2章 ちょっと遠征するの巻
第17話 鑑定を手に入れたぞ
念願の家を手に入れた我々は、宿賃という枷から解き放たれ、さらなる躍進の時を迎えていた。
日々の小さな活動が実を結んだのだろう。
この家を手に入れて間もなく、ミー君からリソースが溜まった事を報告されたのだ。
また何かミー君が欲しがりそうな加護があったら俺のギフトを取らせて貰えないかも知れないと危惧したが、それは要らない心配だった。
「おまたせしちゃったね。ようやくナツくんの分もSポイントが貯まったよー」
どうやらミー君は次にポイントが貯まったら俺に譲ると決めていたようで、嬉しそうな顔をしている。
すまないミー君……俺はてっきりまた駄々をこねるものだとばかり。
今回選べるギフトは【鑑定】と【気配察知】の二つだ。
残念ながら、これ以外の物はまだ規定ポイントに達していないらしい。
Sポイントの仕様は貯めたポイントを消費して何かを得るという物では無く、ポイントが一定数に達する毎に解放出来るギフトや加護が増えていくような仕様らしい。
雑に言えば我々がこの世界の経験値を稼いでレベリングをし、レベルが上がる毎に世界が加護なり、俺に与えられるギフトなりを選択式で覚えるような仕組み……と言う感じかね。
貯めたSポイントは解放した加護等を維持するのに使用されるそうで、一度解放してしまえばミー君がこの世界に居る限り、永続的に維持されるらしい。
「神は失われたSポイントを自ら増やせないけど、それ以上減らないように維持することは出来るからね。もしも前任者が逃げてなかったら、例え神の概念が人々から消え去ったとしても、ロックされたのは神に関係する職業やスキルだけにとどまったはずだよ」
「神が逃げた世界ってほんと悲惨なんだな……」
というわけで、今回は二択からギフトを選ぶ形になったわけだけれども、どちらを選ぶかは前回から変わっていない。
「俺は【鑑定】を取るぞおおおおミィィイイくうううん!」
「わ! びっくりしたよ! いきなり大声出さないでよね」
「……すまん」
ちなみに今回もまたステータスポイントを一人1ポイントずつ取れるとの事だったので、俺はSTRを、ミー君は今度こそINTをと思ったが……奴は既にLUKを取ってしまっていたらしい……まったくこいつは。
しかし、鑑定だよ、鑑定。これでようやく俺も異世界主人公らしくなってきたじゃあないか。もう言葉がわかるだけの異世界人とは言わせないぞ?
「ふふ、ミー君。俺は嬉しいよ。念願の鑑定だよ?」
「そうかい。喜んでくれて私も嬉しいよ」
「ははは、よし! 記念すべき初鑑定はミー君にしてみようじゃ無いか!」
「え? いいの? ありがとー! ナツくん!」
これが新たなギフトを得た感覚なのだろうか。
不思議となんとなく【鑑定】の使い方がわかる。
鑑定対象をじっと見つめて鑑定したいと思えば良いらしい。
くっ! 何故かミーくんが照れて顔を赤く染めている。やめろ、なんだか俺も照れるだろ。
顔を熱くさせながらミー君をじっと見つめていると、何やら頭に情報が思い浮かぶ。あれかな、ステータスが未実装だからこういう感じになっちゃうのかな? しかしこれは……ふふ。
「どうだい? ナツくん? 私について何かわかったかい? というか、何笑ってるんだい?」
「ああいや、そのな。こう言う具合に頭に浮かんだんだよ」
テーブルに転がっていたメモ帳を手に取り、サラサラと書いてミー君に見せてやった。
『名前はミー君。毒は無い。少し何かが足りないけれど、これでもれっきとした女神。今の所はまだ「残念」と前につくけれど』
紙を見たミーくんがぷるぷると震えている。怒っているのか笑っているのか……
「なんだいこれは!」
怒ってた。
「俺を怒るのはお門違いだぞ。多分ステータスの概念が無いからこう言うざっくりとした表記になってんだよ」
「それにしたって、これじゃあまるで食べ物か何かを鑑定したようじゃないか! それに鑑定結果までミー君って! 残念って! まさかデータベースにそう登録されちゃってるんじゃ……」
名前や残念な事にに関してはまあいいとして、ミー君にまで毒の有り無しが出てくるのは謎だよな。まあ面白いから良いかなって思うけど、家具とか道具とかだとどうなるんだろう?
リビングに飾ってあるリッチの魔石を試しに鑑定してみると……
『リッチの魔石。そこそこの魔力を内包している。浄化により無毒化されているが、その影響で変異中なので食べてはいけない』
食べられないのは見りゃわかるよ……魔力を内包してるって部分に関してはそれなりに鑑定結果っぽいけど……うーんこの。
プンプンとしつこく怒るミー君をなだめながら色々と鑑定してみたが、ざっくりとした結果が返ってくるのはどれも変わらず。そして何故か必ず毒の有り無し表記がもれなくついていた。
そりゃまあ、さ。この世界に来て早々に食で苦しんだ我々にとってはありがたい話だけれども……。この鑑定さんと上手く付き合っていくのにはコツが要りそうだなあ。
◆◇◇
しかし、この鑑定。使いどころを間違えなければ確かに便利だった。
鑑定を手に入れた翌日、ミー君と二人で早速いつもの森にやってきたわけだが、今日の我々は新たな一歩を踏み出そうとしていた。
そう、今まで採取を避けていた種類の薬草に挑戦することにしたのだ。
避けていた理由はシンプルだ。よく似た毒草と見分けがつきにくいからである。
ターゲットであるリャンリャン草と呼ばれる薬草は、大きな白い花を咲かせるユリのような植物なのだが、薬効が一番期待できる若芽のうちは毒草であるルーレンと殆ど見分けがつかない。
苦労して集めて納品した結果、その全てが毒のルーレンでギルドから嫌みしか貰えないという事が結構あるらしく、冒険者達から敬遠されているのだ。
ミー君と二人、ギルドの酒場にちょいちょいと飲みに行っているのだが、そこで知り合った冒険者がまさにその薬草で嫌みをたっぷり貰う羽目になったらしく……。
「畜生! あんなのわかる分けねーだろ! だったらギルドがクソでけえ鑑定魔導具かついで森にいけってんだよな!」
と、酷く悲しげに愚痴っていたのだ。
そんな話を聞いていたため、我々も避けるようにしていたのだが、鑑定が使える今、無敵である。
なんたって俺はあんな無駄にでかい魔導具を使わずとも、自ら鑑定出来るからな!
