第14話 おかねがね……
いけませんねえ……なにがいけませんかって、お金が貯まらない。
カッパーに上がってから5日くらいが経ちますけれども、チュートリアル中に稼いだ財産から計算すると既にざっくり銀貨3枚のマイナスだ。
宿代とお昼代、それと日々の
そんでもって薬草といっても、一種類だけってわけじゃないですからね。昨日まであったリコリス草採取の依頼が無くなり、代わりにギボシニンジンやアワバミの実の採取が貼り出されてたりしてさ。そうなるとまたどういう場所に生えているのか調べるところから始めなければいけないんですわ。きっついきっつい。
でもって、もちろん他の冒険者だって依頼で薬草採取に向かうわけですよ。ライバルですよ。薬草を狙うのは俺たちだけじゃ無いから安定してたっぷりとれるなんてこたあないんですよ。
いやあ、世の中の異世界チート主人公共が薬草採取で荒稼ぎしてるのを見てきたからすっかり油断してたわ。
よく考えたらあいつらってアレじゃんか。ぶち込めば鮮度を保つアイテムボックスをもってたりさあ、何故かすっげえ綺麗に採取出来ちゃったりさあ【探査】とか言って謎のマップに薬草の位置を表示して最高効率で採ったりしてるじゃんかあ。
俺も異世界主人公みたいなもんかも知れんけどさ、あいつらにあって俺に無いもの『チート』の3文字が憎くて憎くて仕方が無いぜ。
そんなわけで、薬草採取をすればするほど赤字がかさんでいるわけで。ヘタをすればドブさらいをしていた方が稼げたよなって日まであった。
なるほどカッパーの連中も街の依頼を持ってくわけだよ。
しかし参ったな。今の俺たちに出来るのは採取依頼くらいのもんだ。今のところ路上生活だけはなんとか免れているが、このままだとじり貧だぞ。
装備を調えて討伐依頼をっていう前にギリギリその日暮らしの生活にはまってしまう。
本日の稼ぎ、大銅貨4枚を受け取りながら大きなため息をひとつ。
それをマミさんに見られたのが不味かった。
「あら、ナツくん。何かお困りですか?」
毎日くたびれた顔で薬草を納品しているうち、気づけば彼女は「ナツくん」と親しげに呼ぶようになっていた。なんだか友達のお姉ちゃん感があってぐっとこないでも無いのだが、今の台詞はいただけない。
何が駄目かってその笑顔はだめだ。なにかこう、やっかいごとの気配しかしない。だがしかし、マミさんからにじみ出るお姉さん属性にはあらがえない。若干心が弱っていたこともあり、素直に縋ってしまった。
「それがその……。まともな装備を調えるべく、毎日せっせと採取依頼をしてるんですけどね? 誰が悪いとは言いませんが、毎日毎日赤字続きで。貯金どころかどんどん滅びに向かっている感じで……」
ミー君が無言で背中をたたいている。別にミー君が悪いと言っていないのに何故だろう。何か心当たりがあるのだろうか。
「ああ……なるほど。お二人はそれなりの宿に泊まってますからね。宿賃が嵩むのは仕方がありません」
「それなり」
「はい。それなりです。ナツくん達はうちが経営する宿にそのまま泊まっていますよね? てっきり保護期間が終わったら宿を変えると思っていたので、少し驚きました」
えっ……。で、でもさ。一般的な宿の値段って1泊大銅貨3枚っていってたじゃん。聞けばギルドの宿屋も同じ値段だって言うから引っ越しも面倒だしそのまま泊まってたのに……。
「え、あの、もしかしてもっと安い宿があるんですか?」
「ええ。低ランクの冒険者達は余裕がありませんからね。ランクが上がるまでは大銅貨1枚の宿を使うことが多いみたいですね」
ガーンだな……いやいやまじで。二人で大銅貨2枚なら大失敗をした日でも宿賃とトントンにもっていけるじゃないか……くっ……情報って大切なんだな……。
「あ、でもナツくんの選択は間違っては居ませんよ。ミューラさんとお二人で泊まることを考えれば安宿は避けるべきです」
「そうなんですか?」
聞けば、安宿は基本的に一部屋にベッドをぎゅうぎゅうと詰め込んで、見知らぬ冒険者達と仲良く眠る相部屋であるとのことだ。
「一応、男女の部屋は別れては居ますが、その……中にはあまり衛生的ではない宿屋があったり……お食事も……ね?」
ギルド職員として余所の悪口を言うわけにはいかないんだろうな。マミさんは言葉を選びながら、遠回しに『人が泊まる所じゃ無い』と訴えている。
なんとなく、隣のミー君をじっと見つめてみると、首をかしげた後にくわっと目を見開いて、即念話を送りつけてきた。
『だめだよ! ナツくん! 安宿! ダメゼッタイ! 嫌だからね!』
必死である。余りにも必死なのが面白くて念話に返事をせず、難しい顔をして黙っていたらジワジワと目に涙を浮かべ始めやがった。うっわ、ここで泣くか?
