第13話 料理を作ったよ
料理を作る。
「確かに手際が良いな。つーか、料理人よかすごくねーか?」
とか言われたが、うん、これね、たぶんに魔術が発動してるらしいよ? こんなに素早く切れないよね、ファンタジーな料理マンガみたいだもんね、って自分でも思う。
火を付けて炒めたら、
「……お前、サラッと火魔術を使ってくるよな。つか、今の、本当に火魔術か? そんな火魔術アリなのか? あとなんで無詠唱なんだよ?」
とか、いちいちうるさい。
味付けしだしたら身を乗り出してきた。
「お前、ソレ、何だ? 何使ってる?」
「私が作った調味料だ。この世界の言葉では表現方法がない」
「お前、ちょくちょく『この世界』っつーけど、なんて意味だよ?」
「五歳までにたたき込まれたのはしつけだけじゃなくて言語もだ。語彙は大人の貴族並みにある。だけど、私が知っている言葉にはこの調味料に該当する単語がない、という意味だ。だからお前に伝えられない」
「わかった、つまり、オリジナルってことか」
「大体合ってる」
無から有を産み出したワケではないが、似た材料を探して似た製法で試した私のコレはオリジナルと言っていいんじゃないだろか。マヨネーズって、そもそも意味わかんないネーミングだよね。
途中で酒を振ったらさらに身を乗り出してきた。
「お前、ソレ、なんだ!?」
「酒だ」
「?!!? 酒を料理なんかに使うな!!」
怒鳴られたし。
「むしろ料理に使うものだろう」
「何言ってんだこの非常識人間! もったいないだろうが! 貸せ! よこせ! 俺が飲む!!」
「やなこった」
「ガキが持ってるものじゃねえ!」
さらに意味わかんないことを言われた。
「料理に使うものだって言ってるだろうが。第一、これは、結構苦労して作ったんだ。簡単にやれるか」
「?!!!!!!? お前……酒が造れるのか?」
「自家製ならな。……なんだ? やっぱり酒は、資格を持ってるやつじゃないと作れないのか? 料理人はそんなこと言ってなかったが……」
「別に資格なんざねーよ! 作り方が秘匿されてるだけだよ!」
なんと。
男が生唾を飲んだ。
「つまり? お前はその知識を持ってると?」
「料理人もな。あ、手伝いの連中も知ってるな。使用人の一部も知ってる。皆で研究してようやく飲用可能レベルまでになったんだ。私もそのために大分、魔術が上達したな」
「…………」
男がガックリと肩を落とした。
「なんだ?」
「つまり、お前が高等魔術を駆使して作れば作れるってことか?」
「うーん……。魔術を使わなくても出来るだろう。ただ、一言で言えば金がかかる」
「……なるほどな、高等な魔術か、それを補えるほどの金か、ってことか」
「そんな感じ」
――酵母、麹菌、納豆菌、乳酸菌、酢酸菌。
食文化とは発酵の文化のことである。……うそですテキトー言ってますごめんさい。
でも! 歴史を積み重ねて、腐った食べ物が発酵食品となり! 身体に良い菌を見つけて特定の菌だけを培養するようにしたり! その菌をより安全な物に改良したり! さらに、雑菌を繁殖させず安定供給されるまで、苦労に苦労を重ねて食が発達したと思うの!! ……ぜぇぜぇはぁはぁ。
この世界でこう手に入れにくいとライフワークにしたい気分になるが、子供の私にはスポンサーがいないとどうにもならないもん。それに、なんだかよくわからないけど、もしかしたら魔術の力が働いたのかもしれないせいで、今のところ、酵母を使った発酵物はうまいこといってる。
特に、酒は男連中が目の色を変え、麦芽糖には女連中が目の色を変えた。麦芽でウイスキーを作るか水飴を作るかでいつも争いが起きてる。果実酒を作る最初の発酵を途中で止めると甘みの強い炭酸ジュースになるので、女連中は途中で止めてジュースを楽しんでいるし。
いや、おいしいって思うならもっと研究しなよ、とこの世界の人たちに思うのだが……。
そんなことを考えつつも料理が出来た。
謎肉(魔物の肉だそう)と調味料を駆使した野菜の炒め物、軽く炙ったパンを出した。
「あ、パンにはコレ、つけてもいいよ」
自家製豆乳バター。
この世界、牛がいないので間違いなく牛乳が手に入らない。そこで別世界で乳製品アレルギーの友人のために勉強したときの成果、豆乳代用のバターモドキを開発した。バターとは違うがこれもうまい。
