第23話 仕事も大体終わってしまって。
湖畔にずらりと並ぶは天日干しされているキイロゼリ。
日光を浴びてキラキラと輝き、そらもう綺麗なもんですが、今干しているのを合わせて83束も採ってしまいました。
満額もらえるとすれば、20束で大銀貨3枚、のこり63束で大銀貨6枚と銀貨3枚。合計大銀貨9枚と銀貨3枚ですよ。
やっべえ。
感覚的に大銀貨は10万円くらいかなって勝手に思ってるけど、そう考えるともうざっくり100万円近く稼いじまったってことですぜ。
今日で滞在5日目、依頼終了まで後2日。
稼げる時に稼いどけって考えもあるっちゃーあるけれど、今回はここまででいいかな感のが勝っている。
なので、明日はお休みにしてしまって、湖周辺の探検に行き、明後日村に戻って一泊。
そして懐かしき我が家へと帰宅という感じにしようじゃないか。
◆◇
というわけで滞在6日目である。
本日は湖周辺の探検だ。
なんでもミー君が薪拾い中に見つけた素敵スポットがあるそうで、今からそれを見に行くのである。
拠点にしていた湖畔から少し歩くと間もなく森があり、ミー君は何時もそこで薪拾いをしていたようだった。
俺も気にはなっていたが、釣りが楽しくて……その、今日まで森には近づいてなかったんだよな。
が、その中央を綺麗な川が流れているのを知ってしまってちょっと悔しい気持ちが芽生えている。
……釣り的な意味合いで。
川幅は15mと結構大きな川で、見た目的に深そうなので中に入るのは危なそうだ。
ミー君をきちんと見張って置かなければ落ちて流されてしまうかも知れない……。
「え、何? 私が落ちると思ってみはってるのかな? だ、大丈夫だよ! 忘れたの? 私ここらでずっと薪集めしてたんだからね! 実績があるんだよ?」
「ミー君……よくぞ生きて戻ってきてくれたなあ……」
「だからそこまで間抜けじゃないってばー!」
プリプリと怒るミー君の案内でどんどこ奥に進む。
噂の素敵スポットは川に沿って上流に向かうと見えてくるそうだ。
なんでまた、ミー君がわざわざこんな所を歩いたのだろうかと少々不思議だったが、よく見りゃ川に沿うような形で道が作られている。
きっと線路に沿って走る鉄道のように、フラフラと道に引き寄せられるままに歩いたに違いない。ミー君だからな。
あの村の人たちが使っているのだろうか、そこまで立派な道ではないけれど、獣道よりずっと歩きやすい、明らかに人が整備して使っている道だ。
この先に一体何があるのだろう、わくわくしながらさらに歩くこと15分。
「おお……これはご立派だ!」
「でっしょう! 私が見つけました! びっくりしたでしょう」
非常に不快なレベルのドヤ顔でなんか言ってるが……まあいい。
森が切れ、わっと視界が開けたと思ったら立派な滝が目に飛び込んできたんだ、驚かないわけがないよ。
滝の高さは20mくらいあるのかな? いやわからんが、結構な高さからすげえ量の水がズドドドドドドと、もの凄い音を立てて降り注いでいる。
滝壺周辺はやたらと水深が有りそうな深い深い青色をしていて、結構近くまで歩いていけそうだけど、なにやら身震いするような威圧感を感じる。
なんだろうな、大自然の驚異ってのかな? わからんけど、本能が危ないよー近づいちゃ駄目ーって訴えかけてくるんだ。
怖い怖い。
しかし、ほんと立派な滝だな。
思わずスマホのカメラで何枚か写したが、こりゃあそのまんまカレンダーの写真に使えちゃうね。
なんて雄大な滝の姿にうっとりしていると、なにやらミー君が俺の袖をくいくいと引く。
「ねねね、ナツくん。実はね、向こうにね、上に登れそうな場所を見っけてあるんだよ、褒めて」
「ミー君……君は薪拾いに来てたんだよね?」
「あ、遊んでたわけじゃないよ! 薪拾いをしながら……そ、そう! 情報収集をしてたんだよ! 冒険者の基本でしょ!」
……まあ、そういう事にしておいてやろう。
滝の上に何があるのか、上からの景色はどんなもんか俺も興味があるからな。
俺の好奇心に免じて今回は許してやる。
ミー君の案内で滝を迂回するように右に回り込むと、木々の合間に上に登れ
そうな斜面があったが……結構これは骨が折れそうだぞ。
ロッククライミングとまでは行かないが、ミー君には体力的に無理な道なのでは……なんて思ってたけどそれは失礼だったようで。
意外なことに、ミー君は結構な斜面をスルスルと登っていく。
おっかしーな。俺の中でミー君はなにもない所で転んだり、2段以上の段差を登れなかったりするような……なんというか、電池が切れかけた車のおもちゃレベルで馬力が無い生き物とばかり思ってたんだけどな。
いやはや人は成長するものですな……って人じゃなくて神だったか、一応は。
「凄いじゃないかーミー君。やればできる子だったんだな」
「うーん? 思ったより登れるもんなんだねえ。私もちょっとびっくりしてるよ」
びっくりて。
登れなかったらどうするつもりだったんだ? ほんと何も考えないで生きてるよな、ミー君は。
まあいい。俺も後に続いて登るとするか。
……?
