第24話 酒蔵建てた蔵建てた

 結局。

 料理人、使用人、メイドが条件をつけ、ソードとの交渉に応じこちらに来ることになった。

 残留組は今後一切私が開発した商品を作らないし聞かれても答えない、ということに落ち着いたそうだ。

 私はざっくりと位置情報のわかる魔導具を作成、それを駆使し、一ヶ月の道のりを三日に短縮し、やはり作りたてマジックバッグ改に酒を詰めてソードと拠点に戻った。

「どうせ拠点にするなら家を買ってそこを酒蔵にすりゃいいだろ。金はソードが出すんだから、とびきりのところを契約しとけ」

 ってギルドマスターがホボ決めた豪邸に運び込んだ。

「おいぃ! なんだよココは⁈」

「お前さんたっての希望の安心安全な酒蔵だ。ついでに住める。そのお嬢ちゃんは生粋の貴族だし、お前もSランク、これくらいの豪邸でもいいだろ」

 食ってかかったソードにのほほんと答えるギルドマスター。

「手付金と改修はもう済ませてある」

「インドラ⁈」

 ここなら住んでもいい、って改修をした。

 トイレは水洗、浴場もちゃんとバスタブ付き! なんならキッチンにディスポーザーも付いている。下水処理も魔導具で完璧だ。

「私の知識をフル活用した、以前住んでいた場所に近いレベルの住み処に改修した。ここなら私も泣かずに暮らせるぞ?」

 笑顔で言ったらため息をつかれた。

 なぜだ。


 料理人たちが到着した。

 なぜか皆、ひざまずいた。

「インドラ様、お久しぶりです」

「あぁ、久しぶり。最初に言っておくと、私はもう貴族ではなくお前たちと同じ平民だ。そして、お前たちと交渉したのはソードだ。以上」

「それでも、私どもはインドラ様の英知により、ここに来た次第です」

 …………うん、なんだろう。

 この狂信的な感じって一体?

「とにかくだな? ソードに指示を仰いでくれ。私とソードはパートナーだが、お前たちのことに関してはソードの手伝いレベルなんだ」

 ソードに振った。

「そう邪険にしてやるなよ。お前に会えてうれしいって気持ちを察してやれって」

「あるわけないだろう。なぜうれしがる必要がある? 私なんて、「屋敷の当主に嫌われてるのかなー」くらいの、料理と酒の作成知識がなぜかある貴族らしくない貴族、としか思ってなかっただろうが。その他に何か思う感情があるわけないし、あった気配すらない」

 途端に全員うつむいた。

「……お前さー。他人に『他人の気持ちを察しない』とか言っておきながら、お前だってそう言う人間だって気付いてる?」

 ソードに言われたことにがく然とした。

「お前だってコイツらが『お前が虐げられてんのを憤って見てたしどうにかしてやりたかったけどどうにもできなかった』って悔恨を全然わかってねーじゃねーか。『気持ちがあってもなんにも出来なかったのは気持ちがねーのと一緒だ』とか言いそうだけどよ、そりゃ違うぜ? それこそ、相手の立場に立てねぇお前が気持ちがわからねーのと一緒だってよ。……コイツらが、なんでお前の元に来て頭を下げたかって、その理由を察してやれよ」

 …………確かにそうだった。

 私は、自分の境遇を誰にもわかってもらえない、それでいっぱいいっぱいだった。

 記憶がよみがえる前も、よみがえった後もそうだ。

 執事、メイド長、メイドたち、使用人、そして料理人。

 思えば、いろいろと心遣いされていた。

 最後にお金を持ってきてくれたのは執事だ。当主に逆らって持ってきてくれた。

 メイド長も、絶対に仕事中にあんな私用の真似をしなかったのに、出奔する私なんかを呼び止めて、いろいろくれた。

 使用人やメイドたちも、私にってくれた。

 料理人が挨拶してくれたのに、素っ気なく返した。

「そんなに長く生きれるわけないじゃん」とか思いながら。

 私って、ヒドイ。

「わー! 悪かった! 責めたワケじゃねー!」

 ソードが慌てて話し掛けてきて、急に抱き寄せられた。

 そしてやたらめったらなでられる。

「……私って人でなしだ」

「そんなことねー! そんなことはねーからな! お前は言葉はきついけどお人よしだ、俺のことだって許してくれたし、腹違いの妹のことだってなんだかんだ面倒みてたそうじゃねーか! 環境悪すぎで人間不信になってるだけだ! お前はそもそも気配りの出来るやつなんだ!」

