第23話 酒がなければ作らせればいいじゃない
翌朝ギルドに行ったら大歓迎された。
「あの酒の製法は!」
「インドラ君! あの食べ物、すっごくおいしかったわありがとう!」
ギルドマスターには迫られ受付嬢には抱きつかれた。
「あー、お前等うるせー。――俺もお前に相談があるんだよ」
ギルドマスターの部屋に向かった。
「ギルドが管理する倉庫、一個貸してくれ。あるいは、俺が買った倉庫をギルドで管理してくれ」
「……お前、いきなり難題を突きつけてくるな」
「万が一にも中に忍び込まれて盗まれると困る」
ギルドマスターは面倒くさそうに頭をかいた。
「……商人の倉庫じゃまずいのか?」
「酒を保管する場所がほしいんだよ。商人に見つかったらうるせーだろーが」
「よしわかった、手配しよう」
……何が分かったんだろう?
「お前なら、暗くて静かな場所があれば酒を作れるんだよな?」
「まぁな。ただ、料理人や使用人たちはまめに掃除をしたり品質チェックしていたぞ?」
「それは俺がやろう」
なんかギルドマスターが乗り気なんですけど?
「……私はひどい潔癖症らしいが、それでもケチのつけようのないほどに綺麗にしていたが」
一応言っておいた。
「大丈夫だ、任せておけ」
ギルドマスター、胸をたたいてます。
「……まぁいっか。お前たちの飲む酒だもんな。失敗したってまた作れば良いんだし」
「失敗前提で話を進めるな。拠点はここにし、旅に出ても年に数回帰ってきてチェックすればいいんだろう?」
「……この世界の道具って、結構作りが雑なんだよ。樽だって集めたとき、中身が漏れ出るのが八割あったりしたんだからな? そんな世界で、一発で成功するのなんて奇跡。料理人たちに頭を下げて高額でワイン買った方が絶対安全パイ」
「そっちはそっちで手を打ってある」
「は?」
なんか言い出したぞ?
しかもコイツ、あ、口が滑った、みたいな顔してる。
「……オイ、ここで世界を滅亡させる大魔術をお披露目されたくなかったら、洗いざらい全て吐け」
ギルドマスターがソードの後頭部をたたいた。
「いっつもお前はトラブルメーカーなんだよ!」
……コヤツ、いつの間にやら料理人たちと仲良しになってたらしい。
友達いないくせに社交的ではあるのか。いや、利するものがあると積極性が出るのか。
そこで、私がいなくなった後、自分が出資するから酒造を続け売りに出さないか、と持ちかけたらしい。
売れなくとも自分が買うから損はさせないとも言ったらしい。
料理人を筆頭に、ほぼ全員が賛同した。
但し。
「インドラお嬢様の許可があればのお話です」
だそうだ。
「ほう、つまり、ソードの絡んでる酒蔵に行けば酒が買えるってことだな?」
「あ、悪い。ギルドマスターに渡した酒は売ってないと思う」
最初にお断りした。
「なんだと⁈」
「アレは魔術がないと無理なんだ。そういう魔導具もしくは器具を作れば出来ないことはないだろうが、私も原理はわかっても器具で作るとなるとどうやっていいかわからないし、最初はトライ&エラーで失敗の連続だろうな。そもそも、渡した酒を造り出すのにもかなりの失敗を繰り返していたぞ?」
「……それはお前が完璧を求めたからだろ? 料理人たちに聞いたら『なんでこれが失敗?』って内心首をかしげてたらしいぞ?」
わかってないなー。
失敗と言ったら失敗なのだよ。
「じゃ、じゃあ、味見のために、売ってる酒を飲ませてくれ」
朝から?
