第25話 ナマズ祭り
一体何だったんだろうか。
ナマズ君を見たマツおじは、笑っているのか泣いているのか、とにかく良くわからん顔をして村に猛ダッシュで戻って行ってしまった。
魔物の主さんとやらとの会談はいいのだろうか……。
人を呼んでくるとか言ってたけれど、一体なにがどうなったのだろう。
「ねえね、ナツくん」
「どうしたんだい、ミー君」
「もしかしてさ、これって俗に言う『あれ? 僕何かやっちゃいました?』ってやつなんじゃないの?」
……?
「いやいや、まさか。そりゃ名前はごっついけどさあ」
だってなあ? いやいやナマズだぞー? ミー君が言わんとしてることはわかるよ? でもさ、ナマズが森の主って流石にねえだろ。ナイナイ……無いよね?
チラリと物言わぬナマズ君を見やる。
(君は森の主なのかい?)
しかし、ナマズは何も言わず、ただプカリプカリと水に浮かんでいる。
考えても仕方ない。村の人達が来れば解体も手伝ってもらえるだろうしさ、結果オーライじゃ無いか。
例え、ナマズ君が森の主だったとしても。我々の無慈悲な丸太で何故か斃してしまっていたとしても些細なことじゃあ無いか。
……そう、些細な事なんだよ……うん。
そしてミー君と二人、よっこらよっこらとナマズ君をテント付近まで引きずり、小一時間ほどだらだらとおしゃべりをしていると、ガヤガヤと賑やかな声を立てながら村人達が群れをなしてやってきた。
「おおい! ナツ! ミューラさん! 仲間を連れてきたぞ!」
うおっ! すげえ人数連れてきたな……って、村人総出で来たんじゃ無いかこれ!?
ざっくり50人は軽く居るけど……マジで全員来たんじゃ無いだろうな? 来すぎでしょう!?
「確かに手伝いは欲しいと思ったけど、限度があるだろ!」
「わははは! 良いじゃねえか! みんな奴の間抜け面を見たかったのさ!」
うわあ……流れからしてマジでこれは我々やっちゃった奴で確定じゃ無いっすか。
「ね? やっぱそうなんだよ。ナツくんがさ、噂の主を丸太でやっつけたんだって」
「ちげえだろ! ミー君が丸太を蹴り落としたんだろうが!」
二人でヒソヒソと言い合いをしている間に村人達がナマズ君の元に行き、ぐるりと輪になってのぞき込んでいる。
「うおおお! 半分信じてなかったが、マジじゃねえかよ」
「おお……おお……長年の苦労もこれでしまいじゃあ……」
「誰も手が出せなかったのに……本当にやってくれたんだな……」
村人達がナマズ君を見て口々に様々な感想を述べている。ナマズ君さあ……君、そんなに悪だったの? ナマズなのに?
「ほんっとありがとうな! ナツ! ミューラさん! あんたらが居なかったら今頃俺はあいつに食われてたかもしれん」
「は? なんでマツおじがナマズ君に食われんの?」
「ナマズ君……いやな、このクソ野郎、よりにもよってよお、うちのナナを……食わせろって言いやがったんだよ」
「ナツくん! こいつ滅しよう!」
「いやいや君の丸太でもう滅されてるから!」
「そっか! 私の裁きはもう下っていたんだね! 流石私!」
ミー君がいつになくフンスフンスと鼻息荒く興奮している。魂の妹であるナナちゃんが生け贄になりかけてたってんだからそうなるのは仕方が無い。
つーか、盛り上がるのは良いが、ナマズ君をこれ以上水につけておきたくねえな。
細かい魚が群がってついばんでるじゃねえか。
「はいはい! おしゃべりは一度おしまい! 静かに! しーずーかーに!」
手をパンパンと叩きながら大きな声を出すと、ざわめきがゆっくり静まり、村人達から何言ってんだこいつ? みたいな視線が突き刺さる。 くっ……ちょっと辛い。
「はい! こいつが何者なのかはもうどうでも良いです! 動かなくなったらただのナマズなんです! ナマズ君は美味しいんです!」
逆ギレしながら一気にまくし立てると、誰かがゴクリとつばを飲み込んだ音が聞こえた。
……ミー君だった。
