第70話 アイラブミュージック

 しばらくして満足したのかハッチを閉じて戻ってきた。

「いいんじゃねーか? アーチャーや魔術師の方が向いてるだろうが、大雑把に方向向けるだけでも勝手に照準合うし、下手すると素人でも使えるな」

「まぁ、リョークくらいになると避けるけどな。通常なら当たるだろう」

「いやー、充分すごいッスよ! これは旅が楽しくなりそうッスね!」

「そうだな、あとは音楽を流せれば完璧だが……」

「「は?」」

 車に当たり前についてるカーナビ機能……は、旅してる人間には邪道だろうが、音楽はほしいところじゃん?

 別世界の私はNo Music, No Lifeだったもん。音楽ほしい。

「お前が歌え」

 って言われたし。

「アカペラでか? いいけど……[カホン]くらいほしいよなぁ。[ギター]がベストだな」

 ソードが驚いた顔してる。

「お前、音楽の素養もあるのか?」

「この世界では習ったことが無い。だが、弦楽器は弾けるぞ? ただし、六弦のものだ」

 習い事万歳! な親に育てられた私、しかも斜め四十五度の習い事を勧められた私なので、クラシックギターを習ってた。

 カホンは囓ったくらいだが、プロじゃあるまいし、ポコポコたたけばいいので好きだ。

 歌うのも好きだけどさ、アカペラでぇ~?

「…………じゃあ、昔、小さい頃に[車]に乗っていたときに聞いた曲だ」

 【Lovin' You】を歌ってみた。


  シーン。


 二人がポカンとしてる……のは、何語話してるか解らないからだよな?

「…………聞いたこともねー、リズムで歌ってたな」

「歌詞の遙か手前で既にもう違和感があったのか」

 だがしかし、これ以上ゆったりした曲を聴いてたら寝てしまうだろうが。

「じゃあ、こういう曲か?」

 風の谷のレクイエムを歌ってみた。

 ラララなので歌詞カンケーないしね。

「…………あの。お貴族サマって、こんな感じで歌ってるんすか?」

 って、真顔でベン君に聞かれた。

「元貴族だ。あと、貴族だったがマナーと教養以外は習ってない。これは、我流だ」

「我流…………」

 なんだよ!

 なんか文句あんの⁉

 ぶっすー! と膨れたら、ソードが慌ててヨシヨシしてきた。

「いや、俺は好きだぜ? つーかよ、お前、歌い慣れてんじゃねーか?」

「……昔はよく歌っていた」

 カラオケで。

 ライブもよく行ってたし、音痴でもなければリズム感がないわけでもないと思う。

 ……この身体は良く解らないが、自分で音を外してると思ってないから大丈夫だと思うのだが?


「歌詞、解るようなのってあるんすか?」

 ベン君、こっちの曲を知らないのだよ、私は。

 無茶振りするな。

 訳せというのか?

 そんな簡単に……あ、アレならいけるかも。

 【イヤイヤ星人】踊りながら歌ってみた。

 爆笑された。


          *


「インドラ様って多芸ッスね!」

 試運転から帰ってきて、ベン君に言われた。

 つか、ベン君から〝様〟付けにされましたし。

「私は平民だぞ?」

 ベン君、手をブンブン振った。

「いやぁ、到底そうは思えないッス! オーラハンパ無いッス!」

 何のオーラだ。

 って思ったらソードが

「……おい、俺に〝様〟付けしたことねーのに、なんでインドラに〝様〟つけてんだよ? あァ?」

 って首絞めながらツッコんでた。


「そういえば、こっちの世界の歌ってどんななんだ? お前たちも歌ってみせてくれ」

 って言ったら二人が私を見て凝固し、その後顔を見合わせた。

「ん? ソードもベン君も旅をしてたんだろう? 私の歌う曲に違和感を感じる、ということはそれなりに聞いてきたはずだ。歌ってみせてくれ」

「お、俺は無理ッス! 俺、そもそもそんなの聞く余裕無いッスよ‼ 違和感、つーか、音楽に触れ合ったことないんで、インドラ様がサラッと歌いだしたんで超驚いただけッス!」

 ソードを見たら慌ててた。

「お、俺もだよ!」

「うそつけぇ」

 そもそも違和感を感じたのはソードだぞ!