確かに意外と登りやすいなここ。
なんだろう、何かそういう地形なんだろうか? だまし絵みたいな感じでさ、見た目程そこまで急な斜面じゃないとかなんとか……。
山菜採りでこんくらいの斜面は慣れっこだけど、慣れていてもつらいものはつらい。だけど、この斜面はなんだかホイホイと鼻歌交じりで登れる程楽ちんだ。
ぷりぷりと揺れるミー君の尻を眺めているうち、あっという間に頂上まで到着してしまった。
それはさておき、滝の上である。
流石に滝の上まで来る人は居ないようで、手入れがされず、自然に任せるまま結構な藪になっていた。
かき分けて進むと手が傷だらけになりそうで嫌だったので、ナイフで頑張って草を切り払いながら進む。
あまり大きなナイフでは無いけれど、意外とスパスパといけてしまう。なんだか刃渡り以上に切れているような錯覚すら覚えるわ。
「わあ、ありがとうナツくん! とっても歩きやすいよ」
「そうかそうか。足元には気をつけてくれよ。そこまでは切れてないからな」
「大丈夫だ……ぎゃっ」
言ってるそばからコケるミー君である。
ゴウゴウと流れる音を聞きながらナイフを振り続けていると……ようやく草木の海が途切れ河原が姿を現した。
河原には大きな岩がゴロゴロしていて、そこに引っかかるように丸太が何本か転がっている。
結構立派な黒い丸太だが、それらは全て途中からへし折られている。
前に増水でもして折れたのだろうか? 岩に乗り上げている丸太も数多くあり、大自然の驚異って奴をひしひしと感じる。
しかし、これがまたなかなかに立派な丸太で、見た目的には建材として重宝しそうなレベル。
もしもストレージ機能が使えたのであれば喜んで収納していくレベルなのだが……あいにく今の我々にはそんな贅沢なスキルはない。
丸太くん……君とはもっと別の出会い方をしたかったぜ……なんて感傷に浸っているとミー君が頭が悪い発言をする。
「ねえねえナツくん。この丸太さ、ここから下に落としたら凄いんじゃないかな?」
「?????」
一体何が凄いというのだろうか。一体何を言ってるんだろうか。なんだ? 小学生的破壊衝動でも起きちまったのか?
「ほら! 漫画でさ、あるじゃない。滝壺に向かって落ちてくる丸太をさ、下で待ってる人が受け止めたり、丸太をジャンプで移動して上まで登ったりするような訓練がさ!」
「えっ? ああ、うん。そうだな」
「だからさ! ここから落として上の人の気分を味わってみようよ」
「上の人の気分……?」
上の人て……。
いやまあ確かに読者として感情移入しながら読むのは下の人、つまりは丸太を受ける側の登場人物だよな。
上から落とす師匠ポジションに感情移入をしながら丸太を落とすシーンを読んだことなんて無いし、確かに言われてみればミー君が言うことも……いやいや待て待て。
あぶねえ。ミー君の不思議な感性に持ってかれるところだった。
でも……それはそれとして……ここから丸太を落としたらどうなっちまうのか、ちょっと気になるな……。
流石に丸太が砕けるような事は無いだろうけど、結構な水しぶきが上がるのではなかろうか。
どばしゃーん! なんて盛大な水音が鳴り響いてすっげえスカッとするのではなかろうか?