何処へだって出張して鑑定してやるんだから!
ふふ、他の冒険者が嫌がり触ろうともしない採取物。
つまりはライバル不在と言う事だ。
ふはははは! この森のリャンリャン草は全部我々のものだ!
「というわけでミー君よ。今日も張り切っていこうじゃ無いか」
「うん! がんばろうね、ナツくん!」
とりあえず今回も二手に分かれ、リャンリャン草を集めることに。
ミー君は鑑定を使えないため、ルーレンと見分けることは出来ないが、採ってきた物を俺が鑑定すれば済む話だ。
早速周囲の草に向かって鑑定をかければ出るわ出るわ。
植物共が好き勝手に混生しているため、ターゲットを上手く絞れずどうでも良い草の説明までわらわらと現れ頭が痛え。
……対象を絞って鑑定するのに慣れが必要だなこれ。
……
…
2時間ほどがんばり、なんとかリャンリャン草を4束採取することが出来た。
こいつは他の冒険者から敬遠されているだけあって、一束辺りの値段が大銅貨2枚と倍になっている。つまり4束で大銅貨8枚! これは美味い!
……が、これめっちゃ疲れるな。
普通に採るのの10倍は疲れる。普段であればまだまだいけるんだけど、今日はもうダメ。目がしょぼしょぼして結構辛いわ。
鑑定するため、ジロリとターゲットを凝視する必要があるんだよ。少しでもずれるとどうでも良い奴の鑑定結果が頭に出やがるので、近くまで寄ってじっと見つめないといけないんだ。
そんでもって、ルーレンとリャンリャン草は何故か仲良く並んで生えてやがるので、ひと株ひと株丁寧に鑑定しなきゃねーのがほんとつれえわ……。
つーわけで今日はこれでおしまいだ。早く帰ってひとっ風呂浴びて目の疲れを……
「ナツくーん! 採ってきたよー!」
ああ……そうだった。ミー君の分もあったんだ……まあ、其れもお金になると思えば……いいか……はあ。
目頭を揉みほぐし気合いを入れ直す。眼精疲労用のポーションとかあったらマジ欲しいわ。
「こ、こいつはまた……ずいぶんとたくさん採ってきたな……」
「でしょうでしょう! 群生地をね! 見つけたんだ! ふふん、私の新記録だよ!」
確かにすっげえ採ってきているな。束にして10束は軽くありそうだ。
上手くすれば大銅貨20枚になって大儲けではあるが……これ全部鑑定するのか……ううっ。
……
…
「そ、そんな……ね、ねえ? 嘘だよね? 全部ルーレンだって嘘なんだよね?」
「残念ながら本当だ……この酷使しすぎて砂漠のように乾ききっている目に誓っても良い」
「うう……しょんなあ……」
目に涙を浮かべてがっくりとうなだれるミー君。可哀想だが本当なのだから仕方が無い。それに俺はもっと可哀想だぞ。1時間近くかけて必死に鑑定したのが全部毒草って何の冗談だ。
ミー君だって頑張ったんだし、がっかりしていて可哀想だから責めやしないけどさ……。
「まあ、こういう事もあるさ。ああそうだ、今日は俺達結構頑張ったからな。今夜はぱあっと飲もうぜ」
「え? いいの?」
「いいんだよ。宿賃かからなくなって余裕あるしさ、今後は鑑定使って割の良い採取だってどんどん出来るだろ? 今日くらいは前祝いとしてぱあっとやろ
うぜ」
「うんうん! そうだね! ありがとう、ナツくん! 元気が出てきたよ」
「そうかそうか。じゃあ、今日はもう帰ろうぜ。俺もう目が疲れちゃったよ」
初めての鑑定を使った採取。それが成功だったのかそうでは無かったのかはまあ、微妙な所だが、毒草を避けて取れるというのは大いに便利だなと思った。
なんたってギルドに提出した際、マミさんが驚いてたからな。
「……確かに4束全てリャンリャン草と確認できました。普通は半分も当たれば良い方なのですが、良い目を持ってるんですねえ」
なんて言ってたっけ。良い目といわれればそうなんだろうな。鑑定はやたらと目を酷使するから……。
なかなかに厄介そうなギフトだが、我々『掃除屋』の金策に繋がる大切なギフトだ。頑張って使いこなしてやろうじゃ無いか。
これさえあれば、念願の装備品購入まであっという間だぜ!
----------------------------------
ナツ:【言語翻訳】【鑑定】
ミューラ:【浄化】 LUK+2
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます