第12話 リソースの使い道
部屋に入り、とりあえずベッドに座って明日からの相談でもと思ったところで突然ミー君が立ち上がり、腕を天に向けて突き上げた。
「ぱんぱかぱーん! なんと
「なんだかノリが古いな……」
「なっ!? そ、其れは兎も角として、信仰値、略してSポイントが貯まったのです!」
「Sポイント……? ああ、信仰をローマ字にしたのかよ。そこはFaithのFからとらね? 普通」
「う、うるさいですね……。FよりSの方が強そうに見えるじゃ無いですか。良いんですよSポイントで」
「話が進まなくなるからまあ、それでいいけどさ。それで、目標値に達成とか言ってたけれど、もう俺の冒険は終わりで良いのかな?」
「な、なにいってるんだい! そう言う意味じゃ無いよ! 加護やギフト、ステータス補正などに使えるだけのポイントが貯まったって事だよ」
「なるほどそう言うことか……つまりここから俺のチート主人公生活が始まるって事かな?」
「残念ながらそうはならないよ。とりあえず今とれるのは……待ってね今リスト出すから」
ひとつだけとはいえ、武器になるものが増えるのはありがたい。リストか何かが宙に表示されるのかとわくわくしながら待っていたけれど、どうやらそれもまたSポイント不足とやらで使えないようで、ミー君はせっせとメモ帳に書き出している。
「ふうふう……出来たよ。今のポイントだとこの中からひとつだけ選べるんだけど……」
メモ帳、しかも裏に何か書いてある物に書き出されたのを見て安っぽいなとか、侘びしいなと思ったけれど、それを口に出すとまたグダグダになるのでそれをぐっと飲み込み、気にしていない体を装ってメモをのぞき込んでみた。
そこには……
【加 護】 ・神聖術
【ギフト】 ・鑑定 ・気配察知
【ステータス強化】 STR DEX AGI INT MND LUC
「意外と便利そうなのが選べそうだけれども、まず最初の【神聖術】ってなんだい」
「ああ、それね! まずはじめに説明するけど、【加護】というのは、私が世界に対して実装できる新たな機能のことだよ。私が加護から何かひとつ取得するごとに世界に新たな要素として実装されるんだ。つまり、この世界には【神聖術】の概念が無かったってことなんだよ」
「む、ということはいずれ【ステータス】みたいのをポイントで取れば念願のステータスオープン!ができちまうってわけかい?」
「そう言うことだね。ただし、しばらくはテスト期間という事で、私とナツくんに関わる物にだけ適応する形になるけど、実装しちゃえばその制限はいつでも弄れるんだ」
「んん……ギフトのように特別な物では無く、誰しもが覚えられる可能性があるものだから、世界に実装する加護に入っている……そう言うことなのかな?」
「半分当たりかな? 神聖術は聖職者が覚える特別な物でその取得には神に対する信仰心が必要となるわけだ」
「ん、つまりは神様の存在が無いに等しいこの世界ではスキルの概念がうんたら以前に存在出来なくなっていたって事になるわけか」
「そう言うこと。だからまずはじめに改めて実装する必要があるし、それを覚えて使えるのは当分の間は私とナツくんくらいだと思う」
「神を信仰して取得する……か。自信ないな……」
「そこは自信を持って欲しいな!?」
……つまり当分の間は事実上ミー君のみが使えるユニークスキルみたいなもんだよね。うーん、それを聞いちゃうと今のところはスルーで良いかもしれないな。
「ギフトはナツくんが直ぐに覚えて使える奴だけど、今回は鑑定と気配察知の二つだけだね。どちらもスキルとして芽生える物より効果は高いだろうけど……うーん……正直微妙?」
何を言ってるんですかね、この女神様は。 今後俺たちが冒険者として活動するにあたってどちらも欲しいギフトじゃ無いか。特に鑑定。これは欲しい。なんたって似たような物が二つ並んでいてもそれを見分けることが出来るんだぞ。
新米冒険者と言えば薬草拾いだろ? となれば鑑定があるのと無いのとでは作業効率が段違いだ。気配察知も魔獣や悪意を持った連中の接近を感知するというお約束のスキルだから欲しいけれど、今回は鑑定に決まりだな。
ちなみに、加護とギフトは両方のリストからひとつしか選べないけれど、それに加えてステータス強化を一人1つ選ぶことが出来るとのことだった。
ミー君は神様なのだから、そこは俺に譲って二人分付与して欲しいと思ったけれど、よく考えてみたらミー君も下界ではくそ雑魚ナメクジになっているので、むしろ俺の分を上げた方が良いのかも知れないな……いや、やらんけど。
「じゃあさ、せーので欲しいのを言おうか。今日一緒に冒険者として活動した私たちなら今後を思ってきっと同じ物を選ぶはずだよ」
「なんだよ。俺に選ばせてくれるんじゃ無いのか。しょうが無いな。じゃあ、いくぞ、せーの!」
「鑑定!」
「神聖術!」
バラけてんじゃねえか! 浄化? なんで浄化? そんなもん後からゆっくり取りゃ良いじゃ無いか。スキル解放の後でもさあ。
「ははは、ミー君。そこは鑑定じゃないかなあ?」
「うふふ何を言っているのかな、ナツくん。ここは神聖術でしょう?」
「「ぐぬぬ」」
にらみ合う我々。なんでまたミー君はそんなにも神聖術を欲しがるのだろうか。そんな物とっても何の役にも立たないだろうに。
しょうが無い。ミー君にもわかるように鑑定の必要性についてやさしく説明してやろう。
「いいかい、ミー君。例えばミー君の目の前に見た目が同じお饅頭が二つあったとしよう」
「二つあったら当然ナツくんと分けるよ。私は優しい女神様だからね」
「うん、ありがとうな。でもな、その片方は食べたらコロりと逝く毒饅頭なんだよ」
「どうしてそんな酷いことするのかな? それじゃあ二人のうちどちらかが死んでしまうじゃないか」
「そこでこのギフト、鑑定だ! 鑑定を使えばほーらこの通り!」
「わあ! 凄いよナツくん! どっちが毒かわかるよナツくん! じゃあ、こっちの食べられる方をはんぶんこしようね」
「ありがとう、ミー君は優しいなあ……というわけで! 我々は鑑定のおかげで悲しい事故を防ぎ、仲良くひとつのお饅頭を半分こできたわけだ。どうだい? 鑑定、便利だろう?」
ノリノリで小芝居に乗っていたミー君はここでようやく俺が言わんとしていたことに気づいたようで、はっとした顔をした後、ぐぬぬと悔しそうにしている。
いやいやそこは納得をして同意するところだろうに。
「確かに鑑定は便利さ。森で迷子になっても食べられるものがわかるものね」
「そうだろうそうだろう。もうあの日のような目に遭うことは無くなるんだぞ」
「でもね、私たちが今手に入れるべきは神聖術なんだよ」
なんでだよ! そこはそうだね! と、納得するところじゃないか。全く譲らないミー君だな。一体何がそこまで彼女に神聖術を求めさせるのだろうか。
「今日、私たちは人や神としての尊厳を失いかけました」
「そんげん」
「はい。異臭と汚れにまみれた身体でお食事中だった皆様の前に降り立つという酷い事をしでかしてしまいました」
「……悲しい事件だったね」
「そこで神聖術です! 神聖術の取得と同時に覚えられる【浄化】があればドブさらいだって大助かり! ドブに浄化をかければあら不思議! 汚れること無く完了できちゃいます!
