第21話 ギルドから出た後
インドラとソードが去った後、ギルドマスターは受付に行き、警戒されていた受付嬢にインドラからのプレゼントを渡した。
「ホラ、インドラからプレゼントだぞ。警戒してただけで嫌ってないとさ」
受付嬢、それをもらってまたギャン泣きした。
「インドラくぅ~~ん! 優しすぎる~~!」
「泣くな、冒険者共が引いてるぞ。で、ソレの中身は蜜に似た味のもっと安い何かだとさ」
それを聞いた他の受付嬢が目の色を変えてわらわら集まってきた。
「いいな~」
「少し! ほんの少し分けて!」
「いいじゃんかアンタたちは! インドラ君に笑いかけられてて!」
泣きやみキッとにらんだら、受付嬢たちは顔を見合わせて肩をすくめた。
「でも、変なこと言わないように相当気をつけたよ?」
「何が機嫌を損ねるかわからないから、かなり気を遣って腫れ物を触るようなにこやかな対応を心がけました」
インドラ、結構なVIP扱いをされていた。
「俺も気になるから開けてみてくれ」
あちこちで催促されたので渋々開けると、茶褐色の液体が入っていた。
「蜜……じゃないな。匂いが違う」
「でもいい匂い! ……なんか、知ってるような知らないような……?」
「これって、どうするんですか?」
ワイワイ話す。
「棒ももらったぞ、これの先を突っ込んで、巻き取ってなめるらしい。あとは適当に塗ったりかけたりしろと」
「えー? あのインドラ君がそんな適当なこと言うかな?」
「覚えてるワケねーだろ。伝言伝えるのでいっぱいいっぱいだよ」
受付嬢が棒を受け取り、先を恐る恐る浸し、持ち上げると伸びた。
「わ! 伸びる!」
「確かに巻き取らないとダメっぽい」
くるくる巻き取り、なめる。
「?!!!!」
思わず口を押さえた。
「え? 何? まずいの?」
「どんなのだったの?」
「…………すごく、甘い。…………ナニコレウマーーーッ!」
「「ちょっと分けて!」」
「ヤダ!」
冒険者そっちのけでギャーギャー言い合う。
「こりゃ、酒も楽しみだな」
ギルドマスターはつぶやき、こっそりと戻って瓶の封を切り、一口飲んで、
「なんじゃこりゃーーーーッ⁉」
叫んだ。
***
「私の分の酒を私がどうしようがお前に関係ないじゃないか。そもそもが、私と当分会わない気だったんだろう? その間に私が友達になった連中に酒や調味料を振る舞ってなくなったとしたら、お前がまた私と組もうともそれにありつけることはないだろうが」
ぐっと詰まってた。
「だから、テンパってたの! そんな重要なことも思いつかなかったの! ……お前、何本持ち出してきた?」
コイツ、依存症なんじゃないのか?
「……お前の分としてそれぞれ一樽ずつ確保して渡しただろう?」
――ソードが交換条件で私にくれた魔導具は、マジックバッグだった。
あと二つほしかったので、大容量のを二つ用意してくれたなら専用に酒を造ってやる、と言ったら
「これ以上のマジックバッグは存在しねーぞ」
ってヤツをくれたので、吟味した材料でソードスペシャルバージョンを仕込んでやった。材料代は払わせたけど。私、お金持ってなかったから。
ソードは現存する最大ランク最高ランクのマジックバッグに熟成期間を経たそれを詰めて持っている。
ちなみに、私もソードも樽を数個持ち歩いたとしても全く重さを感じないくらいのパワーを持っているので問題ない。
「お前が仕込まなけりゃあと三年は飲めないだろうが!」
「当分仕込むつもりはない。拠点がないと無理だ。酒というのは生き物だといっただろうが。暗く涼しい場所で静かに寝かせておかないとダメなんだ」
料理で使う分には数年以上持つし、贈答用も確保している。
「ワインなら料理人たちも作り続けるだろうから、年一で戻って分けてもらえ」
「そのつもりだけどな、宝石みたいに透き通った色の、喉が焼けるほど濃い酒も好きなんだよ。こっちはお前が魔術を駆使しないとダメじゃんかよ」
「どうにもならん。諦めろ。どのみち私が少女たちとキャッキャウフフの道を選んでいたら手に入らなかった」
「お前、しつこい! 俺が悪かったごめんなさい! だからお酒、ください!」
何このダメオヤジ。
そのダメオヤジに連れて来られた宿屋。
「俺なら高ランク宿屋にも泊まれるけどな、お前の教育のために一般的な宿屋にしよう」
っていうことで、ファンタジー感あふれる普通の宿屋です。ボロいユースホステルみたいな?
場所を教えられ開けたその部屋は……。
パタン。
ドアを閉めた。
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