第28話 冒険者に絡まれたよ

 リョークにいろいろ教えつつ街を歩いた。

 途中で「ボクに乗る?」って言ってきたので「もちろん!」と答えて乗った。

 もちろん基本動作です。


 見回ってると、子供が追いかけてきたりした。

「いいなー」とか「すげー」とか「モンスターだ!」とか言ってる。

「これはゴーレムだ。リョークと言う。リョーク、少年少女たちに挨拶をしろ」

「初めまして! ボクは、リョーク!」

 もちろん基本動作です。

「しゃべったー!」

「すげー!」

 リョークに興味が湧いたようだ。

 うん、ちょうどいい。

「少年少女たち、リョークは今、学習中だ。いろいろ教えてやってくれないか?」

「学習?」「ゴーレムが?」

 子供たちが首をかしげた。

「このゴーレムは知らないことが多いからな。例えば、あの店はなんだ?」

「アレ? あれは〝武器屋〟! 武器を売ってるところ!」

 子供たちの回答を聞いたリョークがしゃべり出した。

「アレ ハ 武器屋 武器屋 ハ 武器 ヲ ウッテイル」

「「すげー!」」

 リョークから降りて、子供たちと戯れさせる。

 ソードと同じだな。九官鳥に教え込ませるようにいろいろ教えようと子供たちがワーワー話し出した。

 私一人だと、なかなか学習がはかどらない。つい、興味があるところしか教えないからだ。

 これで語彙も増えるだろ。

 ついでに子供らしい口調も覚えてほしい。デフォルト私だからなー、基本動作のかわいいしゃべり方以外が固すぎる。


「あっ⁈ アンタ……」

 ん?

 誰かが驚いた声を発したのでそちらを向くと、朱色の髪の少女がいた。

 とはいっても私よりも年上のようだ。

 ……こちらを見ているような?

 だが知り合いではない。

 私ではないな。

 意識をそらせて少年少女たちの相手をしようとすると怒鳴ってきた。

「ちょっとアンタ‼ 子供たちをどうする気よ⁈」

 ……どうやら私のことだったらしい。

 リョークをモンスターと勘違いしてるようだ。

「これはゴーレムだ。リョークという。リョーク、少女に挨拶をしろ」

「初めまして! ボクは、リョーク!」

 同じ挨拶同じ仕草なのはデフォルトだからな。

 もうちょっとバリエーションを入れた方がいいかな?

 いや、学習機能に期待しよう。

「こんなゴーレムいるわけないじゃない! モンスターよ! あなたたち、下がりなさい!」

 眉を顰めた。

 ……ソードさん、ソードさん、聞こえますか?

 やっぱり強者でもゴーレムでもバカからはインネンつけられます。

 周りに人が集まり、少女は攻撃態勢。

「……全く、本当に冒険者というのはバカばっかりだよな。強者もゴーレムもわからないときたもんだ」

 髪をかき上げた。

「なんですって⁉」

 怒鳴って杖をむけてきた。

「…お、おい、にーちゃん。大丈夫か?」

「私は大丈夫だが、少年少女たちは危険……でもないな。リョークの近くにいろ。リョーク、障壁を展開だ」

「あいさーっ」

 はい、基本動作です。

 あ、少年にツッコミ忘れたな、私は女だ。


 いかにも気が強いです、といった感じの少女が怒鳴ってきた。

「警告するわ! 怪我をする前にとっととどきなさいよ!」

「お前こそまだ若いのに冒険者ライセンス剝奪されていいのか? 私は街を歩いていただけで、少年少女たちはこのゴーレムに言葉を教えていた。そこにいきなりお前が現れ人の話も聞かず怒鳴りつけ、無抵抗の私を今まさに攻撃しようとしている。どう見ても言い逃れ出来ないぞ、今ならまだそのかわいい顔に免じて見逃してやる」

 年上のはずだが、随分小さくてかわいらしい少女だからね、ライセンス剝奪されたらかわいそうだし。

 途端に、真っ赤。

 ……なぜ怒った。褒め言葉だと思うんだけど?

「ああああんたのその軽いセリフに騙されないわよ‼」

「……なんだか会話がかみ合ってないんだが? お前は一体何に脅えて何に怒っているんだよ? 私は普通に町を観光していただけで、お前が声をかけ怒鳴ってきてるんだぞ、わかってるのか?」

 参ったな。

 ため息をついたら、激怒。

「……この……! 前回といい、今日といい、バカにして……! いっくらSランクが師匠だからって、ナメないでよね‼」

 詠唱しだした。

「は? 会ったことなどないだろう? 私はこの町に昨日着いたばかりだし、昨日は受付のお姉さんとしかしゃべってないぞ? それに……Sランクの師匠? ってソードのことかもしかして? 何も習ってないし、師匠じゃない。アイツはパートナーだ」

