(9)パーティ試験開始?
「それは認められない!」
灯たちの昇級試験、パーティ試験当日の朝。
朝の忙しい時間を避けて集められた灯たちは、ちょっとした問答をした後に一人の職員にいきなりそんなことを言われた。
よく見ればその職員は個別試験で審判をやっていた者だとわかったが、灯たちにとってはそんなことはどうでもいいことだった。
それよりも灯は、不思議そうにその職員を見ながらこう言い返した。
「何故でしょう?」
「何故、だと!? これは昇級試験なのだぞ! その試験にあからさまに不正を持ち込むことなど認められるわけがないだろう!」
職員が不正と言いながら伸広を見ているので、灯たちとしても彼が何を言いたいのかは理解できた。
ただし灯たちとしても言いたいことはある。
「それはおかしいですね。規則では、パーティ試験の際に試験を受けない仲間を一緒に連れて行ってもいいというものがあるはずです。師匠は紛れもなくパーティメンバーですよ?」
「そういう問題ではない! これは筆記試験を受けるのに自分自身の教師を持ち込むのと同じことだ。そんなものは認められるはずがないだろう!」
そう返してきた職員の言葉は、紛れもなく正論だ。
『隠者の弟子』のメンバーである伸広が、ギルド総長と互角どころか圧倒したという話は、既に当たり前のようにギルド内で認識されている。
ギルドカードの確認を行ったわけではないので目の前にいる伸広が本物であるかは職員には判別できないが、職員にとってはそんなことは別に重要事項ではない。
この試験に、確実にオーバースペックとなると分かっている伸広を連れ込ませるわけにはいかないのだ。
それに、職員が主張していることはごく当たり前のことであり、普通に考えればその主張が認められる――はずだった。
だがそんな職員の考えなどあっさりと吹き飛ばされることが起こった。
それまで黙って成り行きを見守っていた伸広が、両者の間に割って入るようにこう言ってきたのだ。
「あのー。私は現在別任務で行動中なので、少なくとも彼女たちの試験に手を出すようなことはしませんが?」
「そういうことではない! 一緒に行くこと自体が問題なのだ」
「それは変ですね。試験中にパーティが一緒に行動すること自体は認められているはずです。ただ私がいると試験にならないという意見も分かります。ですので、試験中は手を出さないということでいいのではありませんか?」
「そんなわけがあるか! 依頼を盾にしたいことはわかるが、そんな都合のいい依頼などあるはずもない!」
職員の言い分に、それがあるんだよなあと思いつつ伸広はゴソゴソと懐を探り始めた。
そして胸元から一枚の書面を出した伸広は、それをそのまま職員へと差し出した。
「――あなたもギルド職員であるならば、この書面がどういったものかは理解できると思います」
「……なんだと? ――こ、これは……!?」
灯たちに激高していたギルド職員は、その書面を見てあからさまに驚きを示した。
確かにその書面はギルドが発行したもので、伸広が依頼遂行中であることが書かれていた。
さらにいえば、その依頼がどういった内容のものであるか、その職員の権限では見ることができないことまで記されている。
逆にいえば、伸広が現在どういった依頼を受けているのか確認するためには、書面に書かれている権限を持つ者に頼むことしかできない。
その権限も書面にはしっかりと書かれていて、少なくとも今現在その権限を持っている者は支部長であるコジロウしかいないことも分かったのだ。
その職員の心情を理解してか、伸広が少しばかり申し訳なさそうな顔になって言った。
「私の言っていることが信用できないのであれば、その書面の通りに確認してもらったほうが良いかと思いますが……?」
「グッ……。わ、わかった! しばし待っていろ!」
職員はそう吐き捨てるように言うと、伸広が差し出した書面を持ったまま建物の中へと入っていった。
書面の内容がどんなものなのか支部長に確認してもらうためだということは、灯たちにもすぐにわかった。
灯たちにやましいところは何一つないのだが、しばらくそのままの状態で待つことになった。
そして残された灯たちはと言うと……、
「はあ。余計なことをしてしまったかな?」
「師匠。どちらにしても難癖付けられていたでしょうからむしろ良かったと思います」
「だな。あのまま押し問答を続けていても仕方なかっただろうし」
「それにしても、なんか妙にこだわっているようだったけれど?」
あの職員が言っていることは確かに正しいのだが、灯たちに対して執着を持っているように見える。
初対面である伸広がそう感じているのだから灯たちが気付いていないはずもない。
「そうですね……。ただやり方が妙にちぐはぐというか、単にギルドの規則から外れないようにしているからなのか、妙にちぐはぐなんですよ」
「今のところ私たちを落としたいだけなのか、いちゃもんをつけたいだけなのか、それすらも分からないからなあ……」
灯と忍もそう言いながら首をひねっている。
あの職員の執着(?)は灯から始まっているのだが、何かの目的を持っているのかどうかもいまいちはっきりしない。
そもそも灯が個人試験で攻撃魔法を選ばなかったことは、あくまでもその場での気まぐれだった。
攻撃魔法を使っていたとしても何らかのいちゃもんを付けた可能性はあるのだが、それにしても灯たちから見れば偶然の要素が強すぎる気がする。
今回も前回もこちらが反論すれば自分の意見に固執するだけではなく、それなりに認めるような言動もしている。
端から見れば子供が駄々をこねているように見えても、だ。
あまりにも幼稚に見えることから伸広はこっそりと魔法を使ってみたが、洗脳されていたり何かに操られていたりするような気配はなかった。
また、だからこそ灯たちと一緒に首をひねっているのだが。
どちらにしても職員に渡したあの書面が本物であることには違いない。
灯たちとしては、冒険者ギルドがどんな結論を出すのか待つことしかできないのであった。
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灯たちが職員について首をひねっているその頃、当の本人は支部長の前で返答を待っていた。
何の返答かといえば、もちろん伸広が渡した書類の正当性である。
慌てた様子で部屋に駆け込んできた職員を見ていぶかし気な様子だった支部長も、書面を渡されてからは真剣な表情になっていた。
ギルドが発行している正式な書面は、偽造が発覚すればかなりの重たい罪になる。
確認することをあっさり認めたことから偽造である可能性は低いだろうが、それでも確認しないわけにはいかないのだ。
そんなわけで支部長だけだ使える魔法の
その結果
とはいえ支部長としても職員が言っていた懸念は、よく理解できる。
それ故に少し考える様子を見せた支部長は、しばらく経ってからあることを職員に告げるのであった。
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