第26話 ダンジョン、いってみよ!
「あ」
唐突にソードが声あげた。
「お前、次の町でランク昇格試験受けとくか。つーことで、ダンジョン潜ってみようぜ」
唐突にソードが言い出した。
うん、唐突なやつだっていうのはね、知ってた。
「つまり、手頃なダンジョンが近くにあったというわけか?」
「まーな。お前なら楽勝だろうけど、ダンジョン自体初めてだろ? 行ってみようぜ」
そこにゲーセンあるから行ってみようぜ、くらいのノリですね。
「で、ダンジョンとはなんぞや?」
ソードが途端に嫌な顔をしたんだけど?
「……お前って、理屈好きだよなー。ダンジョンとはなんだろう?なんて誰も考えねーよ」
いや考えろよ。
「単なる洞窟に魔物が棲み着いた、ってワケとは違うんだろう?」
「違う。……まー、なんつーか、確かにそんなんじゃねーな。一説によると魔素溜りから発生するらしいけど、よくわからねーんだよ。ダンジョンコアってのが最深部にあって、それを壊すとダンジョンが消えるけどな、それをやるのはタブーだ」
「理由はなんとなくわかるから聞かないでおく」
「お察しの通り、ダンジョンは結構儲かる。よっぽどのことがない限りはダンジョンコアは壊さない。壊したやつは重罪だし、ま、そもそも生きて帰ってこれないな」
だろうね。
最深部に行ってコア壊す、って、ダンジョン崩壊したら出てこれないよね。
「なんで、間違ってもダンジョンコア壊すな」
「どれがダンジョンコアだかわからないのにどうしろと?」
「ついてってナビしてやる。手は出さねぇ。指示通りにしろ」
「わかった。……リョークはどうする?」
入れる広さなんだろうか?
「連れて行きたきゃ連れてけよ。どっちみちお前のゴーレムだ、試験に連れてっても武器枠になるからな。……ゴーレムと認めてもらえればの話だけどな」
そういう意味じゃなかったが、入れる広さらしい。
なら、もちろん連れて行く! いっぱい学習させてあげるんだ!
「……ったく、ゴーレムつーよかテイムした魔物だよな。しょっちゅう話し掛けてるしよ」
「そういうお前もだ。ちゃんと学習機能は働いている。大分覚えてきただろ?」
ソード、赤くなった。
私の前では気のない素振りで素っ気なくしてるけど、見てないところでめっちゃくちゃ話し掛けてる。
犬にお手を仕込むよりも九官鳥に言葉を覚えさせるの方が近い雰囲気で。
推測するに、何気なく教えたらリョークが覚えて言ったかやったかして、楽しくなったんだろう。
「ホラ行くぞ!」
はい、照れて誤魔化しました。
「ダンジョン、ソロでってのは厳しいんだよな。地図が売ってりゃ高くついても買った方がいい。ここの地図は持ってるが、今回は試験と同様に地図無しだ」
ふーん、地図の概念はあるのか。アレだね、むかーしゲームでやったよ、紙に地図書くヤツだ!
入ろうとしたら止められた。
「ダンジョン内は暗いぞ」
え? そうなの?