俺たちの他に人がいる気配はなかったし、誰の迷惑にもかからなそうだ。ここは俺も馬鹿になってミー君の申し出に乗ってやろうじゃないか。
「しょうがないミー君だな。よし、ここは丸太を下に落としてやろうじゃないか」
「ほんと? やったー! 私さ、一度お師匠様的に丸太を落としてみたかったんだ!」
なんて物騒な夢を持つ女神様なんだよ。
しかし、ノリでやろうと言ってみたものの、転がっている丸太は結構デカい。見るからに結構な重さがありそうだ。
ううん……頑張って川に押し込んでやればグイグイと流れていくか?
なるべく川に近い丸太を選び、腰を落としてぐっと押して見ると……おや? 意外なことにこれがスイと行く。
なんだよー重そうに見えて結構軽い丸太なんじゃないか。
「ミー君ミー君! この丸太、見た目より軽いぞ! 多分ミー君でも落とせる」
「えっ! ほんと! やった! 完璧に丸太落としができるじゃん!」
やはりミー君でも動かせるほど丸太は軽かったようで、次々と岩から川に落とされていく。
それがまた結構盛大に岩から蹴り落としてるもんだから、軽い丸太とは言え、だっぱんどっぽんと飛沫が上がって我々はもうずぶ濡れだ。
「これこれ、ミー君。もっと優しく落としなさい。ずぶ濡れじゃないか」
「あははごめんごめん。あ! ナツくん! 丸太がどんどん下に落ちていくよ!」
「む、それはいけない。上から見なければ!」
既に何本か下に落ちてしまったようで、ドーンドーンと盛大な音が聞こえる。軽い丸太とは言え、結構な高さから落ちるとこんな凄い音がなるんだな。
ミー君と二人、滝のギリギリまで近づき下を見ると、面白いように丸太が滝壺に吸い込まれていき凄まじい音を立てながら大きな水柱を上げている。
「わー凄いねナツくん。ねね、下でアレを受け止めてみない? 何か凄い技を閃くかも」
「死んじゃうよ!」
……というか、なんだろう? 滝壺に何か見えるような? 何か大きな影が浮き沈みしながらゆっくりと流されて居るような……。
……あっ。
「ミー君。もしかしたら我々、知らずに漁をしていたのかもしれないよ」
「?????」
「いや、急ごうミー君。このままほっとくと勿体ない思いをするかも知れない」
「え? ちょっとナツくん? 一体何が? ちょっと?」
不思議がるミー君の手を引き、来た道を急いで戻る。
藪を抜け、斜面を滑り降り……そして河原に……。
上から見たことで度胸がついたのだろうか。来た時に感じたような恐ろしさは感じられない……が、いきなり落ちて溺れるのもアレなので慎重に慎重に滝壺付近まで向かう。
「うわー凄いね。落ちた丸太で周囲がメチャクチャだよ」
「女神様がやることじゃねえよな」
「うー。ナツくんも楽しんでたでしょ!」
何も言えん。
いやあ、軽いと思ってバカにしてたけど、やっぱ丸太は強いね。下にあった岩が砕けてるわ、川岸が大きく抉れてるわ、ひでえ有様だ。
これが日本だったら方々からめちゃくちゃに怒られた挙げ句、SNSでフルボッコにされるやつだぞ……。
そしてその丸太は思ったとおり生物にも迷惑をかけたようで……。
「みたまえよミー君。あそこに浮かんでいるものが見えるかい?」
「え……あ、あれって……お魚?」
「ああ、すっげえ大きなナマズだよ……多分」
腹を上に向けてプカリプカリと漂っているのは……俺やミー君をぺろりと飲み込めてしまいそうなほどに大きな大きなナマズ。
あれはきっと滝壺の主だったのだろうな……それを……我々の無責任な遊びで……ッ!
くっ! 美しい景観を破壊しただけではなく、罪のないナマズくんまで……我々と言うやつらは!
……いやあ、ナマズってそれなりに美味いんだよなあ……よし、どうにかして拠点まで持って帰ろ!
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