第27話 いつもの報告と……ええと、君は一体
「それでは上まで行きましょうか」
ギルドに入るなり、唐突にマミさんからそう言われた我々はそれに返事をする間もなく何時ものお部屋に連行されてしまった。
「……ええと、我々は採取依頼に行ったわけでして……こんな立派な個室では無くて、何時もの受付でその……用が足りるのでは無いでしょうか……?」
とりあえずテーブルの上にキイロゼリを83束置くと、マミさんはため息をつきながら人を呼び、それらを鑑定に回すと再び席に座って微笑みながら我々に問う。
「率直に聞きますが、ナツくん、ミューラさん。他に提出する物がありますよね? 先ほどから気になって仕方が無いのですが」
「……はい、これもどうぞ……」
ドスンと机に置いたのはスイカサイズの立派な魔石。かつてナマズ君だったものだ。
長年村を苦しめてきた奴の魔石だ。これは村人達に受け取る権利があるだろうと、押しつけようとしたのだけど、体よく断られて持ち帰る羽目になったんだよな。
持って帰ってきたからには一応ギルドに提出しなきゃあるめえと、村の人が編んでくれたサッカーボールを入れるような網に入れて担いできたのだが……いきなり上に連れてこられたのはこいつのせいかしら。
「これは……お預かりして鑑定に回しますが……一応何か伺っても?」
「ナマズ君だよね、ナツくん」
「ナマズ君……ですか?」
「いや、そうだけどちげーから。グレーターウォーターオークとか言う奴です
よ」
「グレ……そ、そうですか。これは当然あなた方が狩った獲物なんですよね?」
「狩ったと言って良いのかわかりませんが……そうですね」
「丸太で滅したんだよ。ね? ナツくん」
間違っちゃいねえが……もっと言い方って物があるだろ? もっと上手い言い方がさあ。
丸太で牽制して倒したとか……丸太で弱らせて倒したとか……くっ結局どう取り繕っても丸太って単語が強すぎる。
「丸太で……そう……ですか……丸太で……はあ……」
見ろよマミさん、困った顔をして固まってしまったじゃねえか!
ナマズくんとは言え、魔物だぞ。丸太で倒して良いもんじゃねえのは流石にわかるわ
マミさんを立ち直らせるべく、一応の経緯をざっくりと説明した。
我々はあくまでも通常の採取作業をしていたと。その合間にたまたま丸太でナマズ君を討伐してしまったと。
そのナマズ君は長年ガムリ村を苦しめていた悪い魔物だったので、村人達から感謝をされたと。
「そ、そうですか……グレーターに至ったウォーターオークなら確かにそのような知性を宿すこともあるでしょうからね……」
「まあきっとデカいだけでそこまで強い魔物では無かったと思うんですよ。あんな軽い丸太の直撃くらいでやられちまうんだから」
「そうだよねえ。あの黒い丸太、結構軽かったもんね」
「黒い丸太……成程……あれならばわかります。なるほどアレを頭に貰えば確かにたまったもんじゃありませんね」
一通り報告が終わる頃にはキイロゼリの鑑定も終わり、お待ちかねの報酬が我々の元に届けられた。
「何時もながら凄いですね。今回も全て間違いなく依頼品でした。こちらが報酬の大銀貨13枚になります」
「えっ、多くないですか?」
「キイロゼリの報酬が大銀貨9枚と銀貨3枚。護衛依頼の報酬が銀貨2枚。それにグレーターウォーターオークの討伐報告の報酬で 大銀貨2枚と銀貨5枚になります」
「ナマズ君の報酬? だって別に依頼を受けて斃したわけじゃ有りませんよ」
「ナマズ……いえ、ここまで強大な魔物は討伐するだけで報酬が発生しますので、正当な報酬としてお受け取り下さい」
ナマズ君……君ってやつは、舌だけではなく懐にまで美味しい思いをさせてくれるんだなあ! ありがとうナマズ君! 君のことは忘れないぞ!