「いや、違うって、例えば貴族のパーティに招かれるときとかあるし、音楽の催し物に招かれたりもあるし、そんなんでしか聞いたことねーんだって」

「例えば吟遊詩人みたいなのいないのか?」

 二人が顔を見合わせたぞ、二回目。

「あれは、リュートをたまに鳴らしながら、物語を語るんだぜ?」

 ……琵琶法師みたいな?

 「諸行無常の響きあり」とか言ってそう。

 首をかしげた。

「え、インドラ様、吟遊詩人の真似事で、イヤイヤ言ってたんすか?」

 違うよ!


「歌を歌うときはどんなときだ?」

 二人が顔を見合わせたぞ、三回目。

「……一般的なのは、聖歌だな。でも、貴族の嗜みで演奏はする、って、聞いたことがあったんだよ。鼻歌程度を期待してたら本格的になんかの歌歌いだしたから驚いたんだよ」

 あー。

 そういうことかぁ。

「まぁ、私の常識ではアレが普通だ。……というか、この世界、娯楽が少ないんだから歌歌いくらいいても良さそうなものなのにな。酒場にフラッと流しのリュート弾きが来て演奏して、おひねりをもらう、なんてことはないのか?」

「それこそ吟遊詩人だよ。でも、酒場に来たって誰も聞いちゃいねーな。平民の酒飲みにそんな高尚な趣味はないさ。娯楽に飢えてるのは女共だろ。酒場に行って女房その他の愚痴を吐くのは男、見目麗しい吟遊詩人に群がってうっとりと物語を聞くのが女」

 わかりやすかった。


 その後。

 メイドから【イヤイヤ星人】をねだられた。

 食堂でミニライブやらされた。

 情報発信源を追いかけ回した。

「ソードーーーーーーー‼」

「いや、かわいかったんだよ。

 メイドに自慢したら怒られてさぁ」

 ワケのわからない弁解をしながら逃げ回ってた。


 さらにその後。

 リュートがプレゼントされた。

「……私の弾ける楽器と形状が異なっててな、これは弾けるかわからない」

 正直、本格的に勉強する気は無い。

 多趣味が売りの私だが、楽器は恐らく貴族の習い事だろう。

 となると、みっちり&毎日習わされる、が、そんな暇が無い。

 ……ふと見たら、六弦だった。

 ワーオ。

 これもまた出処が……。

 ジロッとソードをにらむと目をそらしてきた。

 ため息をつくと

「調律はしてあるのか?」

「もちろんです!」

 ……仕方ないな。

 弾きますよ、弾かせていただきますよ!


 でもまず、チューナー作るところからね。


          *


 そんでもって演奏会だよ……。

 何? みんな娯楽に飢えてるの?

 なら、歌え! 踊れ!

「久しぶり……というか、この身体では初だから、うまく弾けるかわからないぞ?」

 ポロンポロンと弾いてみたら、音が随分柔らかい、且つ響かない。

 ……まぁ、仕方ない、とにかく弾いてみよう。

 【ラグリマ】を。


 意外と弾けた。

 というか、この身体、スペックいいよね、別世界の習ってたときよりスラスラ弾けたんですけど。

 ふぅ、と息を吐くと、すごい熱狂的な拍手が!

 驚いて見たら、みんなすごい勢いで拍手してる、だけじゃなく、泣いてる人もいる。

 コワイ。

 メイド嬢たちなんかマジ泣きしてるんですけど。

「これほどまでの演奏を、誰も聴いたことがありません!」

「本当に……本当に、惜しいです! 本来なら、サロンでお披露目していただければ、きっと、それこそ素晴らしい殿方に見初められ、スプリンコート伯爵家など眼中にないほどの家柄の方との婚姻もあったかもしれませんのに……!」

「く、悔しいです! この演奏を、インドラ様の誕生会で披露されたら、さぞかし鼻が高かったでしょうに……!」

 よくわからない感動&悔しがり方をしている。

「止めてくれ。私は結婚する気がないので、むしろ貴族から放逐され平民になって良かったのだ。そして今の生活は、非常に満足している。貴族の生活は不満しかなかった。好き勝手出来て、誰に頭を下げることもない、気に入らないやつは殴ったり殺したり出来る、今の生活は薔薇色だ」

「ちょっと、殺さないでね?」

 ソードが素早くツッコミを入れてきた。

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