第26話 気持ちの逃げ場

自意識過剰な自分が馬鹿らしかった。


信用されて離婚した父親のことを話してくれて、

久子のやりたいことを叶えてあげられて。

それを話すと笑ってくれる。


もしかしたら久子も僕に好意的なんじゃないか?

なんて、なぜ思ってしまったんだろう?


いや、好意的だから好きだと伝えたのか?


──ごめん、そんなの困る。


違う…。僕は久子が好きになっていたんだ。

だから気持ちを伝えた。

で、フラレた。困られた。


病院からの帰り、いつもより全力で立ち漕ぎで自転車を走らせた。

面会時間外に忍び込んだ後の帰り道は夜中で、でも関係ないやって大声で叫びながら走った。


かかる時間はいつもより短く家に着いた。

カギを開けて入ると、僕は驚いた。


…リビングの灯りが点いていた。


母親がテーブルのイスに座っていた。


「母さん、起きてたんだ?」

『…最近帰りが遅いこと多いよね、サトシ』

「バイトだったからね」

『本当にバイトだったから?』

「…どういう意味?」


その時、ふと大久保に言われた言葉と重なった。


『…サトシ、大丈夫よね?』


なぜかその言葉にカッとなった。


「なんだよ、それ!姉ちゃんの時と…智美の時と同じこと言って。大人だろ、母親だろ!?そっちがもっとしっかりしてよ!」


気づけば今まで1度もないほどの怒鳴り声を母親に向けていた。

気まずくて、逃げるように部屋に戻る。

戻り際に、


「バイトで、疲れてるから。おやすみ」


それが今の精一杯だった。

…僕は大丈夫じゃないのかもしれない。

   





  



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