「ダンジョンコアが気を利かせて灯りを点けてくれるとかないのか?」
「お前、ダンジョンコアをなんだと思ってんだ。貴族の屋敷におもてなしされるのとは違うんだよバカ」
……そうなんだ。
別世界の知識と聞いた話を総合すると、集客が目的のアトラクションぽかったけど。
「わかった」
しょうがないから頭にライトを装着。
「……お前、それはなんだ」
「〝ライト〟の魔導具だ。この形状だと両手が使える上に見たい方向が明るくなる」
「サラッと光魔術使ってくるよな……。普通は松明だぜ?」
「死にたいのか」
洞窟なんて窓のない場所で火なんて使ったら酸欠で死ぬぞ。
「どうしてそうなる……」
「火は、人間が空気中から体内に取り入れなければならない必須の成分を奪って燃やしている」
「マジかよ⁈」
「……私を理屈っぽいと思う前に『なぜだろう』って考えた方がいいぞ? 確かにこの世界の常識と別世界の常識が当てはまるとは限らない。だが、その原理で火が燃えているのは私が実証済だ」
この世界は魔素ありき。
魔素があれば何でも出来る。
だが、他にも必要な成分は存在するのも確か。
しかし、魔素があれば他にはいらないと思われている。
私もだんだんその方向性に考えが染まってきてるけどー。
「空気の流れがあるなら松明でもいいかもしれないが、私は両手を空けたい。だから、こっちの方が便利。……こういうの、誰か作ったりしないのか? 松明も風情があっていいかもしれないが、利便性には欠けるだろ?」
「風情で使ってんじゃねーよ。そんな魔導具見たこともねーし、もし作られたとしてもスゲー高いだろが。光魔術使える魔導師なんてそういるか!」
そうなのか。
そもそも光魔術じゃないんだけどね、まぁいいや。
洞窟を進みながら思ってることを話した。
「……私としては、お前や他の魔術師の方がすごい。呪文を唱えれば火が矢の形をして飛んでったりするだろ? ゴーレムなんて『戦え』って命令するだけで動く。どうなってるのかさっぱりわからない」
「戦えっつったら戦うことしか出来ないんだぜ? しかも、バカ正直に拳振り回したり足で踏んづけようとしたりするだけだ」
「それがすごいんだよ。私が作ろうとしたらな、まず〝歩く〟ということがどういう動作かを教えなくてはいけない」
「は?」
「は、じゃない。人は歩くという動作はどういうものか理解しているから歩けと言われて歩く。歩くという動作を知らない者に歩けと言って歩けるわけがないだろう。『右足を上げ、前方に下ろし、左足を上げて、右足よりもさらに前方に下ろす』これを理解させてこそ歩くという動作が出来るんだ。なのにそれすらすっ飛ばして『戦え』って……。その動作を理解させるのはすごくすごく大変なんだぞ?」
ソードが絶句してる。
「……お前、リョークを、どうやって動かしてんだ?」
「基本動作は[プログラミング]済だ。つまり学習しなくても行える」
ニヤリとニヒルに笑った、つもり。
「得意げになるのはわかったけど、意味のわからない単語並べて気持ち悪い笑顔浮かべるな」
ってソードにほっぺた引っ張られたが。
「でも、もっといろいろなことを教えてやってくれ。教えれば教えられるだけ覚えて賢くなる」
この世界ならAIに魂が宿ることがあるかもだから!
リョークをなでた。
基本、リョークに出来ることは自分でも出来る。
けど、覚えさせたいのでやらせる。
「一階フロアマッピング、完了」
ホログラムをリョークに出させる。
「おわっ⁉」
ソードが驚いた。
「うん、よくできました」
リョークをなでる。
「ヨクデキマシタ、ハ、ホメタレタ」
「そうだよ」
「いや~、まいったなー」
照れるリョーク。
「おい! リョークが……」
「あ、ごめん。これは基本動作。覚えたわけじゃない」
かわいいからやらせたかっただけ。
「お前は! 機能の無駄遣いなんだよ‼」
なぜか怒られる私。
「何言ってるの、かわいいは正義なんだよ? ……さて、リョーク、『これ』は罠、『これ』も罠」
「コレハ、罠。コレモ、罠。コレモ、罠」
早速学習して、罠を理解して他の罠も見分けられるようになった。
「よくできました~」
「いや~、まいったなー」
「……お前ってホントはバカなんじゃねーかって思えてきたわ」
私たちの会話を、ソードがすっごい白い目で見てきた。
特に何の問題もなくボス部屋まで来た。
「やっぱり地図ありきのダンジョン攻略はつまらないよな。冒険してるワクワク感が全くない」
「……お前、普通の冒険者の前でソレ絶対に言うなよ?」
って注意が飛んできた。わかった、私は学習する女。
ボス部屋の扉を見上げた。
大体、この扉ってどうやって作ったんだろうとか誰も考えないのだろうか。
無駄に装飾されてるし、コレ自然に出来ましたとか絶対おかしいだろ。
……まぁいいです、なんでも魔素が何とかするんだろ。って自分の心の中で決着をつけて、扉を開けた。
ボスのオークが鎮座ましましていた。
「……すまないな。でも、復活するそうだし、せめて一瞬で殺すから勘弁してくれ」
「だから、お前ってどうして魔物にかっこつけながら話し掛けるんだ?」
とか言われたけど、勝手に住み処に入って殺しまくってるってひどい話だと思うぞ?
