第13章

(1)Sランクの連携

 いつの世、どこの国、どこの世界であったとしてもその時々で周囲に理解されることのない人間というのは存在している。

 そんな存在もやがては周囲に馴染んでいくか、理解されていないことすら気付かずに日常を過ごしていくか、あるいは「普通」で考えれば信じられないような行動を起こす者もいる。

 そうした者のほとんどは世の常識に従って「処分」されることになるわけだが、時には天才的な才能を持ってその網を潜り抜ける者もいる。

 そんな存在が、時に大きな事件を起こしすようなこともあるだろう。

 そして今、とある場所で他の人が存在しない場所で、何やら行動を起こしているその男もまたそうした存在であった。

 そもそもその男が今いる場所は、「普通」の人にとっては禁忌とされている場所で立ち入ったりするようなことはしない。

 だが「普通」ではないその男は、とある目的のために禁忌の地に立ち入り自らの正しさを証明するための行動に出ていた。

 男にとっては幸運なことに、そしてその他大勢にとっては不幸なことに、その行動はしっかりと身を結ぶことになる。

 

 男にとっての不幸だったのは、すべての作業を終えてすぐに禁忌とされる地に「常識」を持った人々が突入してきたことだ。

 その常識を持った人々とは、禁忌の地がある場所を支配している国の騎士たちだ。

 とある事件を起こして追っていた男のいる場所をようやく突き止めて突入してきたのだ。

 ただしその結果は、一歩及ばずということになってしまった。

 

 男が行った実験は既に発動済みで、誰であっても止めることはできない。

 突入が上手く行って男の身柄も抑えることができてこれ以上の最悪にはならないことは幸いだったが、問題は男が起こした行動に対する結果が世界にとって最悪だったことだ。

 身柄を拘束して意気揚々と引き上げた騎士たちも、あの場で何をしていたのか男から話を聞いて顔を青ざめさせることになる。

 その内容はとても現場の部隊だけで判断できる内容ではなく、緊急連絡を使って「上」に届けられることになるのであった。

 

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『豊穣の縁』とダンジョンに潜ることになった『隠者の弟子』だが、毎回のように組んでいるというわけではない。

 学院が長期休暇中で詩織は比較的時間が取れるようになっているとはいえ、論文を仕上げている灯にとっては学生の休みは関係ない。

 というわけで灯の都合のつく時間だけでダンジョンに潜るとなると、『豊穣の縁』と時間が合うわないことの方が多い。

 

 ……のだが、初回の共同攻略が相性の良さを感じたのか、時間が合えば攻略に誘って来て一緒に潜るということを繰り返していた。

『豊穣の縁』もそこまでの長期遠征は計画していないのか、何だかんだで週に一回程度は浅い階層で共同での戦闘を繰り返していた。

 正直にいえば、『豊穣の縁』にとっても『隠者の弟子』にとっても、その程度の階層ではいつもと比べて稼げないのだが、それとは別の収穫があるので共同で潜っているのだ。

 

 その収穫が何かといえば――、

「やはり『隠者の弟子』とは相性がいいな。……いや違うか。俺たちと合わせられる『隠者の弟子』が凄いというべきか」

 探索の途中休憩で、ヘルギがいきなりそんなことを言いだした。

 Sランクパーティのリーダーにそう言われて嬉しくないわけではないのだが、さすがに言い過ぎだろうと忍が首を傾げつつ問いかけた。

「そんなことはないだろう?」

「いや。それがあるんだな。そもそもSランクの俺たちに、実力的についてこれるパーティが少ないというのは分かるだろう?」

「それは……さすがに理解できるが」

「だよな。んで、実力的なもんだいだが、確かにSランクが俺たちだけではないことから他にも実力だけで見ればついてこれるパーティはある。あるんだが……」

「はっきり言ってしまえば、Sランクになれるかなっている実力があるパーティは、それぞれ独自の『癖』みたいなものを持っていて、中々他との連携が難しかったりするのよ、これが」

 ヘルギの言葉を引き継いで、ミサがため息交じりに続けた。

 

 冒険者ランクがSランクになれるだけの実力があるパーティというのは、当然のように他にはない特徴を持っていたりする。

 そうした特徴が他のパーティと組んだ時に上手く行かなかったりする要因になったりするのだ。

 基本的にSランクに上がるというのは、一癖も二癖もあるからこそできること――だとされていて、実際に現在いるSランクパーティはそれぞれが癖の強いパーティとなっている。

 勿論癖が強いからといって、すべてのパーティが他と連携ができないというわけではなく、の実力を持ったパーティと組むとそこまでいい結果を生まないというだけだ。

 実際に、Sランクパーティはそれ以下のパーティと組んで大物を倒しに行ったりすることも多く、結果を残しているからこそそこまでのランクにのし上がっている。

 ただSランクに上がるということは、実力が拮抗した相手と組む機会が少ない中で成長していくので、ヘルギやミサが懸念するような事態を生むのである。

 

 二人からそうした事情を聴いて納得しつつも、それでも納得のできないことがあって詩織が話に混ざってきた。

「言いたいことはわかりますが、それでも連携ができないというのは言い過ぎでは?」

「ああ~。確かに連携ができないというのはちょっと言い過ぎ――というか、誤解を生む言い方だったな。より正確にいえば、相乗効果を生むことなくあくまでもそれぞれの『個』の力しか発揮しないんだよ」

「例えば二つのSランクが組んでも『二』の力しか発揮ができなかったとするわ。けれどそれ以外の例えばAランクを複数連れて行った方がより上の……『三』以上の結果を生み出したりするのよ」

「ギルドもそれが分かっているから、Sランク同士で仕事を組ませるなんてことは中々ないわけだ」

 ベテラン二人の説明に、『隠者の弟子』の面々はなるほどと納得した。

 

 ちなみに納得している中には護衛よろしく着いてきている伸広もいたが、これはそもそも伸広があまりパーティでの戦闘をこなしてこなかった結果によるものだ。

 一つのパーティに長い間在籍して結果を残すということをしてこなかった伸広なので、こうした事情には以外には疎かったりする。

 そもそも伸広の実力になるまでソロを続けていること自体が異常と言えるのだが、そこは今更言っても仕方ない。

 それが分かっている灯たちも、今更こんな場所で突っ込むようなことはしなかった。

 

「話は理解できましたが、だからといって私たちが凄いというのは……」

「何を言っているんだ。いくら低ランクそうだからといっても……いや、違うか。低ランク層だからこそ、俺たちの邪魔をせずむしろ普段の効果以上の結果を出しているんだ。これが出来るパーティがどれほどいると思う?」

「よほど私たちの『癖』を知っている人たちじゃないと無理よねー。それをたった数回でこなしているのよ? いくら凄いといっても誰も否定しないわよ」

 ヘルギの言葉に付け加えるように言ってきたのはミサだったが、『豊穣の縁』の面々も同意するようにそれぞれの表情で頷いていた。

 それを見る限りでは、ヘルギとミサが言っていることは紛れもない事実なんだと灯たちは理解した。

 それだけ現在いるSランクパーティが、それぞれに『癖』が強いということの裏返しでもあるのだが、他のSランクパーティなど見たことがない灯たちには否定すること肯定するもできずに、何となく納得した表情になるのであった。

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