男は恐る恐る口に入れ、それから一気にガツガツ食べ出した。
私がパンにバターを塗って食べているのを見て真似をし、次から遠慮なくモリモリつけて食べるし。
「酒もくれ」
とか言い出したし。
「酒に含まれる〝アルコール〟という成分は、依存症にかかりやすい」
「お前はいちいち小難しいんだよ! ならねーから出せ!!」
渋々、コップについで渡す。
「言っとくけど、原料はそんなにせずとも大変な労力とたゆまぬ努力がかかってんの、わかってる?」
ブツブツ言ってたら、
「わかった、お前のためにとびっきりの魔導具を用意してやる」
「どうぞお納め下さい」
瓶ごと渡した。
「お前、料理人になれ。酒も造って売れ」
食事が終わった後、真顔で言われた。
酒を飲んだときも「こんな酒、王城でだって出ねーぞ!!」とか大仰に叫ばれたし。
大袈裟な。
「小娘には無理。大人になるまで生きてたら考える」
「小娘っつーか子供だな。でも、冒険者なんざもったいねーだろ、こんなスキル持っててよ」
ため息をついて、言った。
「この世界の人間は信用ならない」
男が固まった。
「だから、人相手の客商売は職業の選択肢に入れてない。酒造りも、甘味も、料理人や使用人に教えているけれど全部を知っているワケじゃないし、それを理解したとしても私がいなければ作れない。私がいなくなれば再現出来ないので、巻き込んで作っている。連中も、研究成果が『自分の得になるものあるいは欲しているもの』だから協力している。信用して打ち明けているのとは違う」
料理人は恐らく全部を大体理解しているが、魔術なしでは『この世界では』難しい。その設備や器具を用意するためにばく大な金額がかかるだろうからだ。そもそもどういった器具を作るかすらわからないだろう。
一応、魔術で解決はするんだけどね……。
つーか、私って魔術使ってたのね。今日初めて知った。料理人も使用人も教えてくれれば良いのに。
「取り引きだ」
いきなり男が言い出した。
「恐らく、お前が造り出す酒は、お前にしか造れない。だから、酒を造って俺に売ってくれ。もちろん、市場に出回ってる酒の一番高額なものの倍は出そう」
その価格をしらんがな。
「酒は無理だ。さっきも言った通り、メインの作業は私がやっているが、材料をそろえ、場所を確保し、管理を行い、記録をつけているのは全て料理人や使用人たちだ。まったく関わっていないお前がいくら金を積もうと、連中が首を縦に振らない限りは売ることは出来ない」
「わかった、今から俺を連れてけ。常識外れのお前より常識を知ってるだろ」
「やめろ! 私が困るだろうが! ……わかった、量は確保出来ないが、少しなら融通してくれるかもしれないから聞いてみる。あとな、あらかじめ言っておくと、酒っていうのは生き物だ。つまり、一瞬で出来上がることはない。かなりの年月が必要で、年月をかけるとうまくなる傾向にある。一概には言えないが、大方そうだ」
「え?」
男がポカンとした。
「手間を掛けて育てるものなんだ。最低でも一年。今現在、途中失敗せずに無事に育ちようやく一年たったものがある。あと一年は寝かせたいが、男連中が飲ませろとうるさいので諦めそれらの代わりとしてこの間大量に仕込み、最低三年はかけて育てることにして放出した。……初期のはまだまだ研究途上のものだったしな」
男が生唾を飲んだ。
「……お前、さっき、俺に渡したよな? あの酒は?」
「初期のかなり未熟なヤツだな。まぁ、それでも成功したので料理に使ってる。料理なら香りが弱くて味が劣ってもアルコールが入ってればいいもんな」
男がキリ! とした顔になった。
「駄作でいいから売ってくれ。買える分だけでいい。あと、お前に常識を教えて冒険者になる手助けをしてやる。それで三年後にその成功作品を、俺にも譲ってくれ、あるいはそれの育成にかませろ」
「お前が屋敷に来たらややこしいことになるから、来るな。私分に確保するヤツを売ってやるから、来るな」
交渉が成立した、たぶん、ぽい。
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