第8話 お茶会に行ったよ

 お茶会当日。

 バカ娘が「住んでいた町に寄り道して」とか言い出した。もちろんお断りした。

「今日はお茶会に行く、って話で、私も付き合わされたのよ? それがなんであなたの住んでいる町に行くって話になるのよ?」

「……だって、懐かしくて……」

「だったら、今日じゃなくて別の日に行けば良いじゃないの。貴女の父親に頼めば二つ返事で連れて行くでしょうに。……お茶会に遅れて訪ねて赤っ恥をかきたいの? それが〝あなただけ〟ならどうぞご自由に、って思うけど、無理やり付き合わされた私がさらに赤っ恥をかかされるってソレ、なんて罰ゲームなの? ――虐待? 貴女、貴女の父親とグルになって私を陥れようとしてるワケなの?」

「……ごめんなさい……」

 納得はしてないだろうが諦めはしたらしい。それ以上は言い出さなかったので、無事遅刻せずに到着した。


 指示をする前に馬車から飛び出したバカ娘に頭が痛くなった。

「姉様、早く!」

 とかほざいてるが、無視し、御者のエスコートで優雅に降りた。

 それを見て気付いたらしい。振り返って、出迎えられた皆様の顔がこわ張ってるのを見て固まった。

「……一歩下がって、私を見ながら私のまねをして。じゃないと今までの比じゃないくらいに恥をかくわよ、貴女がね」

 どこまで通じるか、カバー出来るかわからないが、小声で叱咤して私のまねをするように指示した。

 正直、私もわかるわよ。別世界では平民だったもの。

 小さい子なら初めての乗り物に乗ってはしゃいで着いたら飛び出すだろうし、子供のうちから挨拶出来る子なんて考えられない、ってさ。しつけてくれる母親もいないし、家庭教師がスパルタタイプでもなけりゃ絶対無理。この子をかわいがってるあの男が厳しい家庭教師を雇うとは思えないし、つーかあの男、子供の教育とかしつけとか、そういった概念がないっぽい。教えなくても出来るだろ、くらいに気楽に考えるくさい。

 苦労するのは私じゃないし、いつまでもどこまでも私のせいにしたとしても、いつか自分自身で勝負の場に立ったら困るのはこの子。そして恥をかくのはあの男だ。

 そんなわけで、巻き込まれたくない私は、私が恥をかかないように私自身は完璧に、彼女には私のまねをしそれを守らず好き勝手にやりはじめたら彼女のせいにして逃げることに決めた。

 あと、もうお茶会は行かない。行かなくて済むようにしてやる。


 なんとか挨拶も済ませ、お茶会が始まる。

 結構大きなお茶会? なのか、立食形式で、ざっと見渡しても十人は下らない。

 そして一つ大きな情報が手に入った。

 産んだ女は公爵家出身だそうだ。伯爵家に嫁いでるんだから、次女より下だろう。

 そして、ここでも産んだ女に似てると言われた。

 ……似てるかぁ?

 このグレー寄りのココアグレーの髪色と縁がエメラルドの金目が同じだからじゃないか?

 覚えてないが、夜叉のような顔をしていた。私はあんな顔してない。

 ――と、バカ娘は早速やらかしたらしい。あれっほど私の後ろについてなさい、私が答えるから、私が促さない限りしゃべるんじゃない、と叱りつけたのに会場に入るや否や大声ではしゃぎ注目を集め、そしてお菓子に突撃していって、近くにいた子供たちに攻撃を受けたらしい。

 バカじゃないの? いやバカだったか。

 助けを求めるようにこっちを見てるが、知らん。あえて、その視線を無視した。

 私は私でやることがある。

「……プリムローズ様は、随分、活発な方でいらっしゃいますね」

「ええ、父がとてもかわいがっていますの。あの活発なところがたまらないそうですわ」

 ニッコリと笑顔で返した。

「私は母にかなり厳しくしつけられたのですが、父は、あの子にはもっとのんびり気ままにさせたいようですのよ。……マナーは私が教えるように言われたのですが、彼女が失敗しても……彼女を叱るようなことは決してありません。私の教え方が悪いと私が厳しくしつけられますから、私ばかりマナーが上達してしまって」

 ホホホとわざとらしく笑う。

 明け透けなほどに父から嫌われていることをアピールする。娯楽の少ないこの世界で、醜聞を広めに広めてやる。

 あの男はあの男で、私の悪口を言いふらしているとは思うが、私は貴族としてやっていくつもりはない。ここで話題提供してうわさされて恥ずかしくてお茶会に来られないほどになっても痛くもかゆくもない。

「……ついこの間も、平手打ちされ、『お前が私の子だという証拠などない、勘違いするな』と言われて……」

「まぁ……!」

「そんなことをおっしゃったの⁈」

 いつの間にやら大人に囲まれて私の悲劇のヒロイン的話題に食いついている。同情しているような声をあげているが、瞳が輝いていますよ。

「……このお茶会も、本来なら出席出来ませんでしたの。妹は父からかわいがられているのでよくわからないから私を誘ったようなんですが、私、ドレスは母が亡くなってから作ってもらえず、恥ずかしながらこれは古着屋で買った物なんです」

「まぁ……!」

 さっきから驚きの合いの手が何度も続く。

 そういえば、これって悲劇のヒロインを演じて相手を陥れる悪役令嬢みたい? 攻撃の相手はヒロインじゃなくて父親だけどなー。

 一通り醜聞も流し、まぁ、一応手を打ったのでバカ娘を回収にかかった。

「あら、すみません。身内の見苦しい話を聞かせてしまって。――でも、妹は何も知らずに育ったので無垢なんですのよ? きっとそのうち父が淑女のマナーを身につけさせるべく重い腰を上げて家庭教師を雇ってくれますわ。私の言うことなど決して耳を傾けませんし私のせいにするだけでしょうけれど、今日のお茶会を経て、妹もきっとマナーの大切さを学んだと思いますもの、自ら言い出しますわ。……私では手に負えませんし」

 ハッと気付いたわざとらしい演技も加えてここまでまくし立てた。

「それでは、そろそろおいとまいたしたいと思います。妹も、もうそろそろ一所にじっとしている限界を感じている頃合いでしょうから。では、失礼致します」

 一礼して、バカ娘のところに向かう。

 すっかり意気消沈している。大人たちに広めている最中に目の端に映っているのは、あちらこちらの少年少女グループに近付くものの見事に避けられ、しかも斜め後ろという絶妙な角度から陰口を言われている姿だった。

 しかし、なんでそこまで嫌われるかなー? 子供としてはバカ娘の方がスタンダードなんだけど。

 マナーを厳しくしつけられた子たちには、バカ娘は奇人に写るのか?

「プリムローズ、楽しんでいるところを申し訳ないのだけれど、そろそろおいとましましょう? あまり遅くなるとが心配するわ。私のせいにされてまた折かんされてしまうもの、お願いだから帰りましょう?」

「……お姉様……」

 ようやく助けがきたと思ったのだろう。私のセリフを聞き流して半べそかいた。

 優雅に優しく手を取り、誘う。

 周りの子供たちに別れの礼をして、促す。

「プリムローズ、ご挨拶」

 半べそをかきながらペコッと頭を下げる。……見てまねしろと言っただろうがこの鳥頭……のプリムローズに諦めのため息をつくととっととこの場から連れ去った。

 ――後に知ったがこのお茶会、本来親が連れて行くべきところをプリムローズの侍女兼親代わりに私を付けたらしい。子連れ既婚女性しか参加してないと知ったのであのクズの伯爵は興味が無く私に押しつけ付いてかなかったということだ。最低。

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