自分の家に魔物が踏み込んできたらさぞかし憤るだろうに、踏み込むのはオッケーとか、身勝手過ぎる。
って言いながらも踏み込んで殺す私。
一瞬で駈け寄り首チョンパ。
すると、死体が塵となって消えていく。
「死体が残るものと残らないものといるな」
「ダンジョン産が残らないヤツだ」
なるほどねー。
塵が消えた後、魔石と宝箱。
「……ほら、なんでボスを倒すと宝箱が出るんだよ? コレ、絶対ダンジョンコアが出してるって」
「細かいこと気にすんな。ホラ、開けろ」
細かくないっ!
「大体宝箱って何だよ? 誰がどうして置いてるんだっつーの。経営か? ダンジョン経営なのか?」
ブツブツ言いながら開けたら。
「お、当たりだな」
薬瓶が入ってた。
「……宝箱に当たりがあるのかよ。ますますアトラクション極まってるよな。冒険者というお客様に楽しんでいただくための景品ってことか」
ブツブツ文句言ってたらソードにツッコまれた。
「別にいいだろ。損はしてねぇんだから文句言うな」
「ダンジョンコア様ありがとうございます。いただいて帰ります」
確かにそうでした。
帰り道なんかモンスター出ないし罠も発動しないし。
いっそ【出口】とか書かれてる扉があればいい。
外に出て、ソードと向き合った。
「さて。常識外れ過ぎてダンジョンの攻略自体をどーのこーの言う気は無い。お前がCランクを受ける際の注意点だけ言っておく」
え、攻略のコツとか教えてもらえないの?
「まず、リョークを持ち込むのは許してやる。今後もソレと活動していくってんじゃ、周知の意味でも今から人目にさらしといた方がいいからな。ただ、マッピングはいいとしても目の前に出してただろ、アレ禁止」
「ええー」
「あんなん見せたら軍に目をつけられるぞバーーーカ! お前は俺と一緒にいてただでさえ目立つのに、さらに目立とうとすんじゃねーよ!」
「出た、自意識過剰」
「なんか言ったか⁈」
ブルブル顔を横に振った。
「お前だって地図見ながら攻略すんのつまんねーとか抜かしてただろが。やってみせろ」
「いいけど……」
それだけで楽しくなれるかな?
……まぁいいや、わかった、アトラクションだと思って楽しもう!
アトラクションに地図なんて無粋! 何が出るんだろ的ワクワク感を感じれば良いのだ!
拳を挙げて宣誓した。
「そうだな、縛りプレイで楽しもう。冒険のワクワク感は必要だ、仕事なんだからな!」
「お前はもう冒険者辞めて魔導具作ってればいいと思う」
ヒドイ!
膨れたらほっぺた引っ張られた。
「お・ま・え・は! 呼吸するように人を煽るんだよ! 冒険者なんて皆短気で喧嘩っ早いっつーのに、お前がナチュラルに煽りまくってたらヤバいだろうが!」
「ひょんにゃこひょひゃいみょん」
「あるんだよ! 気付けバカ!」
そんなことないもん。
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