61話 凄いよこのマップ! 流石ミー君のお姉さん!

 衝撃の展開から一夜明けまして。


 いやあ、昨夜は俺もミー君もお楽しみでしたよ。それぞれがそれぞれのお部屋でね!

 何にって言わせんなよ恥ずかしい!


 別に変な事じゃ無いよ、ひっさびさのネットを楽しんだんだよ!


 それで分かったのは、どうもこちらからあちらのネットを閲覧しようとすると、こちらからのリクエストが神域のサーバーに送られ、大いなる謎の処理を経てあちら側から情報をダウンロードし、こちら側の端末に表示するという流れになるという事だ。


 例えば何処かのニュースサイトを開いてみれば、最終更新日は何時も同じ日にちを指すようになっているらしい。

 つまりは、何時何を閲覧しても俺がこちらに召喚された日までの情報しか見ることが出来ない。

 例えばアニメ情報を調べてみれば、2019年夏アニメ特集! みたいな内容がHITするわけだ。


 いやまあ、仕組みのうんたらかんたらについてはさ、俺が自力で考察したわけじゃあ無いんだ。


 初回接続時に特殊ページが表示されてね、簡単な説明が書いてあったんだよ。

 これあれだわ、公衆Wi-Fiに繋いだときの取説ページだわ……。


 契約している動画配信サイトや、電子書籍を販売しているサイトはアクセス自体は出来るし、どうやってるのか知らんがカード決済もきちんと出来るようで、デジタルデータの購入も可能だった。これはありがたい。


 ただまあ、時間があの日に固定されてるんで、今現在あちらがどうなっているのか、俺が居ない間に日本で何が起きているのかは識る事が出来ないわけだ。


 これは恐らく全てが終わった後、俺が元の時間に戻るという事が関係しているのだろう。


 複雑な事情があるのかも知れないけれど、一番の理由は俺が未来を識ってしまうのを防ぐためなのでは無いかと思うのだ。


 こちらの世界からあちらに戻る際に、俺の時間は過去へと戻るわけで、あちらと等速で同期してしまえば俺からすれば”未来の”様々な情報を得てしまう事が出来る。


 つまりは、下手に同期をさせてしまえばあちらの世界に要らぬ干渉をする存在になりかねない、神様達はそんな理由から制限をかけているのでは無かろうか。


 しょうも無いところだと、競馬のデータを集めて帰って大儲けしてしまったり。


 ニュースで大事件を見てしまえば、謎の正義感から予言者気取りで警告のような書き込みをしてしまうかも知れない。


 そんな真似をしてしまえば、少なからず未来が変わってしまうわけだ。


 アニメのネタバレ程度でと思うなかれ。バタフライエフェクトってのはおっかないんだぞ。風が吹いたら桶屋が儲かるんだぜ? 意味分かんねえよな。


 同じ理由だと思うけれど、個人ブログなんかでも所々読めないページがあったりしてさ、ちょっと不気味な感じなんだけれど『禁則事項です♥』みたいなもんだろと思えばかわいいもんよ。


 そんなわけで、昨夜は久々にアニメを楽しんだり、思い出せなくてモヤモヤしていた情報を検索してスッキリしたりと、とても良い夜を過ごしたのでありました。


 朝食後、馴染みの薬師の元に出かけたエミルとモモを見送ると、俺とミー君はそのままダラダラとリビングでスマホタイムに突入した。


 良いんだよ。我々、ここ2週間くらいずっと依頼をこなしてきたからな。

 依頼ボードの下地が見えるようになったし、1日や2日こうして休暇を取っても問題ないんだよ。


 べ、別に久々のネットが楽しすぎて辞められないとか、そういうアレじゃ無いんだからな!


 と、謎の自己弁護をしているとミー君のスマホから『ポコン』と気が抜けた音が鳴った。


「あ、お姉ちゃんからメールだ」


 ミー君がそんな事を言うものだから、少し身構えてしまった。


 ユウさんからのメールのラスト……あれを見てしまうと、何か強烈な悪戯というか、なんというか。とにかく妙なイベントを起こされてしまうのでは無いかと悪い考えが頭をよぎる。


 でもな、それでもミー君のお姉さんだからな。

 

 ミー君の事を大事にかわいがっているらしいし、出来る女神様みたいだし……ホイホイと妙な悪戯はしないんじゃ無いかなって思う、思いたい、思っておこうじゃないか。


「わー、凄い! ねね、ナツくん! ナツくんもマップ開いてみてよ!」


 メールを読み終わったらしいミー君が嬉しげな声を上げる。どうやらメールの内容は悪いものでは無かったようだ。


「マップ……って言うとアプリだな? どれどれ……」


 マップアプリを開くと、何時もの見慣れた画面と似ているようで少し違う。っていうか、普通にこの世界のマップが表示されてんじゃん!


