第13話 依頼をうけるのだ
「るんたったーるんるんっ るんぱっぱー」
怪しげな鼻歌でギルドをざわめかせし者、その名はミー君。
浮かれに浮かれまくったあげく、とうとうぶっ壊れてしまったのだ。
「なんだか失礼な事を言われてるような気がするなー!」
「気のせいだから。ほれほれ、適当に依頼を選びな」
ミー君がどうしてこんなに浮かれてしまっているのか?
それは我々がとうとうカッパーランクに昇格し、受託制限の呪縛から解き放たれたからである!
いやあ、危なかった。ミー君が浮かれるのもまあわかる。なんせギリギリだったからな。
昨日できっかりチュートリアル期間が終わり、今日から自腹で冒険者として生活をしていかなければいけないのだ。
我々には備えがあるけれど、それでも稼ぎは大切だ。何しろ街の依頼と来たら報酬がしょっぺーったらもう。
二つ目の依頼を受けたのはチュートリアル三日目の朝だった。
え? 何で二日目じゃないのかって?
いやあ、シュリさんの依頼大変だったでしょう? 多分疲れちゃったんだろうね。
起きたら10時でさ、慌ててギルドに行ったけど依頼なんて残ってねえの。
『一応……みなさん貴方たちに遠慮して9時くらいまでは街の依頼を残しててくれたんですよ? それなのに来ないから……』
いやあ、ほんと面目なかった。マミさんのじっとりとした視線、あれはあれでいいものだった。
そんなわけで、翌朝はちゃんとアラームをかけ、7時からギルドに行って依頼ボードに向かったんだけど……。
「ねえねえ、ナツくん。早起きしたけどさ、依頼って1枚しか無いよね?」
「ああ、そうだな。俺たちが受けられるのはこのドブさらいだけだな」
ドブさらい:東地区のホイホイ通りで側溝に溜まったヘドロおよびゴミの除去。発生した汚物は袋に入れ、指定箇所に置くこと。
ギルド支給品:袋、入浴チケット 報酬:大銅貨3枚
「ドブさらいが残ってて良かったね! 今の私にかかればあっという間に終わるよ!」
「そうなんですね」
「塩対応やめて!?」
「それはいいけどさ、ミー君。報酬金額をみたかい?」
「えっ? 大銅貨3枚……って書いてあるね」
「大銅貨3枚、つまり一人が1泊する程度の稼ぎってわけだよ」
「ふむふむ……えっと、二人で働いても報酬は……」
「当然同じだろうね」
「どうしよナツくん……私たちが受けられるのはこれだけなのに、報酬がこれじゃあナツくんがお外で寝ることになっちゃうよ……」
「なんで俺が泊まれない前提なんですかね!? それにそもそもまだチュートリアル期間だからその心配はねーって」
「そ、そっか! じゃあ今のうちに頑張らないとね!」
……
…
そんなわけでまあ、依頼はミー君の働きによって小一時間で終わりまして。いっや、すっげーのね、浄化。ミー君が手をかざして『ピャー!』とか言ったと思ったらヘドロがぐんぐん浄化されて綺麗になっていくんだもの。
確認に来たギルドの人から『綺麗になってるけどヘドロどうしたの?』って言われた時は参ったね。通常有るべき物が無いんだものな。
そしたらミー君がどや顔でこう言ったんだ『浄化しました!』ってね。
浄化と言われても意味がわからないギルドの人は困った顔をしていたけれど……まあ、首をかしげながらも完了のサインしてくれたから……良いことにしよう。
で、その後三日連続で我々は二人仲良く寝過ごしてしまいまして……いやあ、しょうが無いんだよ。宿の人から『朝からピーピーうるさいって苦情が入ってるよ』って言われちゃってさ。アラーム使えなくなっちゃったんだから。
いやあ、アラームが無い我々は無力だった。まさかあそこまで起きれないとは。
それでも流石にね? 危機感を感じたのかな。昨日は二人仲良く6時に目が覚めましてね。それでまあ、ウッドランク最後の依頼、噴水の掃除 大銅貨1枚を達成して見事ミッションクリアって訳でして。
いやあ、シュリさんの依頼。あれってウッドランクでは破格のめちゃうま案件だったんですねえ……多分誰もうけねーからどんどん報酬が上がったパターンだったんだろうけど、アレがなかったら今頃マジでやばかったな。
そして先ほどカッパーランクに昇格した我々は、ウッキウキで依頼を見にやってきたわけですが、うーむ。
「ねえねえナツくん……確かに受けられる依頼はたくさんあるけどさ」
「ああ、ああ。言わんとしてることはわかるぞ……」
今の我々は誰がどう言おうとクソ雑魚ナメクジだ。武器はまあ、一応俺のザックに包丁代わりのナイフが入っているけれど、日本で買えるようなもんなので武器として考えたらお察しだ。
一応ミー君が魔術を使えなくも無いが、ミー君の魔術は現状生活魔術と言った方が相応しいレベルの物でしか無い。
