第27話 コーダにやってきたよ
やってきました次の町、コーダ。
「そういえば、お前はどう計画を立ててるんだ? 観光しながら世界を巡ってみたいとは言ったけど、酒のこともあるし年単位で出かけるのも残してきたやつらが心配だ」
「勇者出る前に王都まで行く。折角なら一番栄えてる場所行くのが観光のセオリーだろ。あとは、依頼が無けりゃ海側巡って戻る感じだな」
「海の幸か! いいな!」
「お前なら、海から採れたモンでもうまい料理作れるんだろ?」
「むしろ得意かもな。……ただなぁ、別世界とこちらの世界とは、食材が違うんだよ。それに、手に入らない材料も多くて苦労してるんだ」
味噌モドキもしょうゆモドキも作った。
ただ、モドキなのだ、麹菌が手に入らないから。
「お前が違うとか失敗したとか言ってるのだって充分うまいんだよ。王族に出す料理作ってるんじゃねーんだ、妥協を覚えろ」
うまいまずいじゃないの、自分の目指してる味にならないって言ってるのー。
ふくれっ面をしたら、両頬を引っ張られた。
さて、リョーク見て大仰にビックリされつつやってきたギルド。
「コイツはCランク試験を受ける。手続きを頼む」
って言った後、ギルドマスターを呼んでお話に行った。
私は残って受付嬢とお話。
「Cランク試験は三日後になりますが……」
受付嬢が放心したように言ってる。
「間に合ったのか?」
「受けようと思えば、受けることは出来ます。ただ、準備が……」
準備?
「ソードには、ダンジョンに行くとしか聞いてない。何か用意する物があるのか?」
「……ええと」
途端に周りが爆笑した。
「コイツ、そんなこともわからないでCランクの試験受ける気かよ?」
「やめとけやめとけ、どうせ落ちるって」
「お嬢ちゃんが受けて受かるような試験じゃねーんだよ!」
「コネでDランク行けたとしてもな、Cランクってのはそんなに甘いもんじゃねーんだよ!」
周りがうるさい。
「ごめん、お姉さん。聞こえなかったのでもう一度いい?」
「……ダンジョンに潜った経験はありますか?」
「あぁ、こないだ行った。……なんか、アトラクションのようだったな。地図なんか作らずワクワク感を楽しむところなんだって理解した」
騒がしさが静まった。
「で、用意する物とは? 事前に魔物を殺して素材を用意しておかないといけないとかあるのか?」
受付嬢、首をブンブン振った。
「い、いいえ。潜った経験があるなら、ダンジョンを潜るのに必要なものは解りますね?」
「そうか、そういうことか。旅行中だからな、大抵ものは持ってる。が、縛りプレイで行くと決めたんだ。じゃないと冒険のワクワク感が感じられない……いたたた!」
頭をつかまれた!
「おーまーえーは! その煽りプレイやめろっつってんだろーが!」
「何が煽ってるんだよ⁈ お前がいろいろ見られたらまずいって言うから……」
「お前はしゃべってもまずいんだよ! 黙ってろ!」
ヒドイ!
ソードが手を離して息を吐くと受付嬢を見た。
「大丈夫だ、コイツはこんな見た目でも実力は確かだ。少なくとも準備不足って言葉はコイツにはない。三日後だろうが当日だろうが受けて合格する実力だ」
「そ、そうですか。じゃあ、登録しますね」
ソードが今度は冒険者たちをジロッとにらんだ。
「見た目で判断する愚を犯して痛い目見るのはお前さんたちになるぜ? 簡単に試験合格決められた後、さっきのセリフを目の前でもう一度言ってみな。恥をかくのはテメーらだぜ」
私は肩をすくめた。
「冒険者は、強者がわからないバカばかりだからな」
…途端にまた頭をつかまれた!
「ぎゃー!」
「お、ま、え、は。黙ってろ、っつったよな?」
「わかった! いたいいたいいたい!」
涙目になった。
「ホラ行くぞ。依頼だ。ファングボアの討伐だとよ」
「今夜は猪鍋だな。甘辛く味付けして食べよう。野菜がほしいから途中で寄ってくれ」
「おう!」
途端に機嫌が良くなったらしい。
頭をなでられた。
豬狩りは、首チョンパで終了した。
洗って血抜き。乾燥。保冷バッグに詰めてギルドに戻る。
査定して、ロースとモモを買い戻し、終わり。
もう一度森に行こうとするとソードがそっと腕をつかんだ。
「家借りた」
ボソッとつぶやく。
「森でいいのに……」
「いいだろ、あんまり厭世的になるなよ」
「そうじゃなくて、同等のレベルなのに金を払うのがもったいないんだ。お前は金持ちらしいが、金はもっと建設的に使うべきだ」
あと、ソードにだけ払わせるのが嫌だ。
ソードが金持ちだからといってソードだけに払わせるのはどうかと思う。
一緒にいるときはなるべく払うようにしたいが、ソードにも見栄…というか体面があるらしく、子供の私に払わせたくないらしい。
まぁ、私が逆の立場でも子供に払わせるのは嫌だと思うけどさ。
中身は大人なのだよ?
ソードは言い返さずに笑って頭をなでた。
なんで家を借りたのかわかった。
飲んだくれたかったらしい。
「だから! [アルコール]の成分は依存症になるとあれほど」
「依存症じゃねぇよ! たまにはいいだろ! 森じゃお前は気にせずグースカ寝てたけどな、俺はそこまで気が休まらないんだ!」
「町だって危険はいっぱいだろ!」
「Sランク冒険者の借りてる家に押し入る強盗がいたらお目にかかりたいわ!」
甘い!
ソードは甘いんだよ!
だから予想の上をいかれるんだよ!
……と怒っても、確かにちょっと寝不足だったらしいソード、顔色が良くなったので諦めた。
「……もういい。リョークに迎撃させるからお前は休め」
「お前はどうするんだ」
「もちろん観光だ」
「待った、リョーク連れてけ。ゴーレム連れて歩いてるやつに絡むバカはいないだろ」
「いるだろうな、強者どころかこのゴーレムのすごさがわからないバカはゴロゴロいそうだな」
「待った、心配になった。俺も……」
私はソードの髪をかき上げながら止め、優しくほほ笑みながら首を振った。
「いいから休め。酒臭さとオヤジ臭さの合わさったお前と並んで歩いたら、歩道に今朝食べたものをぶちまける」
「とっとと消えろ!」
心配して言ったのに怒鳴られた。
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