第50話 おさぼりの代償

「カッパーは月10件、シルバーで二ヶ月に5件……内2件がシルバーランク依頼ですね。そしてゴールドまで上がれば半年に3件と期限が長くなりますが、ゴールド依頼1件かシルバー依頼3件が維持条件となります。

 ミスリルまで至れば年に3件の依頼で済みますが、この3件は特別な指名依頼を3件ですので、ゴールドまでの中位ランクとは少々事情が違います。

 最後に……オリハルコンですが、これは維持に制限が有りません。好きなように世界をめぐり、気の向くままに依頼を達成していただけます」


 現在我々――俺とミー君はギルド2階の例のお部屋でマミさんから講習を受けています。

 なぜそんな羽目になってるかと言えば、我々が規約をスポーンと忘れて今日まで遊び呆けていたからですな。


 でも詳しい話を改めて聞けてよかった。

 シルバーランクは二ヶ月に5件の依頼で良いんでしょう? なんて油断しがちだけど、内2件は必ずシルバーランク以上推奨の依頼を受ける必要がある……なんて罠があるわけだ。


 ぎりぎりになってからドブさらいを5回やれば! なんて思ってると、時間切れでカッパーランクに降格ってことになりかねん。


 ランクが上がれば上がるだけ面倒になるような気もするけれど、報酬額もどんどん上がるらしいからな……。


 先日、使い切れないほどのお金を手に入れて調子に乗っていた我々だけれども、ゴールドランクが本気を出せば2ヶ月から3ヶ月でそれくらいは軽く稼いでしまえるそうだ。


 そんだけ稼いでも使い切れないのでは? なんて思うのだけれども、便利な魔導具を買ったり、強力な武具を揃えたり……美味い飯を食ったり、なんだりかんだりと、我々より生活ランクが上の世界は、大金貨等あっさりと溶けてしまうとのことだ。


 ううむ。我々はそこまで求めていないのだけれども……でもな、お金があれば馬車を買って維持をしたり、存在は確認してないけど何処かでアイテムボックス的なカバンを買えるかもしれないからな……。


 そのうち広く旅に出る予定もあるし、お金を稼げるように頑張るのは悪くはないか……。


「というわけで、ナツくん、ミューラさん。あなた方は今、降格の危機にあります」

「でした……。輝かしい未来ではなく、むしろ暗雲が立ち込めていたのでしたね」

「あわわわわ……どうしようナツくん……また草むしりの日々に逆戻りなの?」

「採取を草むしりっていうのはよしなさい」


 青い顔をして慌てるミー君をなだめていると、マミさんがニッコリと笑う。勿論黒くだ。


「手紙にも書いてあったと思うのですが、本来であれば後一ヶ月以内にシルバー依頼を2つ、それ以外を3つ達成する必要がありますが、今回は特別に1件の指名依頼の達成をもってランク維持を……それも今年いっぱいのシルバーランク維持を確約します」


「聞いた? ナツくん! 1件受けるだけで来年まで依頼受けなくて良いんだって!」

「ああ。そうらしいな……」


 しかし、そんな美味い話は無いんでしょう? 知ってるんだぞ、マミさんが俺たちをここに呼び出す時はろくなことがないんだ。


 今回もその例に漏れず……きっと裏があるはずなんだ。


「ふふ、ナツくん。そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。確かに楽な仕事では有りません」


 ほらね……。


「まずは依頼書を御覧ください」


 マミさんから差し出された依頼書を見ると、この様な事が書かれていた。


『カリムのギルド支部への応援依頼

 モールトン辺境伯領カリムに出向し、現地のギルドで数件の依頼を達成して欲しい。

 

 現在カリムには冒険者の数が不足していて、依頼の達成率が低下している。

 このままではギルドが破綻しかねないため、その応援として向かい、少しでも依頼を片付けてもらいたい。

 

 任期は10月の初めから11月末まで。


 報酬:最低金貨1枚(査定により報酬額が加算されます)』


 つまりは、二月ばかりよその街に行って冒険者として働けということだ。1件依頼を受ければーなんて言っているけれど、よく見りゃ『現地で数件依頼を達成』と書いてある。


 これは確実に普通にノルマをこなす以上に働く羽目になるはずだ。

 うん、そう美味い話しは無いってこったな。

 

 だがしかし。


 応援依頼、つまりは現地で冒険者稼業をするというのが今回の依頼だ。

 現地で依頼を受け、達成すればその都度それに関しての報酬が貰える。

 そしてそうやって依頼を達成していけば、指名依頼の査定も上がり、報酬額がアップ!


