第22話 汚いよ狭いよ怖いよ(泣)

〈ソード〉

 計画が失敗した以上、俺が冒険のイロハを教えることになる。

 俺ならいきなり高ランク宿に泊まれるけど、コイツの教育に悪いからってんで仕方なく安い宿屋を選んだ。

 Gランクが泊まれ……Gランクじゃ泊まれないな、Dランクくらいが泊まれるであろう宿屋だ。

 あんまり安すぎると俺が泊まりたくない。

 で、やっぱり興味はあったんだろう、ウキウキした顔で宿屋に入り、ソワソワしながら部屋のドアを開けた。

 ……かわいいとこあるじゃねーか、こういうところは年相応……。

 ドア、閉めたよオイ。

 ゆっくり俺を見上げてきた。

 プルプル震えてる。

「……無理だ。絶対、無理。こんなとこ狭くて汚い泊まれない。狭くて汚い、無理」

 オイ!

 潔癖にも程があるだろうが! お前、その少女たちと組んだら、こんなとこレベルじゃねぇトコに泊まることになったんだよ!

 って叱ろうとしたら、見る間に涙が膨れ上がった。

 え。

 ……プルプル震えながら泣き出した‼

「……森に帰りたい」

「わ、わかった! 宿を変えよう。大丈夫だ、俺はSランクだから、もっと高ランク宿屋に泊まれる。そこなら大丈夫なはずだ!」

 慌てて手を引いて「悪い、キャンセルだ!」って叫んで飛び出した。

 えっえっと泣いてる。

 ……オイオイ、罵倒されようが凶悪魔物と出くわそうがガラの悪い男に絡まれようが泣かなかったのに、部屋が汚いってので泣くのかよ。

 呆れたけど、でも正直、ようやく年相応の少女に見えてかわいかった。


 泣いてるコイツを連れて周りにジロジロ見られながら歩き、高ランク宿屋に着いた。

 やっぱりジロジロ見られたが、カードを見せて黙らせた。

「一番いい部屋にしてくれ」

「かしこまりました」

 で、着いた部屋をそーっと開けた。

「こ、ここなら大丈夫か?」

「…………」

 ようやく顔を上げて部屋を見た。

 恐る恐る近付き……いきなりなんか魔術ぶっ放した。

「オイ!」

 止める間にも次々魔術をぶっ放してる。

「消毒、掃除、洗濯、完了。……これなら、なんとか大丈夫」

 ……貴族サマもビックリの、出来立てみたいな綺麗な部屋に仕上がった。


          ***


「……やっぱり、これからは野宿しよう? こんな部屋にお金払うのもったいない。道具と魔術を駆使すれば野宿の方がもっと快適に過ごせるよ、そうしよう?」

「わかった、もういいからお前の好きにしろ」

 横に座って腕にすがって必死で説得したのに投げやりに言われてしまった。

 ……お金を使わせて泊まらなかったのは悪かったけど、アレは無理。

 狭いし窓ないし臭いし汚いし虫とか絶対いるし。

 アレでお金取るなんておかしくない? 土地余ってんだからもっと部屋広くしろよ。あと、掃除しろ。

 ……って考えてたらソードがニヤニヤしてた。

「どうしたの?」

「ようやく、年相応のお嬢様、って感じが出たな、って思ったんだよ。部屋が汚いくらいで泣いちゃって……」

 思い出したら怖くて泣いた。

「わーーー! 悪かった! もうからかわない!」

 ソードが慌ててる。

「汚い狭い、コワイ」

「わかった、わかったから泣くな」

 必死でなでられた。

(注:インドラさんは別世界基準でも結構綺麗好きです。屋敷にいたときも、部屋やトイレで洗浄魔術をぶっ放していて、魔術で綺麗にするのはお得意です。でも、汚部屋レベルにも限度があり、そこそこ綺麗じゃないと掃除する気すら起きません。)

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