「なるほど……安いのは魅力的ですが、相部屋というのは良くないですね……寝る前に二人ですることもありますから、他人が居るとちょっと。
って、そもそも部屋が男女別か。となりゃやっぱ無理でも今のままの方がいいですね」
反省会したり、リソースが溜まってるかチェックしたり、作戦会議したりいろいろあるからな。女神だったり異世界人だったりする我々のやりとりはあんまり他人に聞かせたくは無いからな。
「そっ……そ、そうですね。ご夫婦でいらっしゃるお二人ならそうなんでしょうねー はあ」
……マミさんが顔を赤くしてため息をついている。待て待てなんだ? 今の会話のどこに……あ!
「違うんですよ! 変な意味じゃあ無くて! 翌日の打ち合わせをしたり、反省会をしたりそう言う意味ですって! って、いってえなミー君? 背中たたくな!」
「もーー! ナツくんのばかー! もーー!」
同じく顔を赤くしてぽかぽかと背中をたたくミー君。 周りの冒険者共が苛立たしげにこちらを見ているのがわかる。違うんだ、違うんです。本当に違うんだって!
「……失礼、取り乱しました」
「いえ、俺も言葉の選択を間違えましたので」
マミさんはこほんと咳払い。そして周りに聞こえぬよう、声量を落としてヒソヒソと話し始める。
「宿賃で日々の暮らしが圧迫されている……そんな貴方達に良いお話があります」
来たよ。このご都合主義。困った俺たちの為に依頼がやってきたようだぞ? わあい、どんな依頼だろおー ぜってーろくな依頼じゃねえ!
「……なんでしょうか」
「街の外れに一軒家がありましてね。その一軒家は大分前に持ち主が亡くなり、ギルド所有の物件になっているんです。ところが、どんなに
「あー……なるほど、確かにもしかすれば俺たちなら綺麗に掃除出来るかも知れませんね」
掃除依頼か。思ったよりまともだな? 大方時間がかかるような清掃依頼をちゃちゃっと片付けた俺たちならと思ったのだろう。思ったより悪くはなさそうなので、とりあえず報酬を聞いてみると……。
「報酬はですね、現物で申し訳ないのですが、その物件の所有権です」
「え、まじで」
「やります! ほら! ほら、ナツくんも手を上げて!」
なんで手を上げる必要があるんだよ……。
っていうか、まじか。家くれんのか。どんなに汚いおうちだといえども、ミー君で洗えばあっという間に綺麗になるはずだ。
家があれば日々の宿賃も浮くことになるし、これはほんとあれだ! ご都合主義万歳と言わざる得ないな。
「ミー君もやる気みたいなんで、とりあえず受託することにします」
「ありがとうございます! これでまたひとつ焦げ付き依頼が片付きます!」
……いやまあ、いいんですよ。そう言う小さな感謝でミー君にリソースが溜まっていくんですから。ただ、堂々と焦げ付き依頼が片付くとか言われたくなかったなあ……。
なんだかすげー汚れが落ちるスポンジみたいな感じに扱われてる感がして……ちょっとな……。
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