第9話 報告と報酬と
「先程お預かりしたコアを鑑定の魔導具に通した所、ヴェノムスライムのコアと判明しました」
「「べのむすらいむ」」
マミさんはミー君と二人ハモる俺を見てこくりと頷く。
べのむすらいむ? 毒のスライムって事かな? 池をあんなにドロドロに腐食させていたんだから、そう言う種類なのはなんとなく納得がいくな。
「ヴェノムスライムは通常、街中に現れるような魔物ではありません。そして、あなた方のようなウッドランクのルーキーが二人で討伐できるような魔物でも無いのです」
ちょっとまて。その話には納得が出来ない。魔物とか討伐とか言ってるけど、どちらかと言えばアレは町内会の大掃除って感じの作業でしかなかったんだぞ……。
確かにコア的な物をソォイとやったわけだから、討伐したのだと言われたらそうかもなって思うけどさ……。
思わずミー君と二人顔を見合わせて困惑の声を出してしまう。
「ええ……でも……なあ?」
「特に何か頑張ったとかそういうのは無いよね」
そもそもコアからぬるぬるとした物が溢れるまで単なるヘドロだと思ってたし、その上に乗って……いや、中に入ってのが正しいのか? なんかもう無心になってスコップでザクザクと掘ってたんだけど……。
それを聞いたマミさんの顔と言ったら。呆れたような顔というか、バカを見るような顔というか……何かとっても反応に困ったような顔をしている。
「……そうですよね。なんとなく、そんな事を言われる気はしていました。なのでそんなあなた方のために資料を用意しています。ナツさん、ミューラさん。このページを見て下さい」
ペラリとマミさんが開いたのは何やら魔獣図鑑のようなもので、そこにはスライムの絵が書かれていた。なになに……
【名前】ヴェノムスライム
【討伐推奨ランク】 パーティー:シルバー ソロ:ゴールド
【特徴】アシッドスライムのように強烈な酸で武器を腐食させることはないため、一見すれば前衛向けのスライムに見えるが、内包する毒は触れるだけで身体に害を及ぼし、付近に立っているだけで体調が悪くなる前衛殺しである。
対処方法としては、遠距離から炎系の魔術で攻撃をしたり、氷結させた後にコア毎砕くなど、魔術師必須の非常に手間がかかる相手である。
なお、ヴェノムスライムの毒を受けた場合、徐々に弱り30分ほどで行動不能となり、症状が重い場合はそのまま死亡してしまうこともある。
「ねえねナツくん。私達思いっきり触ったけど生きてるよね……?」
「ああ。それどころかお風呂に入ったおかげで体調が良いくらいだ」
なにやら大層な説明が書かれているが、俺たちが遭遇したスライムは別にそこまで恐ろしいものではなかった……というか、スライムと気づかずに駆除してしまったくらいだからな。
鑑定結果が間違えているとは思えないから、恐らくはなんらかの影響によって弱体化してしまっていたのだろうな。それこそ俺たちみたいな素人が雑に倒してしまえるほどに。
スライムは弱った体を休めるため、妙にパワースポット感溢れるあの池に誘われやってきた……うむ、話が繋がったぞ!
そんな感じで俺の見解を伝えると、マミさんは何やらぐちゃぐちゃと言って納得がいかない風だったけれど、そんな事言われても俺とミー君は嘘偽り無くモブに毛が生えた程度のクソザコステータスだ。
俺たちがゴブリンに攫われ、冒険者たちに助けられたという悲しい事件を思い出していただきたい。
「まあ良いでしょう。貴方達が嘘を言っているようには見えませんし、例え何かを隠していたとしてもそれはそれでこちらとしては損にはなりませんからね」
そして例の怖い笑顔を浮かべたマミさんは『これが報酬です』と、まずは銀貨2枚を手渡し、次いで『そしてこちらが討伐報酬です』と、なにやら大きめの銀貨を1枚手渡してくれた。
「ありがとうございます。なんだかこちらの銀貨は大きいですな?」
と、訪ねてみると、珍しいものを見たような顔をして俺をジロジロと眺め、何やら気の毒そうな顔をした後、説明をしてくれた。
「これは大銀貨ですね。これ1枚で銀貨10枚分の価値があります。そして……」
と、お約束である通貨の説明が始まってしまった。言われた所でピンと来ないから無くても良いのだが、左から右にざっくりと聞き流した所によれば、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨と、あり、それぞれ10枚で上の貨幣と同等の価値になるらしい。
大金貨の上に『白金貨』というのがある……と聞いた時にはやっぱあるのかと吹き出しそうになってしまった。まあ、俺達がお目にかかることは無いだろうがね。
この手の話がダラダラ続いても眠くなるだけなので、それぞれの貨幣価値については追々と暮らしながら覚えて行くと伝え、適当な所で切り上げさせてもらった。
ただ一つだけ、もうすぐ必要になることなのでついでにと一般的な宿屋の料金を聞いてみたら、1泊2食付きで大銅貨3枚ということだった。
今俺達は大銀貨1枚に銀貨8枚持っている。これだけでも二人で一月は泊まれそうだから、真面目に依頼を受けて食費やなんやらをきちんと稼ぐようにすればギルドの保護期間が終わってもなんとかやっていけそうな気がするな。
「さて……取り敢えず私どもの要件はおしまいです。今回は本当にありがとうございました。あの依頼を受けたのが貴方達だったのが幸運でした。他の冒険者が請け負っていたらその人や街にどんな被害が出ていたことか」
「あんなの誰が請け負っても同じだと思うけど……なあ、ミー君」
「他の人じゃお水を汲むのが大変かな? くらいだもんね。誰でも出来るよ」
何か勘違いをしている気がするけれど、アレは本当に雑魚だったからなあ。誰が行っても知らずに討伐して同じ結果になっていたと思う。俺たちはたまたま運が良かっただけだろう。
「はあ……まあ、そういうことにしておきましょう。それでは本日はお疲れさまでした。この様子であれば、ルーキー保護期間中にカッパーまで上がれそうですね」
「そうなれるよう、がんばりますわ」
「明日は早起きして依頼とらないとね!」
張り切る我々を何か微笑ましそうな顔で見るマミさん。そうだよ、その視線だよ。俺たちルーキーに向けるのはそういう視線で良いんだ。さっきまでの得体が知れない何かを見るような視線はちょっと違うぜ。俺たちはほんとにほんとのルーキーなんだからな。
マミさんに改めてお礼を言い、俺とミー君は祝杯を上げにギルドの食堂に向かうのでありました。
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