(15)怒涛のラッシュ
団体戦は『ジョウセイ組』のメンバーが複数入っているパーティもあることから、個人戦に比べて必然的に参加回数が多くなる。
灯たちのようにパーティメンバーとして二人、三人がまとまっているのが普通なので、そうなるのも当然だ。
結果としてほとんどのパーティが平日に二、三回、週末の二日のどちらかかもしくは連続して出場ということになっていた。
灯たちは、平日二回、週末二回の計四回の参加となっている。
ちなみに回数が多いパーティは五回出場しているパーティもあるので、灯たちが特に多いということではない。
むしろ最初に参加回数を多めに申告しているパーティは、最初に『隠者の弟子』が戦ったパーティがそうであるように、灯たちから見てそこまで強くはないパーティーの方が多かったりする。
それが意図的なのかはわからないが、どちらであっても構わないと灯たちは考えている。
そもそも灯たちの参加目的は『隠者の弟子』の名前を高めるためなので、運営側の意図はどうであっても構わないのだ。
というわけで『隠者の弟子』の二戦目は、初戦で戦った冒険者パーティではなく国家に所属している者たちの混成チームとなった。
ただし混成といっても全員が『ジョウセイ組』というわけではなく、比較的仲のいい国同士が組んで『ジョウセイ組』を二名出して残りを騎士や魔法使いで穴埋めするという構成になっている。
国同士で仲が良いというのは少し疑問が残るが、少なくとも軍同士が協定を結んで一緒に他勢力と戦ったりすることがあるくらいには連携が取れているようだ。
普段から騎士団同士で訓練を行ったりすることもあるようで、混成チームだからといってチーム内で不仲になったりすることはなさそうだ。
そんなことを考えながら相手チームを見ていた忍だったが、自分たちを見る視線を感じた。
誰からだろうとそちらに視線を向けると、対戦相手の魔法使いの一人が何やらニヤニヤした表情でこちらを見ている。
特に自分ではなく灯を見ているように感じた忍は、ふと嫌な予感を覚えた。
それと同時に、そのにやけ顔の魔法使い――とある国家所属――が対戦前だというのにわざとらしく自分たちに聞こえるような声でこう言ってきた。
「あいつらが魔力操作とかいう古びた手法を大事にしているとかいう奴らか?」
「ちょっと……!」
唐突過ぎる煽りの言葉に、仲間にいる『ジョウセイ組』のメンバーが止めたが既に出てしまった言葉は止められない。
慌てて忍たちを見てきたが、既にその言葉は届いてしまっていた。
あからさまな煽りだと分かるその言葉に、灯や詩織は大きな反応は見せなかった。
ただいつも彼女たちと一緒に行動してきた忍には、それが嵐の前に静けさだということが分かった。
それと同時にまずいという感情も沸いてきて、忍だけは怒りという感情を抱く前に「止めなければ」という思いのほうが強くなる。
そして少し慌てて灯を見て言葉を出――そうとしたところで、別の人物の言葉で止められた。
「――灯、本気で行っていい?」
その言葉の意味を瞬時に理解した灯は、先ほどまでの怒りを忘れて驚いた表情になっていた。
「それはいいけれど……いいの?」
「構わない。怒っているのは私も一緒だから」
「そう。それじゃあ任せるわ。忍もそれでいい?」
「あ、ああ。勿論構わないぞ」
忍としてもその程度で済むのであれば特に問題ない。
多少予定とは違ってくるのだが、灯に爆発されるよりははるかにましだと思える。
何しろ灯が暴走してしまうと、この場にいる誰にも止めることなどできなくなってしまう可能性が高くなる。
その灯たちの会話が聞こえていたのかいないのか、終わるタイミングを見計らったかのように審判から開始がかかった。
それからわずかに遅れて、詩織が短く言葉を発する。
「リク、後ろの二人をお願い」
< 承知 >
今の『隠者の弟子』の陣形は詩織を前にして、灯と忍が後方に控えている。
いつもであれば忍が前で残りの二人が後方になるのだが、今回は先ほどの話し合いの通り詩織がメインになっている。
詩織の呼びかけに応えるように、了承の返事と同時に人の頭くらいの大きさのカメが一体、灯と忍を守るように突然現れた。
空を浮いていることから、そのカメが普通の存在でないことは一目でわかる。
そのカメに一瞬意表を突かれた相手チームだったが、すぐに立て直そう――としたところで、新たな攻撃にさらされることになる。
『ググッ!!』
そのうめき声は、一か所からではなく複数から聞こえてきた。
例の余計な言葉を発した男が慌てて周囲を確認してみれば、自分を除いたすべてのメンバーが弓による攻撃にさらされていたのだ。
弓の攻撃など特に全身鎧を身にまとっている仲間の一人であれば簡単に防げると思いきや、そうはいかなかったらしい。
どういうことだと混乱する頭の中で例の男が、思わず怒鳴り散らすように前にいる前進鎧に声をかけた。
「何をやっている! たかが弓の攻撃だろう!!」
「馬鹿野郎! 何を見てやがる! 普通の弓じゃねえんだよ!」
仲間からの罵倒に思わず答えてしまった前進鎧だったが、その間にも
仲間二人の間で不毛なやり取りをしている間に、既に三人が詩織からの矢によって沈められていた。
最初の一人は二回目の追撃で、他の二人は三回目の攻撃であっという間に倒されてしまっていた。
残った三人のうちの二人が防御が硬い前衛だったのは、相手の使っている攻撃手段が弓ということによる結果だろう。
とはいえ、これだけ短時間の間に三人が沈められたという事実は残っている。
詩織が放っている弓による攻撃は、当然ながらごく普通の弓で放たれるようなものではない。
先ほど全身鎧が答えたように、一撃一撃が異なる性質を持った矢による攻撃になっている。
例えば全身鎧に放っている矢がその大剣ではじくのがやっとという重さがあったり、別の前衛に放っている矢は素早く何かの属性が乗っていたりなどだ。
すべての矢がそれぞれ違った性質を持っているために、飛んできた矢を捌くだけでも一苦労なのだ。
そんなことともつゆ知らず例の男が何やら喚いているが、先ほど対応した全身鎧はそれどころではなくなっていた。
一体どうやってこれほどの数の弓を一度に、しかも性質を変えて放っているのだと思えるほどに、向かってくる弓の数が多くなっている。
今となっては余計な一言を放った男に、既にいなくなっている『ジョウセイ組』の仲間と同じように文句の一つでも言ってやりたいが、そこまでの余裕はない。
それは隣にいる剣士も同じようで、向かってくる弓を躱したりはじいたりすることで精一杯になっているようだった。
このままだとジリ貧だということはわかっているが、あまりに相手の手数が多すぎてどうすることもできない。
どうにか活路の一歩をと思いつつも行動に移すことができずにいると、相手の方からの新たな仕掛けがやってきた。
といっても弓による攻撃が変わったというわけではなく、その質が大きく変わったのだ。
全身鎧に対する攻撃はより早くより重く、剣士にはより重さを増してという感じに。
これまででも手一杯だったのに、その質が変わっただけで捌くことが難しくなった。
そのことを肌で感じた次の瞬間には、防御の隙間を狙って弓が鎧と兜の間にささった。
その弓が自信の喉に刺さるまさにその時、全身鎧は『これがAランクの実力か』なんてことを考えていた。
そしてもう駄目だと分かって横を見ると、自分と同じように倒れ込む剣士の姿を確認することが出来るのであった。
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