第73話 会計処理とはなんぞや

 レストラン、絵画や演奏者の伝手があったようで、かなり華やかな雰囲気になった。

 仕方ないので、観葉植物を飾ってる植木鉢、カバーをゴージャスなの作ってあげて飾ったら超喜ばれた。

 さて、内装はこれくらいにして経営に着手。

 会計処理が出来る者を雇い、会計処理を……と思ったが、会計処理出来る者が会計処理出来ない!

 ベン君、ソードと一緒にブロンコ乗り回して遊んでるだけじゃなく、私の相談にも乗ってくれる。

 商人なので会計もそれなりに出来るので訊いたのだが、別世界レベルの会計処理は無理だと悟らされた。

「……ホンット、インドラ様って多芸ッスよね。会計処理も、俺よか得意って、なんなんスか?」

 呆れたように言うベン君。

「伊達にオールラウンダーズを名乗ってはいない。だが……参ったな、教育してなんとかなるものなのか?」

 別世界ですら、『決められたルールに則ってきちんと記述』出来る人間というのは限られていた。

 この世界でいるかなぁ?


 ……と、ここで、使用人の子供が挙手。

「書き物は得意なので死ぬ気で覚えます!」

 え?

 そこまではしなくてもいいけど。

「あの、他に得意な者がいたのでソイツもいいですか?」

 と訊かれたので、やる気があるなら教えるが、採用するか否かは実力次第、と答えておいた。

 ベン君も交じるらしい。

 遊んでる場合じゃないッス、ってことらしい。


 子供数人、大人数人(なんか増えた)の生徒による、簿記講座。

 基本のキ、出納帳レベルはクリアしてもらわないと困る。

 ホログラムパネルで、プレゼンテーション風に、出納帳とは何か、科目とは何か、ってのを説明。

「最終的に完璧を目指すのであれば、帳簿が合っているか、仕入れた物の残りはどれくらいか、もうけはいくらくらいなのか、というのがひと目でわかるように記述する方法があるのだが、こんな世界だ、そこまでは求めない。最初は簡単に金の流れだけを追う」

 この世界、紙だけはあるので、私が魔術で高速に帳簿のようにマス目を引いた紙束を作った。

 ここ、通貨がそれぞれ分かれてるからちょっと面倒だった。

 で、現金出納帳の書き方をレクチャー。

 計算は、計算魔導具作ったよ!

 そろばんも作った。

 そろばんの使い方もレクチャーした。

 計算魔導具は、最終の検算で使うこと、間違っていたら必ず三回は確かめること、とした。

 暗算出来るやつは暗算でやれと言ったら皆が首を振った。

 ベン君、挙手。

「まさかって思いますけどー、インドラ様ってこの桁の暗算出来るんスかー?」

「当たり前だろう?」

 みんなが口を開けて私を見つめた。


 ベン君だけじゃなく、なぜか商人までもが経理教えてとやってきた。

 犯人は誰だ。ベン君だ。

「無料で教えるワケにはいかん。ベン君はソードの知人で、今も今後も利益なしでこき使……手伝ってもらう予定だから、先行投資しているだけだ」

「こき使うって言った。今、こき使うって言った」

 ベン君、うるさい。

「……ふと思ったんだが、ベン君、口が軽くないか?」

「あれ? その話知らないッスか?」

 なんの話?


 ――そもそもソードと知り合ったきっかけは、ベン君の口の軽さからだったそうだ。

 ベン君、ソードがダンジョンで手に入れた宝を商人ギルドで売ろうとした際、掟破りの口出し&価格の指摘をしてしまったらしい。

 ソードとしてはありがたかったが、商人ギルドでは御法度。

 騙される方が悪い、それもまた勉強だ、って話らしい。

 一方ベン君は、掟破りの口出しを、しかも商人ギルドで行った、として、本来なら商人ギルドライセンス剝奪なのだが、騙されたのがソードだった。

 ソード、めちゃくちゃ怒ったらしい。

「…………へぇ、勉強ねぇ。なら俺も、商人ギルドに勉強させてやるよ。特に、お前だ。俺は、今後一切、商人ギルドの依頼は、決して受けない。例えドラゴンに襲われようとも、商人ギルドが絡んでるんだったら、ライセンス剝奪されようとも、決して、だ。この商人ギルドで買いたたかれそうになり、それを助けた商人を商人ギルドがライセンス剝奪にした、って、大々的に宣伝してやるよ。ま、そんなこと日常茶飯事の勉強なんだろうけどな。商人ギルド以外で通用するって思い込んでるのなら、俺がその考えの通りなのか、お前等に勉強させてやるからな、覚悟しとけやコラ」

 さすがにまずいと思った商人ギルド、慌てて謝罪してベン君のライセンス剝奪も取りやめた、けど、以降ソードは決して商人ギルドで取引しなくなり、ベン君に直接売るようになった。後に冒険者ギルドがダンジョンの宝の適正価格での買取を始め、この話は瞬く間に広まり、件の商人ギルドのギルドマスター及び職員は解雇になったという。どっとはらい。


          *


「ほー! ソードは我慢強いな、私なら即そのギルドの建物商品一切合切破壊して私を騙すとどうなるかの勉強をさせたのにな!」

「うわー、インドラ様、さすが元貴族ッスねー! やり方パないッス!」

 感心したように言われた。

「まぁ、ソードがそれで助かったならいいが、迷惑をかけられる方になるのは堪らないな。つまり、ベン君には言っていいことと悪いことがあるのだな? 秘匿したい情報は、ベン君に言ってはいけないということか」

「信用されてないッスねー。さすがに言っちゃいけないことは言わないッスよ」

 信じられるか。

 今この状況で。

 だが、ベン君の伝手の商人は、若手で下手に出てきた。

 お金も払う、ということで、帳簿のつけ方、その帳簿から表を作り分析する資料を作る方法を教えた。

 比較的マトモな帳簿を付けてた商人を例として、それを再度記帳し直し、仕訳して科目分類し表を作ってやり、

「こうやると、何に使ってるかがわかりやすいだろう? この紙で、ちゃんと利益が出てるかもわかる。可能ならば、ここに書かれた項目も帳簿をつけるとわかりやすい。この紙を定期的につけてとっておくと、時期による金の流れがつかめてくる。

 今まで感覚でやってたんだろうが、数字は正直に表すぞ。仕入た商品の金額の変動も分析できるようになるだろう」

 商人たち、感心してるので気分が良い。

 ベン君も感心してる。

「いやぁ、やっぱお貴族サマ辞めるんじゃなかったんじゃないスか? この手腕で領地経営やったら、すっげー発展すると思いますよ?」

 って言われたが、これは別世界では家計簿程度だけど?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る