】と、こっちの世界の言葉で適当に替え歌して歌ったら、すごく気に入ってリクエストされるようになった。
よく歌うからリョークも得意で、リョークがシャールの上に乗って「これから、僕の歌をお披露目するよー!」って言って歌ったら、周りにいた冒険者が驚いた後、拍手喝采した。リョークに。
――と、こちらの旅路は良いのだが、ベン君が中々に難儀しているらしい。
おっかしいなー、Sランク冒険者ってのは結構な肩書きだって言うから、追加で「僕はこう見えてSランク冒険者ソードさんの仲間なんだよ! エッヘン!」って言う台詞も追加したのにな?
一度なんか、検問所で役人から積み荷を奪われそうになり、無線連絡が来た。
私としては事が起きた方が楽しいので
『そっちへ向かうぞ! なんなら積み荷を盗ませろ! 私が即到着し、ソイツらの皮膚を生きたままはいでやる! それをソイツらの家の壁に貼り付けてやるぞ! 大丈夫! 私自らが作った回復薬があれば、多分治る! 試したことないから、ちょうど人体実験にもいいな! あとどんな拷問があったかな? まぁいい、着いたらいろいろ試す! ソイツらの名前を聞き出しておけよ! 人相で突き止めてもいいけどな! ウッヒョー! テンション上がってきたぁ‼』
って会話をスピーカーでベン君が流し、それを聞いた役人の大半が逃げ出し、リーダー格らしき男を明け方の薄月の連中が捕まえた。
震えながら涙を流して謝ったそうだ。
『あー、Sランク冒険者のソードだ。今の相棒の台詞を聞いてわかったと思うが、相棒は頭がイカレてる。命はとらなくて結果無事なら何をしてもいいと思ってるやつだ。死んだ方がマシって目に遭いたくなかったら、巫山戯たことは止めておくんだな』
『ソードさーん、その前に、さっきのインドラ様の台詞聞いて逃げ出しましたー』
ベン君が言ったので、ソードからマイクをひったくった。
『積み荷は? 盗まれたのか? 盗まれたんだよな⁈ 今から行く! 何、私の実力なら、全員捕まえられるぞ! ダーティラットを捕まえるよりも簡単だ! 何、人の物を盗む連中は、ダーティラット以下に扱って良いはずだ! なにせダーティラットは物を盗まないからな! よし、待ってろ! 今から行くぞ!』
『ちょっと、やめて。お前、本気だろ。前に魔導師のジーサンにやった拷問よかひどいことするだろ』
『当たり前だ! 爪の間と局部に針を刺すくらい、拷問のうちに入らないぞ! しかも回復薬で綺麗に治ったじゃないか!』
『あー、インドラ様、盛り上がってるトコ悪いんスけど、盗まれてません。あとー、リーダー格らしき男が憲兵に引き渡しを土下座してお願いしてきましたー。あとー、今の話で男連中のアレがひゅんってなったんで、やめてもらえますかー?』
二人からすっごい宥められ、積み荷が無事、且つ、検問所の責任者(かなり上の人)が土下座して詫びて、無事に通過したそうだ。
なんでそう心躍るような出来事が私たちにはないのかにゃ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます