第9話 恩返しの始まり

「…本当に治った」

『信じてなかったんだ?ま、そうだよね普通。

誰にも治せない病気なんだもんね』


彼女は信じられないことをしたのに、

当たり前のことのようにそれを言う。


『じゃあ私のお願い聞いてくれるよね?ね?』


ふと思い出す。

『もうすぐ死ぬよ』『延長戦て感じ』

他人だけは治せる…いや、自分だけは治せないなんて悲しいし、申し訳ない。

彼女は命の恩人なのだ。

できる限りのことをしてあげたい。


「…うん、何をすればいい?」

『私、ずっと病院暮らしでさ。やりたいことが沢山あるのに、全然出来なくてさ。だからサトシに代わりにそれをして欲しいの』

「キミの代わりに…」

『で、その感想や体験を私に聞かせて欲しいの』


なるほど。

入院が続いてたら、話し相手も欲しくなるか。

できることなら協力するって最初に言ったし、無茶苦茶な要望はさすがにないだろう。


「わかった」

『ありがとう!じゃあ最初はね〜…』


ドアをノックする音がして、ドアが開く。

女性が入ってきて僕に気がつくと…


「あら?お客様なんて珍しいわね」

『サトシ、紹介するね。私のお母さん』

久保智史くぼさとしです」


このあと検査があるということを告げられて、今日は帰ることにした。

部屋を出ると、携帯が受信メールを告げる。


──最初のお願い。

アルフォートとポテチが食べたいなぁ。


斉藤さんからのメールに、子供かよ…と思いながら病院を出た。





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