 指名依頼の報酬と現地の通常依頼の報酬で二重に美味いとも考えられる。


 それに……


 我々は他所の領地にまだ行ったことがないし、ちょっとした旅行がてらと考えれば悪くはない……というか、これを断るとランク維持がかなり難しくなるからな……断る理由が無いっていうか、多少不味くても断れねーわ。全くずりいよなあ、ギルドって奴はさ。


 ……規約を忘れてサボりすぎちゃった我々が悪かったんだけれども。


「悪くはないんじゃないかな。なあ、ミー君」

「そうだね。私達、ちょっとのんびりしすぎちゃったし、これくらいはやらないとね。それに応援が必要だってことは困ってるんでしょう? 行かなきゃだよ、ナツくん」


 ミー君が真面目だ……。

 

 でもこの依頼はミー君のためにもなりそうなんだよね。

 ギルド支部があるならそれなりに人が居る筈だ。

 となれば我々が成さねばならぬ本来の目的、リソース集めにもってこいじゃん。


 これはギルドに恩を売れるし、お金も儲かるし、ミー君も助かる。一石三鳥……旅行がてらと考えれば四鳥くらいはあるね。


「うし、じゃあ受けますよ、この依頼」

「そう言ってくださると思ってましたよ。ふふ……では、明後日出発する馬車を手配しておきますので、22日の朝、遅れず乗り場まで来て下さいね」


「えっ……あ、明後日ですか? 随分と急ですね?」

「何しろ応援依頼が届いたのが最近でしたもので……。それにメルフからカリムまで馬車で10日ほどかかりますので、依頼開始日に間に合わせるには明後日がギリギリになってしまうのですよ」


 涼しい顔でそんな事を仰るマミさん。言うのはかんたんだけれども、準備する方としては大変だぞこりゃ。たまには文句の一つでも言ってやろうかな……


「そうそう。カリムにもギルドで確保している物件がありますので、ナツくん達には滞在中、そちらを無償貸与いたしますね。可愛らしいお仲間達もご一緒されるのでしょうし、是非お役に立ててください」


「え、あ、そ、そこまでしてくれるなんて……いやあ、悪いですね」


「いえいえ。掃除屋に骨を折っていただくのですから、ギルドとしてはこれくらいは」


 ……文句言えませんでした! 


 そして帰宅した我々はエミルとモモに依頼のことを伝えたのだが……。


「ふむ、カリムか。あそこは未開地に隣接する特殊な領でな。昔、我も一度行ったことがあったが……当時はまだ未開地の他にも複数のダンジョンを備えておってな。多くの冒険者が集う賑やかな街だったと記憶しておるよ」


「未開地ってなんだー?」


「広大な森や荒野が広がる土地でな、多くの魔物が闊歩している故、今だ開拓しきれていない土地なのだよ。故に領内にはこちらでは採れない珍しい植物や鉱石もある故、我も少々楽しみになってきておる」


「おー! 知らない森か! いいな! なつくん! 今行こう! 直ぐ行こう!」


 と、ふたりとも大いに乗り気で……モモに至っては大興奮で今直ぐ行こうとうるさいくらいだ。


「二人が乗り気なら良かったよ。んじゃ急だけど、出発は明後日に決められちゃったので、明日は1日使って支度をしよう。

 ギルドで馬車の手配をしてくれたみたいだし、向こうで家も借りられるらしいから、常識の範囲内で私物を持っていって構わんぞ」


 それを聞いて喜ぶミー君とエミル……とついでにモモ。

 モモは私物が無いだろうに……っつうか、エミルは兎も角ミー君……。


 あまり妙なものを持っていこうとしないでおくれよ……。

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