魔石は暫く貸して欲しいと言うことだったので、そのまま預け、我々は懐かしき我が家へと向かうのでありました。
◆◇マミ◆◇
「なあ、彼らに武器は要らないのでは無いか?」
「……急に出てくるの辞めてくれませんか? 今のは少しびっくりしました」
「ははは、すまんすまん」
ナツくん達が部屋を後にして直ぐ、ギルマスのティールさんが隠し扉から現れた。どうせ来るのだろうとわかっていても音も無くやってくるのだから心臓に悪い。
「しかし、グレーターウォーターオークまで斃してしまうとはな。アレは最低でもゴールドランクがパーティを組む必要がある獲物だぞ」
「そうですよね! ナマズ君呼ばわりをして、丸太で撲殺出来るような弱い魔物ではありませんよね!」
彼らの話を聞いていると時折自分の感覚がおかしいのでは無いかと思うことがある。
しかし、そうではない。彼らが、ナツくんとミューラさんがおかしいだけなのだ。
「丸太も黒い丸太と言っていましたが、あの辺りに生えているものは黒樫ですよね」
「多分な。というか、黒い丸太と聞いて頭に浮かぶのはそれくらいのもんだ」
黒樫は重く頑丈で、建材よりも武器の素材として重宝されるものだ。
黒樫で作られた木剣は鉄の剣と同程度の重さがあり、実践的な訓練に使われることがあるくらいなのだが……ナツくん達はその丸太を軽かったと言っていた。
「アレを軽いって言えるのはオーガ種の人達くらいですよね?」
「そうだな……でもあの体格でオーガ種はねえだろう?」
「ですよねー」
彼らはどう見てもヒューム。百歩譲ってエルフなのかも知れないけれど……。
種族特性的に力が強いオーガや獣人、ドワーフにはとても見えないし、もしもそれらの種族であったとしても、あの体格でアレを軽々と武器にするというのは難しいだろう。
「一応聞きますが……今回の討伐でシルバーに上げることは……」
「無理だな。実績だけ見れば間違いなくゴールドまで行けるんだが、依頼履歴がなあ……」
「清掃や荷運び、採取の合間にヴェノムスライム、リッチ、グレーターウォーターオークの討伐……合間に入っているのが非戦闘依頼ばかりですからね……」
「討伐履歴だけ見れば立派なゴールドランクなんだが、討伐依頼の達成数が0件だから俺の力でもねじ込めねえ。全くめんどくせえ規約を作りやがってよー」
シルバーランクに上がる条件には、一定数の討伐依頼の達成も含まれる。
冒険者が一人前として認められる最初の難関なので、例外はまず認められず、審査や試験は厳格に行われるのだ。
もしも……例外を認めて貰えるのであれば、彼らはシルバーどころかゴールドランクにだって上がれる事だろう。
しかし『力だけではなく、冒険者としてのノウハウと礼儀を身につけさせるべし』というグランドマスターからのありがたいお達しがあるため、上に上がるためには様々な依頼を達成する必要がある。
シルバーに上がるためには採取依頼と討伐依頼の一定数の達成。ゴールドともなればそれに加えて護衛依頼や賊の討伐も含まれる。
「ま、シルバーにあがんのは時間の問題だろ? 大銀貨13枚も稼いだんだ。安い装備なら二人分一式揃うだろうさ」
「そうですね。まずはシルバー! 彼らには早くそこに至って貰わなければ!」
◆◇ナツ◆◇
「おお! 見ろよミー君! 愛しの我が家だ。長き旅を経ても変わらず我らを出迎えてくれたぞ!」
「そうだね……って、ナツくん? なんか煙突から煙が出てない?」
「えっ」
ミー君に言われ、我が家を見てみれば……なるほど確かに煙突から煙が出ている……。
「ミー君、家を出るとき竈の火は落としたかい……?」
「何言ってるんだよ。私たち竈なんて使わないじゃん」
「あっ」
そうだった。火が必要そうなお風呂や調理、それらは全部魔導具さんがやってくれるため、我々は薪が必要な竈というものを使わない。
竈があるのは一階の突き当りに密かにあったよくわからん小部屋だ。
暫くはその存在に気づかなかったのだが、ミー君が壁飾りをいたずらして隠し扉を見つけたのだ。
『また宝石があるかも』
なんてはしゃぐミー君とともに入ってみれば、そこは怪しげな大鍋があるお部屋で。
おそらくは錬金術かなにかをする部屋なのだろうけど、我々には用がなかったため直ぐに忘れられることになったのだが……。
「どうしようナツくん。野生の錬金術師でも住み着いちゃったのかな……」
「なんだよそれおっかねえ……ともあれ、状況的に何者かが侵入してるのは間違いない。慎重にドアをあけ……」
ドンドンドンドン!
「おーい! 誰かいるのかなー? ここは私とナツくんのおうちだよー!」
ミー君!?
慎重にドアを開けて侵入者に備えようと言おうとしたのにこれだ。なんなんだよこのミー君! ここまで馬鹿だとは思わな……いや、ミー君だもんなあ……やるかあ……。
こうなったら仕方がない。相手もきっと動揺しているはずさ。今のうちに鍵を開けて飛び込んでやろう……そう思った時、ガチャガチャと内側から鍵が開けられ……。
「なんだ! ドンドンドンドンうるさいな! 我の家に何の用だ?」
我々の前に現れたのは……ふわふわとした銀色の髪をした美少女だった。
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【お詫び】
どうも一太郎で打ったデータを投稿用にtxtファイルに変更する際に
妙なところで改行される謎のバグが僕を襲っていたようで、
気づかぬ間に非常に読みにくい感じの文章になっていることに
さっき気づいて2章そっくり直しました。
大変ご迷惑をおかけしました。
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