閑話 ギルドの事情
◆◇マミ◇◆
ふう……なんとか受託してもらうことが出来た。
ナツくん達の弱みにつけ込んだ形になってしまったけれど、少々休みすぎた彼らにとっても悪い話ではなかったと思いたい。
彼らほどの能力を持つ冒険者は正直なところ余り他所には出したくはない。
なので彼らにはメルフに根を張ってくれるよう、拠点を与え、出来る限りの便宜を図ってきたつもりだ。
だから今回、カリムから応援依頼の連絡が入った時には頭を悩ませる事となった。
あちらのギルドが求める冒険者はシルバーランク以上を最低10名。
向こうも一応は遠慮をしているのだろう、そこまで多い人数ではなかったのだが……カリムというのが問題だった。
現在のカリムに行きたがる冒険者は……居ないと言っても良い。
まして、メルフ周辺はそこそこ稼げるため、報酬が出るとは言ってもわざわざカリムまで行こうとする冒険者は居ないのである。
カリムの現状――
冒険者不足により仕事が回らなくなっているのだ。
カリムは未開地開拓の最前線の街として存在しているため、依頼自体は尽きることがない。しかし、それを受ける冒険者が居なければギルドは正常に機能することが出来ない。
こちらから10人送れたとしても焼け石に水だし、2ヶ月という短期間だけ派遣したところで今後どうにか改善するという話でもない。
さてどうするか……そう考えたときに頭をよぎったのは勿論掃除屋の二人。
彼らであれば、二人で10人分はおろか、50人分程度の仕事は軽くこなしてくれることだろう。
それに……私の予感が告げているのだが、彼らであれば、カリムの窮状を改善してくれるのではと言う期待もあった。
……それはそれとして彼らをカリムに派遣したくないという思いもある。
理不尽なほどに強烈なルーキー。
単パーティ、それも2名での強敵討伐を2回果たし、ダンジョンまでも単独踏破。
そればかりか、繁殖しすぎていたゴブリンの大半を屠り、集落化を事前に防いでいる。
そして、おごること無く、穏やかな性格であり、真面目に依頼をこなすとなればよそのギルドが欲しがらないわけはない。
有能なパーティを引き抜かれ出もしたら目も当てられない。ギルマスも私も、彼らを派遣するのは出来れば考えたくないことだった。
しかし、東の辺境が今どれだけ困窮しているかを考えれば。
もしも我が街がそうなったらばと考えればそうも言っていられない。
それに、ティールさんがこんな事を言っていた。
『まあ、冒険者ってやつぁ本来根無し草でフワフワあちこち漂う生き物だろ? 何処に行くも奴らの勝手さ。俺達上の人間があれこれやって引き留めるなんて無理無理!
むしろあちこち行かせてランクアップさせたほうが今後の為になるさ。
方々で活躍したときに聞こえてくるのは『メルフ出身の冒険者が』という声だ。
それはそれで、なんとも愉快なはなしじゃねえか』
冒険者としてのあり方……か。
彼らはきっと、これからもあちらこちらへ旅をするのではないか、そう予感している。
彼らは自由に、風のように方々を巡り、力を付けながら素晴らしい実績を積み重ねていく事だろう。
だからこそ、私もティールさんの言葉に頷き、彼らに指名依頼を出す事に決めた。
……優秀な冒険者だから抱え込みたいという気持ちは確かにある。
けれど、それ以上に彼らの事を応援したいという気持ちが強い。
それは別に近くにいなくとも出来る、ギルド職員としての立場を利用すれば遠く離れていたとしても彼らの力になることは出来る。
だから私は彼らをカリムに送り出すことに決めた。
これがきっかけとなり、彼らが旅に出ることになろうとも、笑顔で送り出す覚悟を決めた。
だからどうか……。
何処へ行っても、どんな依頼を受けても……。
必ずここに戻ってきて、私に元気な姿を見せて下さいね。
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本日はこの次に51話も投稿されています。
よろしければそのままお楽しみ下さい。
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