第24話 ラインマーカーと練炭

「お姉ちゃん遊ぼう」

『今は忙しいから後でね』

「何読んでるの?…なかはらなかや?」

中原中也なかはらちゅうやね』


──愛するものが死んだ時には、

自殺しなきゃあなりません。


愛するものが死んだ時には、

それより他に、方法がない。──


そこにラインマーカーが引いてあった。

これは智美が死んでから調べて知った。


「お姉ちゃん、キャンプするの?」

『こら!勝手に押入れを開けないで』

「バーベキューの炭でしょ、これ」

『…まぁね。みんなには内緒だからね』


自殺に用いることが多い練炭というやつだと、

これも智美が死んでから調べて知った。

バレちゃいけない気がして、智美が事故にあった後にこっそり僕の部屋に隠した。

ラインマーカーの引いてある本と練炭を。

練炭は未開封だった。


姉は…智美は確かに交通事故でこの世を去った。

でも、彼氏が亡くなった後からは、どこか危うげで、どこか虚ろで。


ラインマーカーの部分が頭をよぎる。

でも誰かに話したりはしない。


……姉との秘密だからだ。

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