第37話 修行完了!

 それから数日。

 おばあちゃんに言われた場所で採取、乾燥、そして納品。

 代わりに薬草の効能を教えてもらう日々が続いた。

 ソードは宣告通り酒を控えてる。

 ちゃんと人命救助は避けてる様子。と、いうか、そんな依頼はあんまりないらしいね。

 そういや討伐の依頼でなんかすごい魔物を狩ってきたらしいが、私は見ていない。

 ……ソードは冒険者してるなぁ。

 私、冒険してない。

 ロボ作って薬調合してる。

 これって冒険じゃない。

 ……でもいいんだ、これは修業時代。これが終わったら冒険だ!

 私も魔物狩りした……無闇に狩るのはかわいそうだから、ダンジョン潜っちゃうぞ!

 ダンジョンコア様に強敵出してもらうぞ!


「……お前、リョークに変な仕込み入れるな!」

 って帰ってきたソードに怒られた。

「え? 何が発動した?」

「『ソードさーん、お腹痛いんで帰っていいですか?』って言い出したんだよ!」

 ぎゃー!

 なんですとーーー⁉

「それが発動しただと⁉ なんてうらやましい……!」

「しかもギルドでだぞ⁉ 俺、どうしていいかわかんなかったんだぞ⁉」

「ちゃんと、『腹ってドコだよ?』って切り返した?」

「言うか、バカ!」

 なんだよ!

 お決まりのお約束を……って憤ってたのにソードにアイアンクローされた!

「いたいいたいいたい!」

「おーまーえーはー! くっだらねぇことばっかに力入れてんじゃねーよ!」

 くだらなくないっ!

「……で、お前は? まだ終わりそうにないのか?」

「ううん、もう終わり」

 ……になったというのかな。


 どうやら、この依頼って〝定型〟だったらしい。

 いつも決まった地元の冒険者が受けてる、受けてはいけない依頼。

 内容の割に金額が安すぎるからその子以外が受けることはなかったんだけど、私が受けてしまった、と。

 ギルド職員も教えてくれれば良かったのだけど、その子が怪我してしばらく依頼を受けられないのを知っていたので、ま、いいかとそのまま私に渡したらしい。

 治ったその子が依頼が無いのを疑問に思い、聞いたら、依頼を受けてない間に私が受けてしまいました、しかもそれからずっと受け続けてます、と聞いて激怒。

 薬屋に怒鳴り込んできた。

「アンタね⁉ 私の依頼を横取りしたやつは‼」

 私とおばあちゃん、ぽかーんと放心。

 ……私に言ったのか?

 で、怒鳴りまくってるその子におばあちゃんが説明。

 おばあちゃんも、てっきり彼女が怪我したので、代わりに薬に興味のある私が送られてきたと思ってたらしい。

「そうか、それは悪いことをした」

「それで済むと思ってんの⁈」

「思うに決まってるだろう。誰が損してるんだ。君も、別の依頼を受ければ良いだけの話だろう?」

 ぐっと詰まった。が、開き直った。

「……アンタが! 薬師様に迷惑をかけてんのよ‼」

 おばあちゃんを見ると、首を振った。

「ここしばらくないくらいに楽しかったよ。興味があるだけじゃなく、熱意も、知識もある子でね、私も随分と刺激になった」

「あぁ、私も助かった。門外漢の素人の手作りだからな、変な副作用が出ても困るが、自分とソードが飲む分には平気だろうと思ってたんだ。でも、貴女から助言をいただけて、自信が持てた」

 二人でニッコリ。

 良かった、ここに同士がいた! って心強く思えたしね!

