63話 いざダンジョンへ……と思ったら。

 エミル達の用事はもう済んだという事なので、カクカクシカジカとここに来た経緯を説明すると、当然のようにエミルが興味を示したため、久々にフルパーティで行動する事になった。


 と言っても、単なる観光だけど。


 ご自由にと書かれているだけあって、特に受付という物も、係員や警備の人間がいるという事も無く。


 そこらの公園にふらっと入るノリで見て良いような気軽な場所のようだった。


 このダンジョンも例のファッションシェルター同様、地下に有るようで、やや長めの階段を降りて内部に入るようだった。


「エミルはこのダンジョンについて何かしってるかい?」


「いや、すまないが……。昔は今ほど活動的では無かったからな。カリムに来てもあちこち巡るような真似はしていなかったので最低限の情報しか無いのだよ」


「じゃあさ、エミルちゃんも私たちと一緒に楽しめるって事だよね-」


「そうだな。共に新鮮な気持ちで見学できるんだから、返って良かったんじゃ無いか?」


「うむうむ。そうだな。我だけ先に知ってたら共にワクワクする事など出来なかったろうからな」


 事実、エミルは結構楽しげにしている。


 チチル亭に通っていたくらいなのだから、このダンジョン跡地の存在にも気づいていたはずだ。それなのに何故、今日まで入らなかったのか気になって聞いてみたのだが。


「踏破済みとは言え、ダンジョンだぞ。折角ならゆっくりと探索したいでは無いか。依頼帰りに寄るのはもったいないと後回しにしていたのだよ」


「なるほどな。よーし、まだ時間はタップリある。じっくりと楽しんでいこうぜ!」


 ……大規模ダンジョンだったら途中でまた日を改めてってなっちゃうけどな。


 では張り切っていきましょうかと『足元にお気を付けください』と書かれた入口を潜り階段に足を踏み入れた瞬間、違和感に気づく。


 以前潜った遺跡と何かが違う……いや、明らかに妙だ。

 一体何が違う? 何かこう、我々の侵入を歓迎しないかのような降りにくさは何だろう?


「ねえね、ナツくん。どうしてここは真っ暗なのかな? どこかにスイッチか何かないのかな?」


「ああ、なるほど暗いのか!」


 入口付近は日が差し込んでいたため、まだ少しだけ明るかったので直ぐに気づけなかったけれど、ここのダンジョンは真っ暗。照明が無い……いや、よく壁面を見てみれば、等間隔に魔導ランプが設置されているようだが、それらはどれもが沈黙しており、暗闇を照らすという仕事を放棄してやがる。


「むー、これぶっ壊れてるのかな?」


 コンコンとランプを叩きながらぼやいていると、エミルが笑いながら解説してくれた。


「ははは、ナツ殿。叩いてもつくようなものではないぞ。そしてそのランプは壊れてなどいない。魔力供給が絶たれているため点くに点けぬのだよ」


「これって単体で点く様なものじゃなかったのか」


「うむ。魔石を動力源とする携帯型の物はナツ殿が考えていたようなもので間違いないが、遺跡に設置されているものは魔力線を通じて魔導炉から魔力供給を受け稼働しているのだよ」


「あー、つまりあれか。ここの遺跡は魔導炉が稼働していない、そういう事なんだな?」


「うむ。このタイプの遺跡ならば確実に魔導炉はあると思うが……しかし参ったな。ナツ殿、明かりは持っておるまい?」


「んー、一応スマホが照明にならなくはないけれど、少し心元無いよな」


 と、スマホのライトを点けてみせるとエミルが『おお……』と、しみじみと感心した声を上げた。


「すまほはそんな機能まで持っていたのか……ううむ、しかしナツ殿が言う通りそれでは少々足らぬな。せめてもう一つ照明があればなんとかなりそうなのだが」


 スマホのライトは意外と馬鹿にできない光量を持っている。しかし、俺とミー君はいいとして、エミルの分の照明が無い。


 固まって行動していれば困らないかもしれないけれど、照明がない地下と言う闇に包まれた場所に行くとなれば、それぞれが何かしの照明器具をもって挑みたいところ。


 折角来たのに戻るのもなー……まてよ。


「なあ、エミル」

「む?」

「エミルって光の大精霊だろう? けれど普通の女の子に見えるって事は何かしているんだよな?」

「そうだの。そう言えば見せたことが無かったのう。厄介なことにな、力を解き放てば翅が現れたり、体が……ああ、なるほどそういう事か……ナツ殿は妙なところで知恵が回るのう」


 そこまで言ったところで、俺の考えに気づいたのかエミルが力を解放した。


「ひゃっ!? まぶしっ!?」


 エミルの真横に立っていたミー君が驚き、足を滑らせ階段に尻を打ち付けた。


「あいててて……一体何なんだよ……いきなり光るから驚いちゃ……えっ!? エミルちゃんが光ってる!?」


「驚かせてすまぬの、ミー殿。我は光の大精霊、本来の力を解放すればこのように迷惑極まりない姿になるのじゃよ……」


「迷惑じゃないよ! 綺麗だよ、エミルちゃん!」

「ミー殿……気持ちは嬉しいがの、日常的にこの様な姿では何かとのう……」

「あっ……そ、そっかあ。映画館とかで迷惑かかりそうだもんね」

「エイガカンが何かはわからぬが、他人の迷惑になるのは確かじゃな……」


 なんだか初っぱなからぐだぐだとし始めてしまったが、これで安全に探索できそうだな。

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