(3)『碧天の雷』

 ミヤコへの道中は特に大きな事件が起きるわけでもなく、無事に移動することができた。

 正確にいえば魔物はそれなりに出てきてはいたのだが、その都度『隠者の弟子』ともう一つのパーティでしっかりと対処していた。

 そのもう一つのパーティが今回東堂が別口で護衛を頼んだ冒険者たちで、元はミーゼが所属していたところでもある。

 ミーゼは現在、ほとんど東堂につきっきりになっているため、チームに迷惑はかけられないとパーティを向けている状態なのだ。

 その代わりにというべきか、こうして東堂が別の場所に用があって彼らに空きがあるときには指名依頼として護衛を頼んでいる。

 そんな彼らのパーティ名は『碧天の雷』で、冒険者ランク(パーティ)はBランクである。

 通常Bランクパーティを雇うとなればそれなりの金額を取られるのだが、そこはお友達価格として雇っているらしい。

 東堂もそれなりの収入があるので通常価格でいいと言っているらしいが、頑なに拒まれているようである。

 もっとも彼らも護衛名目でミヤコに足を伸ばせるのはメリットがあるらしく、完全におんぶにだっこというわけではない。

 何だかんだで持ちつ持たれつの関係を続けているので、今まで大きく揉めることもなくいい関係を続けているとのことだ。

 

 そんな話を旅の途中で仕入れたのは、意外というべきか当然というべきか、忍だった。

 忍はざっくばらんな口調と物怖じしない性格のお陰か、冒険者を相手にするときには他の面々よりもより早く仲良くなれたりするのだ。

 今回も短い旅の期間で『碧天の雷』のリーダーとよく話し込む姿が見られた。

 ただしそのリーダーであるラングも十分にイケメンの部類に入るので、見ようによっては美男美女のカップルのように見えたかもしれない。

 もっともラングにはしっかりと同じパーティ内にお相手――ミイナがいるので、実情はまったくの別物だったりするのだが。

 

「――あれがミヤコか。今回はとても助かったよ、ラング」

「何を言っているんだ。少なくとも戦闘に関しては、助けられたのは俺たちの方だろう。お前たちがいなかったらと思う場面も何度かあったぞ?」

「そうか? それこそあなたたちだと切り抜けられた場面ばかりだったと思うが」

「確かにな。ただし損害のことを気にしなければ、という注釈はつくが」

「そうかな? まあ、それはいいか。戦闘はともかくとして、私たちにとっては護衛の経験を積む方が大切だったからな。そういう意味では、本当に助かった」

「そっちは確かにそうかもな。といっても、後何回か経験すれば単独でも行けるようになると思うぞ。流石Aランク間近なだけはある」

「できることならそういう面倒な依頼は避けたいところなんだが」

「確かに、な」


 Aランク間近、あるいはAランクパーティ単独で頼む護衛依頼というのは、できるだけ少数でかつ腕が必要だということになる。

 大抵そういう護衛依頼というのは、どこかの貴族や豪商関係者を秘密裏に移動させるというものになる。

 基本的にそういう依頼は厄介ごとでしかないと忍とラングは話している。

 とはいえ冒険者が護衛で上位ランクを目指す場合は、そういう依頼をこなせるからこそ信用を得ていける。

『隠者の弟子』と『碧天の雷』は、どちらもダンジョン攻略がメインなので半ば他人事のように会話ができているのだ。


 そんな裏話はともかくとして、今回は『隠者の弟子』が『碧天の雷』から護衛について教えてもらうという方針で旅をしてきた。

 結果としてラングが言ったとおりに、戦闘に関しては失点はなくほぼ満点。

 他のパーティとの連携についてはやはりまだまだなところはあるが『隠者の弟子』自体がそこまで自己主張を出してくるパーティではなく、他のパーティとの連携もきちんと聞く耳を持っているのでほぼ問題は起きていない。

 あったとすればどうしても他のパーティへの目配りがまだまだ足りていないといったところがあるが、ごく普通の護衛依頼でそこまでの技量を求められることはほとんどない。

 だからこその先ほどのラングの合格点だったというわけだ。

 あと問題があるとすれば、今回のミヤコ訪問で『隠者の弟子』はAランクパーティということになり、護衛依頼を受けるとすればほとんどがリーダーとして商隊などを率いて行くことになるということだろう。

 

「まあ話を聞いている限りは護衛専門になるというわけでもなさそうだからそこまで気にしなくてもいいと思うぞ」

「そうなのかな?」

「さて。そこから先は俺たちも未知の領域だからな。機会があれば、次はお前たちが俺たちに教えてくれ。そんなことよりも、そろそろ本格的にミヤコの町が見えてきたぞ」

「本当だな。聞いていたとおりに、フカミとは比べ物にならないくらいに大きな町のようだ」


 ちなみにこの二人、忍は馬車の御者席、ラングは馬に乗りながら会話をしていた。

 移動の最中にここまでのんびりと会話をできていたのは、首都のおひざ元ということで軍の目が光っているからだ。

 たまに軍の監視を潜り抜けた弱い魔物が出てきたりはするが、その程度の相手に負けるようなパーティではない。

 いずれにしても、今回の旅は無事に目的地までたどり着いたのである。

 

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 検問を抜けてミヤコへ入った灯たちは、『碧天の雷』の面々と共に冒険者ギルドへと向かった。

 商業ギルドに用がある東堂とミーゼは、別行動をしている。

 冒険者ギルドに入る際に、元居る冒険者たちから注目されるのはいつもと変わらない光景である。

 今回は灯たちだけではなく『碧天の雷』の面々も一緒に行動しているので、なおさら目立っていた。

 入口からカウンターに向かうまでに、何度もミヤコで活動したことがある『碧天の雷』の面々が数名から声を掛けられていたが、基本的には灯たちのことを尋ねるような内容だった。

 ただ『碧天の雷』の面々はそのやり取りを適当に受け流しつつ、灯たちの後ろをついてきていた。

 

 御多分に漏れずカウンターに座っている受付嬢は美人な狐人だったが、どこギルドとも変わらない対応をしてきた。

「いらっしゃいませ。素材の買取ですか、依頼の報告でしょうか?」

「依頼の報告を。そのあとで私たちは、ランク昇格の手続きをお願いします」

 灯が代表してそう報告をすると、受付嬢は一瞬驚いた表情をしてからすぐに頭を下げてきた。

「失礼いたしました。ではまずは依頼の報告からということでよろしいでしょうか?」

「お願いします」

「はい。では依頼票を確認いたします。――――はい。『隠者の弟子』および『碧天の雷』両パーティの依頼達成を確認いたしました」

 受付嬢はそう言うと、灯とラングのギルドカードを受け取ってから依頼達成を記録し始めた。

 基本的に依頼報告はパーティの代表一人だけでよく、残りのメンバーは自動的に紐づけされることになっている。

 その記録自体は一分もかからないので、受付嬢はすぐにギルドカードを返してきた。

 

 そして受付嬢は灯にカードを返す際にこう聞いてきた。

「記録は終わりました。それからランク昇格の件ですが、Aランクへの昇格ということで間違いありませんか?」

「はい。大丈夫です」

 その灯と受付嬢の会話が漏れ聞こえていたのか、室内にいた他の冒険者たちのざわめきが一瞬大きくなった。

 灯が受付を始めるまで彼らは、あくまでも彼女たちは『碧天の雷』のおまけで護衛の数合わせのパーティだと考えていた。

 それがAランク昇格の条件を満たしているとなると明らかにそれは誤解であり、むしろ能力的には灯たちのほうが上になると認識されたのであった。

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