 ……どうやら泣いてしまったらしい。

 ソードにすがってひとしきり泣いて、その後ソードが手ぬぐいで拭ってくれて、ようやく向き直った。

 ら、一同全員唖然。としていた。

 …………?

 ソードが咳払いして

「……大人びててもやっぱ子供なんだよ。感情が高ぶると普通の少女みたいになるんだ。特に汚い場所を見ると泣くから、掃除頑張れよ」

「「「かしこまりました」」」

 即返事してた。

 頼もしい。


「酒蔵は屋敷の地下に作った」

 家を全員に案内しながら説明した。

「運んだ樽ももう納めて休ませてある。仕込みの部屋はその上だ。そこは私と大工で急増築したので不格好だが、作業場だから諦めてくれ」

 未来に蒸留器具を入れてもいいように、そして十年、十五年ものをたくさん仕込んでもいいように、上も下も大きく作った。

 自分たちだけで呑めばいいじゃーん、って言いながら本格酒蔵目指してる私だった。

「家の方は、私は部屋を決めた。あと、ソードが部屋を決めたら、後の部屋はお前たちが好きに選べ」

 って言ったら全員固まった。

「いえ、それは……」

 困った顔でソードを見たんだけど。

「ん? ソード、ダメだったか?」

「いいんじゃねーか? つまり、『この屋敷の管理をコイツらにしてもらう』ってことだろ?」

 うなずいた。

「しかし……」

「部屋数はたくさんある。私は広い綺麗な部屋がほしいが、数はいらない。いないときに掃除してくれ。汚い狭い、コワイ」

「「「かしこまりました」」」

 メイド嬢たちが一斉にかしこまった。

 ……え、あれ?

 なんかすっごい納得されてますが? 任せて下さい的な雰囲気出してますが?

 ソードが頭をなでてきた。

「インドラは〝普通の冒険者〟が泊まるような部屋見て震えながら泣き出したからなあ」

 泣くだろ、アレは。人が踏み入れていい場所じゃない。

 踏み入れたら、「どうしてこんな狭くて汚いとこで一人きりうずくまってるんだろ?」っていろいろな事を思い出しながら泣いて夜を明かすレベルのひどさだ。

「インドラお嬢様をそんな場所へ⁈」

「何をしてらっしゃるんですか⁈」

「二度と汚らわしい場所に連れて行かないで下さいよ! さもないと、酒樽全部たたき壊しますからね!」

 なんかメイド嬢たちがエキサイトしてるんですけど。

 あれ? 私、そんなに人望あったはずないんですけど。

 使用人の一人が、考え込んでる私の前にすっと立った。

「使用人と主人の住み処は本来は分けるべきですが」

 たぶんリーダーとなってるぽい使用人が渋い顔で言ってきた。

「今私は、平民。ソードは、自称『偉い人』」

「自称じゃねーよ!」

「偉いって言ってるけど、受付嬢に『死ね!』とか言われて短剣投げつけられるレベルの人」

「…………」

「ここを買った金は、私とソードで払ってる。けど、屋敷には維持費、ってのがある。勝手に住んでいい。でも、掃除と整理整頓して。それが家賃。給料は出せない。以上」

 納得したらしい。

「……あと、他人は呼ばないで。特に酒蔵は厳禁。理由は、うっかりでも触って酒が毒に変わることがある。駄作でもうまいと感じるのでしょうが、どうせなら更なる高みを目指しましょう。それには、知識のある人間による徹底管理が一番です。酒は生き物です」

 好奇心の塊の人間は子供に限らずどんなことをするかわからん。

 しかも、自分の行為がクラッシャーだって自覚もしない。なので近寄らせない。

 みんなが一斉に頭を下げた。

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