それに防具だってなんにも身につけていないため、ゴブの攻撃一発であっさり沈んでしまう自信がある。我々が魔物に立ち向かうなんて死にに行くような物なのだ。
さて、張り出されている依頼に話を戻そうか。
カッパーランクの我々が受託できるのはカッパーランクの依頼、そして二人ではあるけれど一応パーティを組んでいるのでシルバーランクの依頼も受けることが出来る。
ただし、ただしだ。前述したとおり我々はクソ雑魚ナメクジだ。シルバーランクの依頼なんていくら報酬が良くてもおっかなくて受ける気が起きない。
そしてカッパーランクの依頼。こいつも大半がやばい。何がやばいって討伐依頼がやばい。攻撃力が皆無に等しい我がパーティにそんな物を受けられるわけが無い。
すると残るのは採取依頼なんだけれども、報酬が……薬草的な植物を8本一束で1大銅貨とのことで。
二人で頑張って10束集めたとしよう。すると報酬は大銅貨10枚。宿賃が二人で大銅貨6枚で、お弁当代が二人で大銅貨1枚程度としよう。すると自由になるお金は大銅貨3枚というわけだ。
それも上手くいけばのお話だ。上手くいっても報酬がしょっぱい! 失敗すれば大赤字! 外に出れてもいきなり大儲けは夢のまた夢でありました。
そんな現実を突きつけられたミー君と来たら。さっきまでのテンションはどこへやら。へにょりと眉毛を下げてしょんぼりとした顔をしている。
「まあまあ、ミー君よ。今は耐えようじゃ無いか」
「うん……」
「コツコツと採取依頼でお金を貯め、まずは防具を買おう。そしてまたお金が貯まったら武器を買い、ゴブゴブの討伐から始めていこうじゃ無いか」
「そ、そうだよね。どんな冒険者だって最初はレベル1で竹槍から始めるんだ。最初はコツコツ安全に金策しよう」
竹槍って。ずいぶんとネタが古いんだよなあミー君は。そこはせめてひのきの棒か銅の剣にして欲しかったよ……。
そんなわけで我々は初めてのカッパーランク依頼を薬草採取、リコリス草の納品と決め、元気よく西の森へと駆けだした。
西の森……ここは誰かさんのせいで最初に降り立つこととなった思い出深い場所だ。二人で森の恵みを味わい、虹を見せ合い、そして愉快なフレンズ達のお祭りにだって参加した。
……良い思い出がねえ……。
通常であればトラウマでどうにかなりそうなもんだが、我々と来たら至ってのんきなもんだ。クソ雑魚ナメクジな我々ですけどね、護りだけは強固なんですわ。
今日ご紹介するのはこちら! 万能結界発生器ミー君です! なんとこちらのミー君、50m四方に魔物を近寄せない結界を張れるだけではなく、お水を出したり着火、それになんとスマホの充電まで出来ちゃいます。さらに今なら頑固な汚れもしっかり浄化しちゃう機能までおつけいたします。
さて! こちらのミー君、なんと本日限定で1柱金貨さんま……
「えい!」
「……痛いなミー君。なんでいきなり俺の尻を蹴ったんだ?」
「なんだかろくでもないことを考えている気配を感じたんだよ!」
ちっ。ミーくんめ、地上でもほのかに読心術を使えるようだな……。
つーわけで、ミー君が張った結界により我々は安全に薬草を採取可能。さあさ、後は張り切ってリコリス草を採取しちゃいますぞー!
「ようし! ナツくん! 私は向こうを探すよ! あ、大丈夫! 少しくらい離れてもちゃーんとナツくんは範囲に入るからね!」
「二手に分かれれば効率が良さそうだな。ならばここは競争といこうじゃないか」
「望むところだー! 私の本気、みせてあげるよ!」
……
…
「はい、リコリス草の納品ですね……ええと、5束ですが、一束は品質がその……余りよろしくは無いので、減額させていただきまして大銅貨4つと銅貨5枚になります」
「……はい、それでかまいません」
……いやあ、失念していたよ。ミー君が基本ポンコツだって言う事をさ。
薬草集めってさ、思った以上に大変なんですね。夕方近くまで頑張ったけど4束しかとれなかったよ。
「うう……ごめんよナツくん……私その、薬草を見つけて嬉しくってさ……ついついずっと握ったままで居ちゃって……」
ミー君は薬草を見つけられたのがよほど嬉しかったのか、手に入れたリコリス草を布袋に入れることをせず、ずっと片手に握ったまませっせと薬草摘みに励んでいたらしい。
ずいぶんぎゅっと握っていたのでしょうね。俺が様子を見に行ったときには既に結構な数のリコリス草が駄目になっていました。
納品したのはその中でもマシだった奴ですね……ああ、駄目になったリコリス草は乾燥させたらお茶になるらしいのでね。もったいないので俺のザックに入れてありますよ……。
しかしいきなり赤字スタートか……先が思いやられるなあ……。
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