第20話 仲直り報告にきたよ

 まずギルドに報告する、って連れて来られた。

 入る前に念を押された。

「強者がわからないバカがいても殺すなよ?」

 なら連れて来なければいいじゃないか。

 結構バカばっかりだったぞ? 音波光波遮断魔術使って存在を認識しないようにしてたけど、完全遮断はしなかったから、薄らとバカなことを言ってきていることは感じ取っていた。

 この世界の人間は、魔物よりバカ。


 中に入ったら一斉に見られた。ウザい。

「仲直りしたか」

 ギルドマスターが寄ってきた。

「なんで「許してやれ」とか「反省してる」とか言ってたのかわかった」

「……あー、そこから分かってなかったか」

 平手で額を打ってる。

 受付嬢を見たらビクッとされた。

 ……なんだろう、この最初に応対した受付のお姉さん、反応がおかしいというか、過剰というか……。

「……あと、なんで急に『いいパートナーを紹介するよ?』とか言い出したのかもわかった。正直、あっ旋料とか入ってくるのか、怪しげな冒険者に袖の下をもらって何も知らないなりたて冒険者を売ってるのかって勘ぐってたけど、そういうことだったのか」

 お姉さん、青ざめたと思ったら、急にウルウルしだして、最後ギャン泣き。

 ドン引き。

「全部ソードさんがいけないんですぅ~~! 頼まれたことやっただけなのにぃ~~! そんなひどいことする人って思われて避けられてぇ~~!」

「……お前、いくらなんでもひどい人間扱いしすぎじゃないか?」

 って全部がいけないソードさんが言い出したぞ?

「この世界の人間、それくらい朝飯前にするだろう?」

「……いや、ギルドの人間にそこまでのやつは……。……まぁ、警戒するのに越したことはないか。仕方が無いな」

 ギャン泣き受付嬢がすごい素早い動きでソードに短剣投げつけた!

「死ねばいいです! アンタがろくな事教えないしろくな言い方しないからいたいけなインドラ君が闇に染まっちゃったんです! 社会のガン!」

 わーお。

 自称偉い人、全然敬われてなさそうなんだけど?

 あとね、私、女。


「お、そうだ。さっき、お前さんに絡んで首を切り落とされそうになった男、アイツの冒険者ライセンスを剝奪した。以降、二度と冒険者としては活躍出来ない」

 って言われたけどなぁ……。

「ここでは、だろ? 他所に行って登録すれば……」

「バーカ、無知。出来るワケねーだろ。ギルドナメんな。剝奪されたら他所にも一斉に通達行くんだよ。ギルド専用の魔導具が、全ギルドに同時に剝奪されたり登録された情報をお知らせすんだよ」

 って、自称偉い人がのたまった。

「[専用線ネットワークシステム]か! そこは結構発展してるんだな!」

「「は?」」

 思わずつぶやいたら聞き返された。

「気にするな、独り言だ。でも、変装したり偽名使われたらどうするんだ?」

「いや、姿形を変えようと名前を変えようと、お前はお前、俺は俺だろ? 冒険者カードのコレは魔導具で、何が変わろうとも本人と認識するし、ギルドの魔導具もそうだ」

「[生体認証]か!」

 なんでここで最先端⁈

「また謎の言葉を……お貴族サマはこんなカードなんて作らなくてもいいんだろうが、平民は必須だよ。自分を証明する大事な大事なカードで、他人が持つとピカピカ光って警告を発する便利なカードだ。剝奪どころか犯罪者として登録されたら、関所や詰め所、騎士団の魔導具にも情報がいく。じゃねーと捕まえられないだろが。このカード持ってないやつは、お貴族サマか盗賊の子に生まれついたやつしかいねーよ」

 わぁ。この世界って、貴族と盗賊同類らしいよ? ノーブレスオブリージュとかいう言葉って存在しないみたーい。

「理解した。……生体認証か……。それは素晴らしいな」

 聞いたソードが満足そうにうなずいた。

「ようやく〝この世界〟にも見所があったか」

「貴族と盗賊が同類で扱われるところで絶望的だけどな。……それはそうと、例の件、頼んでくれよ。お前、自称偉いんだろ?」

 ギルドマスターと受付嬢たちが噴いた。

「自称じゃねーっつってんだろ! ……おい、ギルマス! コイツに『魔導液』を渡してやれ!」

「は?」


 魔導具は、前の世界で言う電子機械みたいなもんと解釈した。

 魔導具には、必ず魔法陣が描かれている。擦っても洗っても落ちない優れもの。

 この魔法陣は、魔導液というもので描かれていると教えてくれた。

 私が見るに、魔法陣とは、プログラミング言語で書かれたプログラム。

 ということは、プログラミング言語の辞書と魔導液があれば大体書くこと出来るよね。私プログラミング得意だし!

 でも、そんな本はない、魔導具を作るには魔導具を作っている魔導師に弟子入りして教わるのだとか。マジか。

 ……と、ちょっと待て、この魔導液というものはなんだろう?

 プログラムを組むには、プログラミング言語を翻訳し実行する[ソフトウエア]が必要になってくるぞ。

 つまりは描かれた魔法陣を魔術に変換して魔素に伝え実行する媒体、それが魔導液。プロセッサも兼ねてます。

 で、魔導液の作り方を知りたいと言ったら。

「だから、魔導師に弟子入りして」

 それもか!