 全部言い切った途端。

「爆炎よ! 焼き尽くせ!」

 最後の言葉だけ聞き取れた。

 ソードとか何言ってるかわからなかったけど、この子の詠唱は聴き取りやすかったな。

 炎が向かってきた。

 火炎放射魔術か。なら、魔素と酸素を取り除いてしまおう。

 悲鳴が上がり炎が迫るが一瞬で処理。完了。

「リョークの障壁を展開させるまでもなかったか。燃料の無駄だったな」

 つぶやいた。

「…………え?」

 消えたことに驚いている。

「私じゃなかったら危なかった……かもしれないぞ。まぁ、今の程度じゃリョークがどうにかなることもないな」

 静まった後、わぁっと少年少女たちが歓声を上げた。

「にーちゃん、すげーな!」

「かっこいい! どうやったの?」

 わらわら寄ってきた。

「火はどうして燃えるのかを考えてみるといい」

「どうやって燃えるんだ?」

「空気の中に燃えることを助ける成分が含まれているんだ。それと、魔術の素。それらを取り除いてやれば、一瞬で消える」

「「すげーーー!」」

 うん、褒め称えられて気分が良くなってきた。

「少年少女たちよ、私は〝にーちゃん〟ではない。私のことは〝お嬢ちゃん〟と呼びなさい」

「いや、にーちゃんじゃん」

 だから女っつってんだろ。

「わかった、インドラと呼べ」

「インドラにーちゃん!」

「せめてねーちゃんにしろ」

「にーちゃん!」

 頑なに男にしたいらしい。

 ……ははぁん、さては照れ隠しだな? 私が美少女だからだな!


 さて、それはともかく。

 確実に騒ぎになるな、これは。

 ギルドの誰かが調整に来てくれれば良いが、さもなければリョークを光学迷彩化してソードを呼びに行かせなければ。

 ……と、官憲が来てしまった。

「何をしている⁉」

 いや、何もしてないんですけどね、私は。

「コイツ! コイツをやっつけるのよ! ギャフンと言わせないと私の気が治まらないわ!」

 朱色の髪の少女が目を吊り上げて怒鳴ってる。

「キャシー⁉ 何やってるの⁉」

 どうやら彼女の知り合いらしい、いかにも冒険者って格好の少女が来た。

「見てよあの男!」

 それは私じゃないな。私は女だからな。

「あっ! アイツ……」

「魔術を使ったのはどいつだ!」

 全員、


  ビシ!


 彼女を指し示した。

「……というかな、それは何だ⁈ モンスターか⁉」

「どこから見てもゴーレムだろう」

「「それはない」」

 ってまた全員にツッコまれた。

 咳払いして重々しくのたまった。

「……私が作ったゴーレムだ」

「お前が⁉」

 驚かれた。

「我流だが、魔術や魔導具作成の心得がある。そこで、我流で憧れのゴーレムを作ってみた。ただ、私の作ったゴーレムは、他の魔術師や魔導師が作ったように命令一つで動かせることはないんだ。教えなくてはいけない。で、教えるために町を歩き、少年少女たちが興味を持ったので、協力してもらっていた。そこに、彼女が私をギャフンと言わせるため魔術をぶっ放してきた。以上だ」

 理路整然と説明出来た。

 というか、まんま事実なんだけど。

「キャシー⁉ アンタ、試験を控えたこの日に何やってんのよ⁉」

「だってアイツ……!」

 ほう、ということはCランクを受けるのか。

「私も言ったぞ? 今ならまだ見逃してやる、と。そうしたら詠唱しだしたんだ」

 キャシーとやらのパートナーらしい子が唖然としてこっちを見た。

「もしかして、喧嘩売ってる?」

「どうしてそうなる」

 わかった、さよなら、で終わる話だろうが。

「……インドラーッ!」

 声がしたので振り向いた。

「おぉ、良かった。……ソード! やっぱり強者とゴーレムがわからないバカな冒険者に絡まれてしまったぞ!」


 跳び蹴りされた。


「テメーは黙れっつっただろうが!」

「……そういえばそう言われたな。うっかり失念した」

 いたたたた。

 んもう、ソードのツッコミはどんどん激しくなるなあ。

 で、来たソードがカードを印籠の如く官憲にかざした。

 官憲、急にかしこまる。

「コッチの口の悪いのは俺のパートナーだ。何か言われたとしても今回は俺に免じて許してやってくれ」

「いえ、私は特に……。かなり高威力の攻撃魔術が発射されたと通報があったので飛んできました」

「あー……」

 ソードが頭をかく。

「わかってると思うが、私じゃないぞ」

「わかってるから言わなくて良い。どーせお前が煽りスキル駆使して煽りまくったんだろうが」

「……でも、私は、少年少女たち相手にリョークと遊んでいただけだぞ? なぁ?」

 少年少女たちがうなずいた。

「……お前、子供と仲良く出来るのかよ⁈」

「当たり前だろうが。少年少女たちのヒーローだぞ、私は」

 踏ん反り返ったら冷めた声で言われた。

「あぁ、リョーク相手だと唐突に出る〝子供返り〟が発動したのかよ」

 何だソレ。

「子供ならお前の煽りプレイを聞き逃せるのかもなぁ」

 とかも言われたし。

 周りからも、私は魔術を使ってない、子供たちは確かにそのゴーレム?と遊んでいたようだ、と判明し私は解放された。

 朱色の髪の少女はそうもいかないようで事情を聞きます、と連れてかれた。

「ソードは知り合いなのか? お前のことも知っていたようだぞ」

「知らねーな。つか、相手が一方的にお知り合い、っつーやつは腐るほどいるよ。その手合いじゃねーのか?」

 なげやりだー。

「…ったく、正直ランクカード見せびらかして相手を威圧する真似なんざやりたかねーのによ」

「それはすまなかったな。だが、通用する相手で良かったな。私だったら『だからどうした』で終わるからな」

 ガシッと頭をつかまれた!

「……あぁそうだよ。お前に言わせたら俺は〝臭いオッサン〟だからな!」

「……だ、大丈夫だ。ちゃんと洗えば臭くない。あと、酒も飲むのを控えろ」

「いーやーだーね! なら、臭いオッサンでいいわ!」

 ……そんなに酒が好きなのか。大丈夫か。

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