 ……と。

「……そんなの‼ うそに決まってるでしょ‼ 迷惑かからないワケないじゃない⁉」

 わめき散らし、人が集まってきた。

 で、彼女は私が極悪人で悪いことをたくらみおばあちゃんを騙す犯罪者だと言いだし、おばあちゃんは違うと宥めたが周りが彼女に同調してもう収拾がつかないようになり、武力を以て鎮圧。

 リョークに使いに行ってもらい、ギルド職員を経由し官憲に事情を説明。暴れた連中を全員しょっ引いて、暴動を起こしたってことでお泊まりしてもらったらしい。

 私はソードに知られたくなかったから黙ってた。

 で、ギルド職員に事情を説明され、職員も手落ちを認めて彼女に説明。

 落ち着いたかは解らない……いや落ち着いてないだろうね、またもめること必至。なので私はその日を以て依頼は受けない、と相成った。

 おばあちゃんに挨拶もなしだが、もう近寄れないからしょうがないね。


「じゃあ、俺の方の依頼も一段落終えたし、そろそろ行くか。……つーかよ、通過点なんだけどな、この町」

「冒険には寄り道がつきものだろ!」

「……お前のその底抜けに明るい冒険者に対する感想が、たまに羨ましくなるよな」

 フツー、だ!

「……ようやく修業時代が終わる。知識は得た、あとは実践だ!」

「ゴーレムはともかく回復薬でもねー薬の知識を得るのが修業時代かよ」

 むーっとして、指を突き出した。

「言っとくけどな! 回復薬にしろ解毒薬にしろ、私は作れるぞ!」

 ソード、びっくりしたらしく飛び上がった。

「はぁ⁉」

「あれは魔導具だ! 飲む、魔導具! 魔導具は作れる!」

「はぁ⁉ 回復薬が魔導具だぁ?」

「液体……水だけどな、に、魔素濃度の高い草を漬け魔素を溶かし込み、飲むと健康な肉体と同じ細胞に変換する魔術を刻むんだ。これで怪我が治る、病気も治る。解毒薬も似たようなものだ」

「……マジか」

 がく然としてるが、マジだ。

「確かにな、この世界の『元にもーどれ』って唱えれば元に戻る魔術は意味がわからないしすごいと思うが、魔素がどういうふうに作用しているかは私には解析可能なのだ! その解析した魔術を再現するのはお手の物! それでだな、非常に重要な可能性を秘めている〝魔素〟だが、別世界にはない成分だったので、できれば多用せずに治したいのだ。そのための勉強を、してきた」

 絶句された後、なでられた。

「お前って、勉強家だよなあ。そこら辺お貴族サマだった、って感じだよな。冒険者でデスクワーク好きなやつなんて皆無だぞ?」

「デスクワークかどうかわからんが、知らないより知っていたい。知ったその先で判断したいって思うんだ。ただ、『ある程度』って言葉を添えておく。……つまりは、先の理由で、いざとなれば回復薬は作れる、の前に魔術を執行出来るが、主義に反する! ので薬を作った」

 ソードに二つの紙包みを突き出した。

「酒を飲む前に飲め。[肝臓]……酒を分解する内臓を強くし、水分代謝を高める。つらいことがあり思い煩ったらこっちを飲め。寝付きを良くして嫌な夢など見ずにぐっすり眠れる」

 ソードがしばらくぼうっと見た。

「……つまりはよ、コレを作りたかったから、通ってた、ってことか?」

「…………まぁな」

 そのまましばらくぼうっと見てた後、見たことないほど柔らかな笑顔を見せた。

「ありがとよ」

「…………この世界の人間には飲みつけてない苦い味だが、我慢しろ」

「わかった」

 受け取ってくれて、ポケットにしまわれた。

「…………私と余生を過ごすつもりなら、あまり深酒するなよ? お前はオッサンだから、酒が過ぎると余生の前にポックリいくんだからな?」

「余計なお世話だ! ……けどな、気をつける」

 ソードはずっと、柔らかい顔のまま私を見ていた。

 ……ふと、「十年後、同じ気持ちでいると証明する!」というセリフが浮かんだ。

 恋人に対して言ったんだろう。

 十年後のセリフも覚えてる。

「ホラ、十年後も変わらなかったじゃん?」

「ハイハイ、その前にわかってたから」

 って当たり前みたいに答えられた。

 それを今、思い出した。

 ――つまりは、ソードに対してそう思ったのだ。

 十年後も同じ気持ちでいる、と。

 恋でも愛でもない、恋人でも友達でもない、でも、きっと、十年後も一緒に居る。

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