「でもこのままにしておくと、どんどん魚たちに食われちまうんです! つーわけで村人の諸君! お願いだから解体手伝って!」
「「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」」」
これまで森の主として散々村を苦しめてきた魔物。しかも賢くて喋ると来たら、食べ物として見れないのでは無いかな、解体嫌がるんじゃ無いかなーなんて思ったけど、そんなことは無かったぜ。
むしろ積年の恨みからか、皆嬉々として包丁を振るっている……。
湖が近い村だという事で、魚をさばくのに慣れているのだろうか。
皆で協力をしながらどんどん綺麗にさばかれ、仕分けされ……荷車に積み込まれていく。
……なんてものすごいチームワークなんだ。
つーか、あの包丁さばき……剣筋が見えやしねえ。
生前のナマズ君がどれだけ強かったか、悲しい事故で斃してしまった今となってはわからない。
しかし、俺は思うんだ。村人さん達が総出で本気を出せば……討伐出来たんじゃね? って。
◇◆◇
「ほれ! 飲め飲め! 主役のあんたが飲まんでどうする! 奥さんは向こうでガンガンやってるぜ?」
「はあ、そうっすね……」
解体から5時間が経った。
戦利品を掲げた村人達と共に村に戻った我々は、それからずっと広場で宴会をしているのだ。
5時間だぜ?
もう、5時間もずっとなんだぜ?
宴会自体はさ、平気なんだよな。飲み会とかでもさ、だらだらと5~6時間飲むことってあるしさ。
それに、ナマズ君が様々な姿に変わって舌を楽しませてくれてるんだから、宴会自体はほんと楽しいんだよ。
でもさ……。
何がキツいってミー君だよ! 誰かあいつを止めてくれ! もう5時間ずっとだぞ!
「そう! 薪を拾いに行った時、確かに邪悪な気配を感じたの! 聖なる気を持つ私をごまかせるわけが無い!」
「それでどうなったのー?」
「直ぐさま私は拠点に戻り、ナツくんに言ったの『ナツくん、ひと狩り行こうぜ……?』ってね」
「「「わーー! ミューラさんかっこいー!」」」
「えへへ。それでね、ナツくんと二人、悪しき魔物を討伐しようと思ったんだけどね、私たちは武器を持っていなかった!」
「おいおい……それじゃあどうやって討伐したんだ? 俺はてっきりすげえ得物の力とばかり思ってたんだが……」
「ふふ、私たちにかかれば全てが武器になるんだよ。 ナツくんがね、丸太を片手で持ってこう言ったの『ミー君、こいつは良い丸太だ。上から奴に叩きつけよう』ってね」
「おいおいおい! 湖に何本か黒樫の丸太が流れ着いてたがそれかあ? あ、あれを片手で?」
「そう! それこそが私たちのエクスカリバー! 勝利の剣となったの! 最後はナツくんと二人、力を合わせて丸太を投げてね……それはそれは凄い威力だったわ……」
「なるほどねえ。あんな重てえモンを喰らったらたまらねえわな。確かに奴の頭は砕けていたよ。ああ、なるほどそれで皮は綺麗だったわけだ」
……盛り過ぎってレベルじゃねえ話をですねえ……周りから強請られれば強請られるほど調子に乗ってバンバンと口から吐き出してるんですよ! ミー君が!
そもそも丸太を落とそうっていったのミー君だろ!
俺も野暮じゃあないからね? ここで『嘘だッ!』なんて否定して盛り下げたりしないよ? でもさ、そんだけ盛って盛って自分を上げてついでに俺も上げて語りまくったらさあ……明日酔いが覚めた頭で公開するのは……ミー君なんだぜ……?
しかし……。
普通ならば俺もこう、村に訪れた平和にほっこりしたり、感慨深く思ったりするシーンなんだろうけどさあ……。
知らん所で起きていた危機がさあ……涙のやりとりとか熱い激闘とか一切無く……なんだかとってもしょうも無い感じで解決したわけでさあ……。
なんだかとってもモヤモヤするよぉ……。
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