第19話 怒ってたのか(当たり前だ)<ソード視点>
〈ソード〉
「もう町を出ようと思ったんだが……」
嫌がるインドラを引っ張って、町に戻った。
「観光したいっつってただろーが。どこも行かずに森ばっかりで暮らしてるんじゃねえ」
「この世界の人間がうじゃうじゃいるような場所で眠れるワケ無いだろう」
「お前、人を信用しなさすぎ! ……半分くらいは俺のせいだけどよ……。でも、俺は! お前のためを思ってやったんだぞ⁈」
「だから、わかった。ただ、この世界の人間は利己的で他者に対する配慮が足りなさすぎるのは確かなんだよ」
……毎回話してて思う。
「お前のその『この世界』って、一体どういう意味だよ? まるで別の世界から来たみたいな……」
思い至った。
……オイオイ、そういうことなのかよ? いや、でも、コイツ、出生は確かだよな? 顔だって親に似てる。
……でも、待てよ、一度死にかけた、っつってたよな。
死にかけた、っつーか、死んだんじゃねーか? それで別の世界からやってきたコイツが、この体を乗っ取ったんじゃねーか?
突拍子もない考えだが、あるっちゃあ、ある話。死体憑きってのがそうだ。それだとコイツは……。
俺の反応を見て、ため息をついた。
「……まぁ、それに近い。私は別世界での体験と知識を持って、この世界のこの身体に生まれた。五歳のときにその記憶を夢に見て思いだしたんだ」
……マジかよ。
「別世界の知識をもった私が見たこの世界は、ひどく利己的で酷薄な人間ばかりの世界だ。本当にひどい。……別世界の私のいた場所は、困っている人間を見かけたら何も期待せず無償で手を貸すのが当たり前だった。ま、自分に多大な迷惑をかけられないという前提はつくが。他者への配慮や気配りが出来ない人間も確かに多かったが、それが出来る人間もたくさんいた。この世界には、いないよな」
遠い目で話をした後、すさんだ笑いを浮かべた。
「私が死ぬときは、二度とこの世界に生まれ落ちないよう、この世界を滅ぼしてから死にたい」
病んでる。
ヤベェ、ここまで病んでるとは思わなかった。
「……ほ、他になんかねーのか? ここの感想は……」
「不潔だな」
すっげー言葉が出た。
……なるほど、コイツのこの潔癖さは、別世界の常識なのかよ。
「私は別世界でトップランクの清潔さ安全さを誇る国の生まれだったんだ。その国はほぼ身分に差がなく、大体の場所が清潔で安全。そこの出身だった私はこの世界で言う平民だったが、この世界の貴族より清潔だったよ。……私が手がけた最初の作品は、身体を洗うための洗剤だったからな。五歳児が出来る限界の作品だったが、それでも単に水を被るだけよりもマシだった」
「うわー……。お前の身体を洗うための執念が目に浮かぶな」
後、もう一つわかった。
「お前が妙に年寄りじみてて子供とは思えない冷静さなのは、その別世界で生きた年齢からくるのか。お前、そこで幾つだったんだ?」
「わからない。一生分覚えてるワケじゃないんだ。若くして死んだというワケじゃないのは分かってる。ちなみに、当たり前だが友達も恋人もいた」
「うるせぇよ‼」
どっちもいねーよ悪かったな‼
「子供らしさがないのは貴族の子も同じようだけどな。当主の娘は平民上がりで子供らしかったが、お茶会に行ったとき貴族の子たちにドン引きされてたぞ? 私の方がスタンダードだった」
「あぁ……。まぁ、お貴族サマはそんな感じか。クッソ生意気で高飛車な態度が鼻についたな。……ま、そんなこたいいんだ」
手を引っ張って抱きしめた。
「……この世界を俺が案内してやる。俺がこの世界の常識を教えてやる。だから、安心しとけ」
「…………。あのな」
力強く押し返され振りほどかれた。
え? 何?
「今言ったセリフ、今ならまだ聞かなかったことにしてやる。取り消してこのまま私の前から立ち去れ。だが、それをせず、次、同じようなことをやったら、『別世界で禁呪になった大魔術』でお前を殺すぞ。お前の人体を構成しているものに呪いの魔術がかかり、蒸発し吹き飛ぶ、それを防いだとしても汚染されれば崩れるように壊れて死んでいく。その魔術を行使して殺す」
突き放したあの時と同じ、強い光を帯びた目で俺を直視した。
「……あぁ、いいぜ」
思わず笑っちまった。
やっぱ、コイツ、俺に突き放されて怒ってたのかよ。それでも俺をもう一度信じてくれる気になったのか。
「んじゃ、行こうぜ」
また手をつかんで引っ張った。
「……今日はもう気乗りしないんだが。森の方が安全だし、森で野宿しないか?」
「あの森を安全だっつーお前の思考がおかしいんだよ。あの森、かなりの数の魔物が生息してるんだぜ?」
「基本、魔物は臆病だし、気配を察知する感覚が人間より鋭い。強者がいたらそこには近付かない。強者がわからないバカな人間とは違う」
振り返って思わず見た。
「……マジか」
「というのは、ここ数日森に寝泊まりして発見した」
「最近かよ!」
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