第9章
(1)今後の予定
ミヤコからフカミへと戻った『隠者の弟子』の一行は、宿の中で話し合いを行っていた。
その議題は、帰り道の途中でアリシアが行った提案についてだ。
「――というわけで、先ほどの話の続きよ。といっても、大した内容があるわけじゃないのだけれど」
「今後しばらくは個別に技術を高める……でしたか」
灯の確認に、アリシアは頷き返した。
「そうそう。まあ、別に無理に別れる必要もないのだけれど」
「どういうことだ?」
「パーティ単位で行動するのじゃなくて、二人で組んだりしてもいいんじゃないかってこと」
「……なるほど。そういうことか」
これまで三人で行動することが基本だったのでそのことが思いつかなかった忍は、なるほどという表情になって頷いた。
考えてみればアリシアはともかくとして、灯、詩織、忍の三人はこちらの世界に来てから離れて行動するということがほとんどなかった。
勿論、休みの日などは個人で行動することはあったが、ダンジョン攻略を始めてからはほぼ一緒に行動している。
アリシアの提案は、それらも含めて一度見直してみてはどうかというものだった。
問題は、そんなことをして意味があるのかどうか、ということなのだが。
女性陣が同じことを考えたのか、揃って視線を伸広へと向けた。
誰がどう見ても女性陣四人の師匠は伸広であるため、個別行動についてどう考えているのかを確認したいとその視線は言っていた。
「――まあ、良いんじゃないかな? 変なパーティとかじゃなければ、一度違うパーティに入ってみるのとかね。最初から臨時だと割り切って貰えるのであれば、だけれどね」
特にダンジョン攻略を主にしている冒険者は、パーティを組んで行動することが基本となっている。
これは一人でも多くの仲間がいれば、いざという時に切り抜けられる選択肢が多くなるからである。
そんな事情があるため、例えば普段組んでいるパーティの誰かが急遽予定が入ってしまった場合など、臨時でパーティメンバーを募集していることがある。
流石に臨時パーティで深い階層を目指すようなことはしないが、体を鈍らせないために長期の休みになったりしないようにするなどの理由で浅い階層で魔物と戦ったりするのだ。
それ以外にも元居たメンバーが引退をして次のメンバーを探す目的で臨時メンバーを募集することもある。
数回臨時でダンジョンに潜って、相性などがよければそのまま正規メンバーになるといった流れだ。
いずれにしても、冒険者ギルドではそうした臨時パーティの募集も受け付けているのである。
「そこはギルドが仲介しているところ限定にするとかでいいんじゃない?」
「そうだな。というよりも、野良の募集は危なすぎてそれ以外にないと思うんだが、他にあるのか?」
「あー、いや。そっちじゃなくて、冒険者ギルドの募集もろくでもないのがないわけじゃないからね」
「それを言ってしまったら、そもそも募集パーティを見つけること自体出来なくなってしまうわね」
微妙に過保護なことを言ってきた伸広に、アリシアが苦笑しながら返してきた。
伸広が心配しているのは、女性陣はそれぞれが美人といって間違いない顔立ちをしているために、余計なトラブルに巻き込まれないかといったことだ。
ただそんなことを言ってしまえば、そもそもソロで活動している女性冒険者は全員がその危険を背負っているともいえる。
今後一人で行動しないのであれば今のままでもいいのだが、将来的にどうなるか分からない今のうちに一人の行動を経験しておいてもいいともいえる。
「それもそうなんだけれどね。あと、灯たちはともかくとしてアリシアはさすがに一人での行動はできないよ?」
「流石にそれは考えていないわ。そもそも私が一人になるなんてことはあり得ないしね」
アリシアが伸広の『お嫁さん』的な立場としていられるのは、あくまでも女神の転生体であるという特殊な事情があるためだ。
万が一その立場にいられなくなったとしても、その先の将来が自由になるわけではない。
そういった王族的な立場は脇に追いやったとしても、基本的に純
それこそ臨時パーティ募集でヒーラー役は人気がある過ぎるほどに募集がされているだろうが、逆にだからこそ選ぶのが難しいという問題もある。
もっともアリシアほどの腕があれば、ギルドがここぞとばかりに有望なパーティを見つけてくるだろう。
ただそのパーティがアリシアの特殊過ぎる立場を受け入れるかどうかは未知数なところだ。
そうした諸々を考えた結果が今のアリシアの発言ということになる。
灯たちも勿論そのことはよくわかっているので、それぞれが何とも微妙な顔になっていた。
「――なんていう顔をしているのよ。そもそも私の望みは伸広と一緒にいることなんだから、別に不自由なんかは感じていないわよ? そこは勘違いしないでね」
「それは十分に分かっているが、やはり自由がないというのは……な」
「一応言っておくと、私の場合はあなたたちの認識が違っているというのはわかるからいいけれど、変に他でそういうことを言わないようにね」
この世界は、どうあがいても王政や貴族政治が中心になっている。
そうした世界での価値観というのがあるので、むやみやたらに地球での感覚を持ち込むと変な顔で見られることもある。
三人はアリシアの忠告は身に染みてわかっているので、ただ無言のまま頷いていた。
「まあ私のことは良いのよ。それよりも三人はどうするのかしら?」
「その前に、師匠はどう思われているのでしょう?」
「え? 自分は特に何も? 好きにすればいいと思うよ。今はもうそれぞれ自分で考えて動いてもいいと思うからね。ただ教えてほしいことがあるならいくらでも教えるけれどね。勿論、自分が分かる範囲内でのことだけれど」
灯から問われた伸広はそう答えた。
伸広としては、既に灯たちは自由に動いてもいいと考えているのだが、今もなおついて離れないのはアリシアの護衛の依頼があることと彼女たちが自分の教えを望んでいるからだ。
本人たちが自分で望んで個別に行動するというのであれば、それを止めるつもりはない。
灯たちも伸広のその答えを予想していたのか、なるほどという雰囲気になっている。
そんな中で、忍が右手を軽く上げながら全員の注目を集めた。
「ちょっといいか? 少し考えていることがあるんだが?」
「どうしたの?」
「前に先生が少し触れていたんだが、ホウライには道場があると言っていたよな?」
「確かに言っていたわね。……ってそういうこと」
忍が言いたいことを理解した灯は、すぐにそう返しながら頷いた。
「うん。折角だったら入門……は無理にしても見学くらいはできないかなと思ってな」
「確かにそれはありね。……弓道場なんかもあるかな?」
「流石にそれは聞いてみないと分からないんじゃないか? それは私も同じだが」
道場があるという話は聞いていても、どんな形態で行われているかは全く分かっていない。
情報を集めなければならないのは、忍も詩織も全く条件が同じだ。
「そう。忍と詩織が道場通いになるんだったら、私はやっぱり師匠に色々教わった方がいいかな?」
「灯の場合はそうだろうな。――それじゃあ、とりあえずそういう方針でいいか?」
最後に忍がそう確認をとると、皆が納得した表情で頷くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます