第72話 跳ねたり飛んだりするよ

 試運転。

 ベン君も興味あるみたいでシャールに乗ってついてきた。

 私はリョークに乗って見学。

 横で見てたりうるさく言ったりしたら気が散ると思って。

 ナビゲーションで【おしゃべりシャール君】がついてるから、機能の説明は大丈夫のはずだ。


 ソード、流石オールラウンダーズを名乗るだけあって、簡単に乗りこなした。

「アッチの方がスピード出るッスね」

「ベン君のシャールは輸送用だから、あんまりスピードを出すと中の貨物が揺れる。あと、遠方に出かけたときに巨大な虫が恐ろしいスピードで走ってたら、パニックになるだろう? ソード専用のアレは、玩具だ。ここら辺で遊ぶ用だから、好きにいじった」

「そりゃそうスか」

 ある程度走ったら、ジャンプ。

「おわっ⁉」

 ナイ○ライダーだもの、ジャンプ機能はないとね!

「い、今、跳ねませんでした⁉」

「だから、ソード専用の玩具なんだ。輸送の概念はない。跳ぶし、飛ぶ」

「は?」

 何度か跳んだ後、滞空時間が長かったのか、羽が出た。

「おわぁっ‼」

 ブーン、とそのまま飛ぶ。

 次第に慣性の滞空時間が終わり、スピードが落ちてゆっくりとした飛行になった。

 ベン君、呆気にとられて口を開けっぱなし。

「あんまり高くは飛ぶなよー。目立つからなー」

 拡声魔術でソードに伝えた。

 しばらく飛んで、満足したのか地面に降りてきた。

 で、こちらに来て、ストップ。

 シャールから降りてきた。

「どうだ?」

「ジャンプするって聞いてないぞ!」

 楽しんでるかと思いきや、びっくりしてたのか。

 怒鳴られた。

「じゃあ、機能を取るか?」

「そのまま付けといて」

 やっぱ楽しんでるんじゃん。

「あと、[バイク]とか言ったか?」

「そうだが、こちらの言葉では〝二輪駆動ゴーレム〟と言う表現だな。そうだな……名は【ブロンコ】とでもしておくか。〝跳ね馬〟という意味だ」

 ベン君が呆れた。

「ちょーっと、インドラ様。ソードさんを甘やかし過ぎじゃないッスか? 古代ゴーレムよかスゲーのを作ってあげて、玩具としてホイホイ与えるなんて……。そもそも、ソードさんにいらないっしょ? ゴーレム使うよか自分で走った方が速いっしょ?」

 ソードも自覚があるのか、反論せずにそっと顔をそらしてるし。

「まぁまぁ。私もいろいろ世話になってるし、ものづくりは好きなのだ。ねだられたワケじゃなく、私が勝手に作って贈ったものだから、そう苦言を呈してくれるな」

 ベン君、ハァ、とため息をつく。

「……なんか、インドラ様って大人ッスねー。男ってこう、ガキっぽさがいくつになっても抜けないもんスけど、インドラ様は違うっつーか」


 それは、女だからだな。


          *


 バイク試乗。

 リョークから下ろしてきたブロンコを見て、二人が

「「ウォーーーー‼」」

 って叫んだ。

 機体は、フルカウルのツアラータイプで、かなり近未来風。

 ソードのパーソナルカラーのピアノホワイトをベースに黒とソードの瞳の色をアクセントに着色した。

 ちゃんと金属を使って、塗装&コーティングまでしたぞ!

 ガソリンとエンジンで駆動するわけではないので中スッカスカだけどね!

「すっげー! すンげーかっこいいッス! なんスかコレ⁉ ありえねーッス‼」

「お前、こんなのも作れるのかよ⁉」

 ベン君はともかく、ソードの感想が失礼だぞ?

「むしろお前たちがこれをかっこいいと思うのに驚いたぞ。このセンスはわからないかと思ってた」

「「虫をゴーレムにする人間に言われたくない」ッス」

 ハモられた。


 気を取り直して。

「生体認証だ。ハンドルを触れば自動的に起動する」

 ソードが跨がってハンドルを握ると、スイッチオン!

「うぉっ! 光ったッス!」

 あちこち点灯した。

「うわ、コレ、すげーな。テンション上がるわ」

「そうか。どちらでもいいがグリップを手前にひねるとスピードが上がり、向こうにひねると緩まる。手を離すと固定されるが、徐々にスピードは落ちていく。ブレーキは、右手グリップ近くにあるレバーをつかむ。勢いよく回したりつかんだりするなよ? 馬が急停止するよりもひどい衝撃が出るぞ。危険なので、最初はスピード制御がかかってる」

 操作説明をした。

 制限解除は左手と足で操作する。三段階、『通常』『スピード』『リミッター解除』。

 左手のレバーを押さえながら足先にあるレバーを上げると一段階解除出来る。

 止まったら『通常』に戻してから発進。じゃないと勢いよく飛び出す。等々。

「……あと、隠し機能だが、これも『ジャンプ』出来る。右手のグリップ下、親指を伸ばせば届くところにボタンがあるから、タイミングを見て押してみろ。押す強さでジャンプ力が変わる。降りるときは、この〝停止パネル〟を押せ。停止スタンドが出てくる。あとは……どっしり座ってハンドル操作のみで乗ってはいけない、太腿で挟んで重心移動で左右に曲がる、のがコツだ」

「わかった、実践するから」

 ソード、早速走り出した。


 うわー、さすが。初心者のくせにもう乗りこなしてる。

 そしてちょっと羨ましい。

 乗りたいのだが、ソード用に作ったので、ロリ体形の私には足が届かないのだ!

 いらないっつったら私用に作り替えようかと思ったのにぃ!

「いいなーいいなー。ソードさんばっかり甘やかして~」

 ベン君が超羨ましそうだ。

「……別に作って貸してもいいが、アレ、相当危険だぞ? ソードならアレが転倒しようが死なないだろうが、普通の人間は間違いなく怪我をし、下手をすると死ぬぞ?」

「いや~、そんなん怖れて魔馬は乗れませんって! つーか、魔馬よりも凶暴じゃない分、ほうり出される危険性少なくないスか?」

 …………。

 そうなのか……?

 知らないが。

「まぁいい、作ってやる」

「やったーーー!」

 小躍りするベン君。

「だが、危険だからな、ブーツ、膝当て、肘当て、出来るならショック軽減の兜を被ってほしい」

「うわー、冒険者みたいッスね。まぁ、いいッスよ。魔馬だと思えばいいんだし。打撃に強い防具着て乗るッス」

 遠景では、完全に乗りこなしてるソードが恐らくモードを変えて、ギュンギュン走り回り、スラロームをヒョイヒョイとS字で走って、たまにジャンプして飛び越えてるのが見える。

 …………まさか、シャール作ってあげたのが無駄になったんじゃ……?


 後日、ベン君にも作ってあげた。

 同じ形のピアノブラックベースにグレーとマゼンダバージョン!

「うわー! 派手ッスねー!」

「チャラ男に似合いそうだからな」

「は?」

 配色逆にしようかと思ったが。それじゃチャラくなりすぎるので落ち着かせた。

 自分のは、もちろん青緑にするつもりだ。

 ただ、今は乗って遊んでる暇が無い。

 次はまたレストランに戻らなくては。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る