「つーか、魔導具をホイホイ作ろうって発想がおかしい。時計だけはな、当時作り出した魔導師がこの世界の基準を作り出したい、っつって当時の王を説得して、ばく大な金と時間を掛けて悲願を達成したっつーシロモノなんだよ。普及のため作り方が公開されてるし国でも支援してるから割と安値で手に入るけどな、基本、他のは作ったヤツが売るから、中には大した魔導具じゃなくてもバカみたいに高いのもある」

 その言葉のあと、ジロッとにらまれた。

「魔導液が手に入れば、お前、作れそうなのかよ?」

「まず、魔導液を解析してみないと何とも言えないな。――恐らく、魔導液に、魔術を教え込ませてる。この文字を使ったらこの魔術が発動、というように。秘匿を美としている連中が作ってるなら実際はもっと複雑かもしれないが。で、その魔導液で、動かしたい媒体に、文字を描く。描かれた文字を魔導液が解析し、魔素に命令して魔素がこれを実行、これで魔導具が動く。…………たぶんね」

「自信満々に言ってて最後のセリフはソレかよ」


 ――そんなやり取りを経た後、ソードが伝手を頼れば手に入るカモ、と言ったことがあったのだ。

「簡単に渡せるものじゃないだろうが!」

 ソードが冒険者カードを突き出した。

「出せよ」

「…………。お前ってやつは……! 『時計』だからな! 来い!」

 時計の魔導液ってことか?

 ついていくと、【ギルドマスター】って書かれた部屋に着いた。

 魔導具らしい棚の封印を解いて、物々しい瓶を突き出した。

「これだ。……どうする気だ?」

「解析する。私は、こういう工作が好きだったんだ」

 夏休みの工作キットで自動卓上掃除ロボを作ったりしたなぁ。

 別世界とは違い、ここは専用器材がなくとも魔術でなんでも出来ちゃう世界!

(注:できるのはインドラくらいです)


 それから、しつこく解析してるところを見たいだの、せめて解析結果を教えてくれだの言われてへき易した。

「魔術でやるから誰にでも出来るだろう。それに、魔導師に弟子入りしたら教えてもらえるんだろ? 私はいちいち弟子入りするのが嫌だから自力で解析するんだし、そもそも解析出来るかもわからない」

 と言って断った。

 大事にしまい、気をそらすためマジックバッグから酒を取り出した。

「礼だ。コレをやる」

 ソードが目をクワッと見開いた。

「……お前ェ⁉ それは三年熟成の[ブランデー]とか名前つけてた酒じゃ……⁈」

「お? 出奔しても貴族の子だな。酒が礼とは粋な真似をするじゃないか」

 粋なのか。それにしてもこの世界、酒飲み多いよね。

 製造が秘匿されてる割には多いよね。

「ダメダメダメダメだ‼ 返せ‼」

 ソードが酒を奪おうとする。

「お前のじゃないだろ」

 ツッコミ入れたが聞き入れられないし、ギルドマスターも死守した。

「俺がもらったんだ!」

「お前には百年早い!」

「ソード! お前なら高ランク酒なんていくらでも手に入るだろ! 俺は貴族サマが飲むような酒なんて簡単に手に入らないんだよ!」

「貴族の酒じゃねーよ! コイツが作ったんだよ!」

 ギルドマスター、クワッと目を見開いて私を見た。

「……酒が、作れるのか?」

「簡単なものなら簡単だな。渡したソレは魔術が使えないと無理だ」

 ギルドマスター、がく然と私を見てる。

 ソードが迫ってきた。

「お前! なんでアイツに渡すんだよ!」

「コレの礼だって今言った。魔導具の棚から出してたってことは、結構手に入れるのが厳しいものなんだろう? なら私も相応の品を出さないといけないだろうが」

「俺に礼は⁈」

「私に失礼をしたので相殺してやる」

 ショックを受けて立ち尽くしたソード。

 代わってニコニコ顔のギルドマスター。

「……つまり、ソードが目の色を変えるくらいにうまい酒で、【血みどろ魔女】もはだしで逃げ出す魔術を駆使しないと作れない逸品ってことか。そりゃ飲むのが楽しみだ」

 今、「血みどろ魔女」って言った? 翻訳間違い?

 まぁいいけど。

「開封したら日持ちしない。蓋を開けたら念のため数日以内に飲みきった方がいい。飲みきれなかったら料理にでも使え」

「そんなもったいないこと出来るか!」

 って……。

 なんでみんな料理に酒を使うのをもったいないと言う?

「……あと、あのギャン泣きしてたお姉さんに、これを。警戒してただけで嫌ってたワケじゃないと伝えておいてくれ」

 ソードに短剣投げつけるくらい傷ついてたらしい。ごめんね。

「容器にこの棒先を入れて絡め取るように取ってなめたり、パンに塗ったりする。果物にかけてもいい」

 水飴を渡した。

「これも酒か?」

「女性に酒を渡してどうする。この世界に蜜はあるだろう? 似たような食べ物だ」

「おい……。お貴族サマ、蜜は高ランク品だぜ? そんなんホイホイ渡していいのかよ?」

「だから、蜜じゃない。安く簡単に作れる食べ物だ。蜜じゃないからな、期待を持たせるような渡し方をするなよ」

 そう言って預けた。

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