もし、汚れるようなことになっても身体にかければ直ぐ元通りだよ! お風呂に入れない長期依頼でも綺麗な身体のままでいられるんですよ!? どうです?」
力説するミー君。なるほどそれはそれで魅力的だ。汚れてしまったら風呂に入れば良いし、便利な洗濯機もある。でもそれ以前に汚れること無く作業が出来るってのはいいな。
あと二つ街中の依頼を達成できなければ外に出る依頼は受けられないし、今後もドブさらいのような汚れる依頼を受けないとは限らない。
魔物と戦えば返り血や何かで汚れることだってあるだろう。街に帰るまでの間、血なまぐさい身体で我慢をしながら何日も何日も野営をする……か……ああ、なるほどな。これはこれで平和で清潔な日本で暮らしていた俺にはつらい話だ。
ううむ。どのみちあと2回なにかしの依頼を受ける事になるわけで。街中の依頼という事で依頼者と直に顔を合わせることになりそうだ。となれば、また感謝をされてSポイントを得られる可能性は高い。
となれば、今回はミー君に譲って【神聖術】を取り、次にSポイントが貯まったら【鑑定】を取る。それで行くしか無いか。
「わかったわかった。今回はミー君に譲ろう」
「ほんと!? やっぱりナツくんだって汚れるのいやだもんね。【神聖術】とるっきゃないよ」
「まあね。けど、次こそは【鑑定】を取らせてくれよ? 採取依頼に無くてはならない物だからな」
「うんうん! わかったわかった! それでさ、あまりのポイントどうする?」
余りのポイント……ステータスに上乗せできるんだったか。どれだけ増えるのかわからないし、確認も出来ないのでありがたみは薄そうだけど、少しでも増えるというのなら貰わない手は無いよな。
確か
ミー君には間違いなくINTを振って貰うとして俺はどうするかな。
STRやAGIをあげて戦闘向けの身体を作るのも悪くないけど、DEXもいいよな。命中率に関係しそうだし、なによりいつかなにか作ろうって時に役立ちそうだ。
MNDをあげて魔術師プレイも悪くないけど、今のところ魔術を覚える余裕は無いから後だな。
LUKもとりあえず後回しとなれば……ここはやはりDEXか。
「ミー君。俺はDEXをあげるぞ。付与してくれ」
「おっけーわかったよ。うふふ。早速【神聖術】を取っちゃったよ。後でナツくんも綺麗にしてあげるね」
「おいおい……もうとったのかよ。一言くらい言ってくれれば……ってもしかしてステータスポイントも振っちゃった?」
「振ったよーLUK!」
「LUK」
「うん! 結局の所、最後に頼りになるのは運なんだよ。運を上げておくに越したことは無いよ!」
「そうかあ……運を上げちゃったかあ……」
先にINTを上げておけば二度とそんなことは考えなかったろうに……もう上げちゃったかあ……まあ上げてしまったのなら仕方ない。今後罠の解除なんかはミー君に任せよう。
……どれだけ上がったのかわからんし、その効果も不明だがね。
というわけで、俺もDEXを上げて貰ったけれど、いまいち効果がわからない。というか、器用さが関係するような作業をする道具も何も無い。
まあなんだ。今後の依頼で効果を発揮することを祈ろうじゃ無いか……と、そろそろ寝ないと明日も寝坊しちゃうな。
む……そうか、今日は……この部屋でミー君と二人……二人で寝る……のか……。
「んん、じゃ、じゃあミー君。そろそろよるも遅いし寝ようじゃ無いか」
「えっ!? あ、ああ、そういう。そ、そうだね。寝ようか、ナツくん」
ツインなのでベッドは別れているけれど、その距離は決して広くは無い。互いの寝息が聞こえる距離……野営の時にはもっと近くで寝たはずだけれども、どうして宿屋となるとこうも生々しい感じがするのだろうか。
ミー君も妙に緊張しているのか、もぞもぞと布団の中で動いていて……畜生なんだかとっても気になって寝られない。
……明日はつらい目覚めになりそうだな。
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ナツ:【言語翻訳】
ミューラ:【神聖術】 LUK+1
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