「うおおおお! これやべえな、もう迷子にならねーじゃん」

「ね! あ、でもさでもさ。行った事が無い場所は隠れて見えないんだって」

「え?」


 言われて画面を触り倍率を下げ、カリム全域が見えるようにしてみると……なるほど、確かに我々が行った事が無い場所はモヤに覆われて見えなくなっていた。


「お姉ちゃんのメールにはね『こう言うゲーム的なノリの方が男の子は喜ぶのよ』って書いてたんだけど、どう? ナツくん、楽しい?」


 楽しいかって言われたら……まあ確かに楽しいっつうか、ワクワクはするけども……。


「悩ましいところだな。予め現地の情報が得られるなら楽で良いけど、未知の土地を地図で眺めながら旅の構想を練るのも良い物だからな。

 ゲーム的な楽しさを取るか、実用性を取るか悩ましい所だが、俺からすればゲームみたいな世界に来ちまってるんだ、このマップの方がしっくりくるかも知れんな」

 

「そっかそっか。あ、それとねゲーム的な要素がもう一個あってね。なんでも、未知のおすすめスポットにマークがついてるらしいんだけど……あ、これじゃないかな、ナツくん」


 ミー君のスマホをのぞき込んでみると、街の中心地付近に『?』マークがついていた。


 ……これってあれじゃねえかな。

 クエストマークって奴じゃねえのかな……。


 行くとNPCが立っていて、話しかけるとイベントが始まってしまうような奴じゃあ無いのかな……。


 でもこの世界はゲームの中ではないわけで、そんな都合が良いNPCなど居ない……と信じている。


 きっと、お姉さんなりに我々を楽しませようと、純粋な気持ちでおすすめスポットをさりげなく紹介してくれているのかも知れない。


「位置的にここから普通に歩いて20分くらいか? そう遠くはないし、行ってみるか」


「いいの? ナツくん。今日は一日中ゴロゴロする日なんじゃなかったの?」


「いいんだよ。ミー君とぶらぶら散歩に出かけるのも良い休暇になるだろ」

 

「ありがとうナツくん! えへへ……二人でお散歩から」


 そんな事を言われると少し恥ずかしい。

 

 以前であればそれが当たり前だったから、別になんとも思わなかったけれど、今はエミルやモモもいるじゃん? なんつうか、わざわざ二人で出かける感がして……その、デート感があって、妙に照れちまうな。 


「ま、まあ、たまにはいいだろ。依頼抜きでノンビリ探索ってのもあんまりしてねえし、今日はダラダラと楽しもうぜ」


「うん! じゃ、着替えてくるから待っててね、ナツくん」


「お、おう!」


 なんだか、最近余り見ないほどにミー君の機嫌がよろしい。

 そんなにわかりやすく喜ばれると照れてしまうじゃ無いか……。


 エミル達と出会ってから、二人だけで出かけるって言う事は無くなったからな。そういう特別感が嬉しいってのは、流石に俺も理解している。


 ……もしかしてミー君のお姉さんは、今ここにミー君と二人しか居ないっていうのを知った上で、わざとメールを送ったんじゃ無かろうな。


 ミー君と俺が二人で出かけるよう、仕向けたんじゃあ無かろうな……?

 もし、そうだとしたら……ありがとう、お姉さん。


 ミー君が喜ぶ顔を見せてくれてありがとう。 



◆◇某別世界の神々◇◆


「ねえ、ユウ。なんで日本とあそこの同期をしてあげなかったの? 私、あんたの時は別にそんなことしなかったわよ」

「ああ、それか……。俺はね、日本に戻った後にさ……すっげえ後悔したの」

「……何かあったっけ……」

「ああ、あったとも。パンさんのお陰で最新アニメは見られていたし、漫画やゲームだってパンさんやブーちゃんさんが定期的に新作を買ってきては書庫に置いてただろう?」

「なによ? あんただって楽しんでたじゃ無いの」

「ああ、そうだな……しかしな、過ぎた力は必ず我が身に返ってくる物さ……。

 日本に戻ってからの俺がさ、実質過去に戻った俺がどれだけ辛かったか分かるか?

 2年だぞ、2年。2年間の間、続きが見れねえの。ゲームの新作記事を見てもさ『へー、あの僕それもうクリアしてるんですけど』ってなっちゃうの」

「あっ……」

「俺はね、パンさん。ナツくんに同じ目に遭って欲しくないんだ。彼がどれだけの間あの世界に居てくれるのかは分からないけれど、帰った時に『やっと続きが読める!』という喜びを味わって欲しかったんだよ」

「なんかその……ごめんね?」

「いいんだよ、パンさん。もう過ぎたことさ……さ、ナツくん達の観察に戻ろうぜ」

「そう……ね! そうしましょう! うんうん、過ぎた事よね! 私悪くない! やったー!」

(ナツくん……気をつけろ、女神って奴は許しすぎるととことん駄目になるんだぜ……)

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