(11)第一条件
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伸広が代表同士の話し合いに姿を見せてから半月ほどが過ぎていた。
その間も代表同士の話し合いは続けられていたが、伸広や女性陣が姿を見せることはなかった。
そしてその間に事態は大きく動き始めていた。
まず問題の人々が災厄と呼ぶ大きなカメは、あの会議で伸広が宣言したとおりに代表として参加していた一つの国の首都を潰していた。
この段階で代表同士も話し合いではらちが明かないと判断しているのか、独自に動くことを余儀なくされていた。
そのうちの一つが結果的に首都を落されることになってしまった代表国の一つだったのは、当然の結果だろう。
その国は伸広が言ったとおりに首都やそこまで通り道になりそうな村や町から人々を避難させて、建物を壊されるところを黙って見送ることを選択した。
結果的に伸広が言ったことは正しく、いわゆる箱物関係は全滅に近くなったが直接的な人的被害はこれまでに無いくらいに、最小限に抑えられることとなる。
代表国に選ばれるような国の首都が簡単に落とされるのを見て、その他の代表国も呑気に無駄な議論だけを繰り返すことの愚を認識し始めていた。
曲がりなりにもその国は、上から数えたほうが早いくらいの軍備を有していた。
それを全く意に介さず、ただただ淡々と首都を潰していくという結果に、ようやく次は自分の国かもという疑念がわいてきたのだ。
これまでの結果で伸広が言っていたことが正しいということが理解できたこともまた、その疑念がわく要因の一つとなったともいえる。
代表国の一つを落とすという結果を残した大亀は、そのまま東の方向へと移動を続けている。
その悠然とした姿は、来るならかかってこいと言っているようにも見える。
国から国へ移動する際はもう少し早く移動する姿も確認されているので、もしかすると本当にそんなことを考えているかもしれない。
大亀の進行は人々の力で止める術がない――そう思わせるほどに大亀は自分の目的を達するべく次の目的地へと向かっているように見えた。
そしてその大亀の次の目的地――代表国の一つの首都を潰した後に目指している東側にある国というのは、まさしく伸広が宣言したとおりに帝国のことであった。
大亀の行動は気まぐれで行き先を知るすべなどないと公言していた帝国も、事ここに至ってはさすがに伸広の言葉を無視するというわけにはいかなくなった。
改めて代表者たちを集めて対応を協議し始めたのだが、他の国々から失笑を買ったのは言うまでもない。
とはいえその代表者たちも帝国の次は自分の国という可能性があることも分かっているので、これまで以上に真面目に議論がされることになる。
人々から見ればいまさらと思われるかもしれないが、そこからの話し合いで大きく変わったことが一つある。
それが何かといえば、議論に参加しているのが代表ではなく、それぞれの国の王や宰相クラスの人材が参加することになったことだ。
伸広がその場にいればもっと早くからそうすればいいのにと言ったかもしれないが、当人たちは様々な事情を抱えて(いるつもりになって)、このタイミングでの参加になったと考えている。
いい意味でも悪い意味でも魔物の襲撃とそれに伴う被害というものに慣れているこの世界の政治家からすれば、こうしたやり取りも今後の国の運営のためにも必要だと思いこむようになってしまっているのかもしれない。
とはいえ今更王クラスが集まったところで何かができるわけではない。
そもそも実務レベルで散々話し合った結果が今になっているのだから、トップが出てきたところで何かが変わるわけがない。
そう思われつつも話し合いが始まったわけだが、かつてなかったレベルでトップ会談が行われた結果、とある結論が出されて閉幕することとなった。
ただ閉幕とはいっても例のカメをどうするかまで決まったわけではなく、その対処をするための前段階の取り決めをまとめたと言ったところだ。
その結果を持ってリンドワーグ王国の人間がアリシアに接触を持ったのは、ある意味で当然のことだったのかも知れない。
ここに来てようやく、国のトップにいる者たちも誰にすがるべきなのか、すがるためにはどうするべきなのか、そのための行動をし始めたということであった。
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「――お断りします」
開口一番そう言い放った伸広に、会場に集まった者たちの空気がピンと張りつめた。
「我々が揃って頭を下げているのに、断るというのか」
帝国宰相の言葉に、伸広は小さく笑い返した。
「頭を下げる? 私には国という力を背景に実力で言うことを聞かそうとしているようにしか感じませんが?」
「……では、どうすればいいというのか?」
「どう……? それを考えて決めるのが国を預かっている者の役目ではありませんか?」
「何を言いたいのか…………」
「止めましょう。これ以上政治的駆け引きを続けるつもりなら、今後一切この場には来ませんよ? たとえアリシア姫の伝手を使ったとしても、です」
伸広からの最後通告に、帝国宰相は口を閉ざした。
表情はほとんど変わっていないように見えるが、その頭の中はフル回転しているはずだ。
彼の考えはシンプルで、いかにしてこの危機的状況を最小限の被害に抑えて帝国にいくばくかの利益をもたらすことが出来るか、だ。
もっともその考えが伸広の拒絶に繋がっているわけだが、周りにいる他の王や宰相も似たり寄ったりのことを考えているのでそのことに気付いているかは微妙なところだ。
「――では、そなたな何を望む? わざわざこの席に来ていただけたと言うのであれば、何か希望があるのであろう?」
そう聞いてきたのはどの国の者であったか。
伸広にとってはどうでもいいことなので、わざわざ確認することもしなかった。
「そうですね。まずは、ここまで対応が遅れたことを国として公的に謝罪してもらいましょうか。ちゃんと王とその他の重鎮たちの責任だと明記した上で」
「「「なっ…………!?」」」
「言っておきますが、今この場で適当に口約束して誤魔化そうとしても意味がありませんよ? 国の内外にきちんと署名を明記したものを示さない限りは絶対に動きません」
幾人かはそんなことを考えていたのか、渋い顔をする者が出ていた。
他の者も顔には出していないが、気持ちとしては似たり寄ったりだろう。
そもそも貴族や王というのは、平民が考えている以上に面子というのを重んじている。
面子の基準が平民からずれているだけで、彼らの中でその面子から外れた行動をすればその後の人生が明るくはないと思えるほどには。
だからこそ妙な手段を使ってでも誤魔化したりもみ消したりを平気でしたりするのだが、伸広はその道を経ったうえで敢えてお前たちの政治生命を断てと言っていた。
さらに言うならば、王や重鎮が総入れ替えになるくらいならまだましで、場合によっては国として安定できないくらいの内乱などが発生することもありえる。
そうした事情が分かっているからこそ、集まった者たちは一様に驚いたのだ。
ただそんなことは伸広にとってはどうでもいいことで、まずはこんな事態になるまで政治ゲームをやっていた責任を取らせることがなによりも重要だと考えていた。
そうでもしない限り、国家という枠組みで動いている者たちは平気で同じことを繰り返す。
今後も同じようなことで呼び出されて利用されないようにするためには、これくらいの『保険』をかけておくのは当然だという考えだった。
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