まぁ……味見程度ならいいけど。
保冷マジックバッグからワインを取り出した。
「それが……」
「あ、全部はあげないよ。テスター用のカップでだからね」
「えええ⁈」
「俺も!」
…………。
ため息をついて、コップについだ。
「こんな少量かよ⁈」
「朝から酒を飲むな。酒に含まれる[アルコール]という成分は」
「わかった、味見だな」
ソードがぶった切って一気飲みした。
「冷えてると味が変わるな」
「香りが弱くなるよな。まぁ、これ、料理用で何度か開けてるから、そのせいもあるけど」
「うまぁああああい‼」
唐突に叫ばれて、超ビックリした。
椅子から飛び上がっちゃったよ。
「これはこれでうまい! 冷えてるから飲みやすいし、この香り! 素晴らしい! これ、葡萄酒だよな⁈ 売られてるのとなんでこんなに違うんだ⁈」
「管理が杜撰なんだろ。酒は生き物です」
それがわかられてないのだ。
もっというなら、この空気中や水中に溶け込んでいる生き物を意識したことがないのだ。なんで腐るんだろうって考えてみろ。
「そうか……。生き物なのか……。大切に育て上げれば、こんなにも美しくなるものなのか……」
あ、酒の擬人化が始まった。
私、Dランクにいきなりあがった。
Dランクまではギルドマスター権限で上げられるのだと。
Cランクに上がるには試験を受けなくてはいけないので折を見て受けてくれと言われた。
ソードとパートナーを組んでるからSランクの仕事も受けることが出来るけど、そんな仕事はめったにないから、そのギルドで対応するランクがいない保留案件を片してくらしい。
依頼票を見ながら
「なんだか私に冒険者は向いてない気がしてきた」
って言ったら「今更か?」って返された。
「魔物を殺す意味がわからない。この世界の人間の方が襲ってくるじゃないか。魔物のような人間を殺した方が人間以外の生物に優しい気がする」
「魔王みたいな発言するな。お前は襲われないんだろうが、他の人間は襲われるんだよ。……つーか、なんでお前襲われないの? そっちの方が不思議だよ」
たまに襲いかかってこられるけどな。
……それにしても。
「やっぱいるんだ、魔王」
「ん? ……そうか、知るわけないか。いるよ」
「もしかして勇者とかもいるのか?」
「いるよ」
「Sランク冒険者と勇者の違いは?」
「……相当違うけどな。比較対象にないっつーか。勇者は、魔王国への侵略を目的に、王国が選別した者の代表を指す。Sランクっつーのは、冒険者ギルドが『実際に実力と実績を示したことを』認定した冒険者のことだよ」
お、なんか含みのある言い方。
「国を滅ぼすような魔物を退治したことがあるのがSランクの冒険者、他所様の国に行って国を滅ぼそうとするのが勇者、ってことか」
「お、お前、良いこと言ったな」
なでられた。
「勇者にはなるべく近付くな。勇者に選ばれたやつは、国から選ばれただけあって武術も魔術もかなり強いが、いきなり名も無い平民が選ばれて、以降チヤホヤされるから選民意識が貴族よか高くて、国の後ろ盾があるから好き放題やらかす連中が多い。絡まれたらトラブルの素だ」
「盛大にフラグ立てられたな」
「は? いや、大丈夫だろ、今代勇者はまだ現れてない。現れたら出て行くまで王都を避けときゃ会わねーよ」
……まぁ、当分はここが拠点だ。
酒を造らないと。
…………うん? それならば。
「料理人たちをここに呼ぶことは出来ないのか? それなら、私が時たま戻ってきて魔術でしか出来ない部分を処理し、あとは任せればいいのでは?」
って思ったんだけど。
ソードがまじまじと私を見た。
「お前、頭良い」
「……無理だからあの場所でやるんだよ、って返答を期待してたんだがな。ここで酒を作ってもらった方が、いざとなったときにギルドマスターに……どこまで頼れるかわからないが、頼れるだろう? あの町では、あの男にバレたときどんな事態になるかわからん。 少なくとも酒を横取りされる、利益を横取りされる、知識を横取りされる、私だとバレた場合酒樽は全部壊し破棄され、以降二度と作らせないようにえん罪で陥れられるくらいはやりかねないぞ?」
「すぐ連絡して、ここに来てもらうようにする」
即答!
でも、移動か、酒をこの輸送手段がまずいこの世界で運ぶとなると……。
「酒は駄目になるだろうがな……」
つぶやいたらギョッとされた。
「な、なんでだ?」
「馬車での移動になるだろう? 長い時間、馬車の激しい振動を与え続けることになる。しかも、荷台に積んで、どのくらい温かくなるかわからない。言った通り『暗く涼しい場所で、静かに過ごす』環境じゃないと酒が毒に変わるんだよ。ヘタすりゃ大爆発だ」
「……よし、俺とお前で運ぶぞ。 最悪飲み干す」
言うと思った。
ソードはいち早く料理人たちのところに向かって準備を進め、私はというとギルドマスターと組んで場所の選定をしたり、魔導具の解析及び開発を行ったりした。
なんかほとんど冒険者活動してなくないか? 私の行っていることは少なくとも冒険者がやることじゃない、気がする。
いまだに冒険者とは何たるかがわかってないんだが……。
ふと、荷運びで駄目になるって言ってしまったことを思い出す。
「……正直なところ、そこまで神経質にならなくても良かったかな?」
今は船旅やら空輸やらだろうけど、昔は馬車を使ってただろうし、醸造酒はともかく蒸留酒は環境に結構強いらしいし。
多少味が落ちたって飲んべえたちは平気で飲むだろ。
だが、味が確実に落ちると分かっているのにその手段を採るのは職人としてダメだよな。
私は〝作り手〟であって商人ではないのだから。
輸送用の馬車も構想はあるけれどこの世界にそぐうものかわからないしなー。
って考えてたらソードから連絡が来た。
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