(7)もう一つの提案
「さて。『伸広の名声を高めよう作戦』第二弾! ようやくお披露目です!」
拠点のリビングでアリシアが高らかにそう宣言すると、灯、詩織、忍の三人がノリに合わせてパチパチと拍手をした。
「賢者の石だけじゃなかったんですね」
「それはね。そもそも賢者の石だけだと、生産者――というか錬金師だと勘違いされそうじゃない?」
「リンドワーグ王国だとそう思わない者もいそうだが……確かにそうかもしれないな」
「というわけで、続けざまに第二弾を行いたいと思うわ! ……いいよね?」
突っ走っている自覚があるのか、最後にチラリと確認を取ってきたアリシアに、伸広は小さく笑いながら頷いた。
「まあね。ここまで来たらとことん任せるよ。好き勝手に動ける……とまでは行かなくても、ある程度自由に動けるようになるのは、こちらとしてもありがたいし」
これは紛れもなく、偽らざる伸広の本心だ。
伸広は、『魔法を覚える』という明確にやりたい目標があったからこそ半引きこもりのような生活を送っていたが、別に何が何でも外に出たくないというわけではない。
だからこそ『賢者の石』の件でもアリシアたちに任せて、伸広自身は言われるがままに動いていたのである。
伸広の同意が得られたことで、アリシアは再び同じノリに戻って話を続けた。
「伸広から許可も得られたので、話を続けるわ。――折角、賢者の石の作成者として名前が広がったのだけれど、それは伸広の実力の半分も示していないと思うの」
「師匠は生産者というよりも魔法の研究・開発者ですからね」
「灯の言うとおりね。でもそれ以外にもまだあるわよ? ……本人は不本意かもしれないけれど」
「あ~。もしかしなくても、魔法使いとしての実力かな?」
詩織がそう問いかけると、アリシアも「その通り」と頷いた。
伸広の一番の目的は「色々な魔法が使えるようになること」なので、戦闘職としての魔法使いになることもまた必要な過程の一つと言えるだろう。
ただ戦闘で一番強くなることが目的かと聞かれれば、首を傾げざるを得ない。
その意味ではアリシアの言った「不本意」という言葉は間違いではない……のだが、話を聞いていた伸広がここで割り込んだ。
「えっと。ちょっと勘違いされているかもしれないけれど、別に戦うこと自体が嫌いというわけではないよ?」
「あら。そうなの?」
自分の言葉に直接返したアリシアのみならず、残りの三人も意外そうな顔をしていることからこれまでの自分の言動が勘違いさせてしまったと伸広は内心で反省した。
「そうだよ。といっても、別に戦うのが好きってわけじゃないからね。一々なんでも戦闘で決着をつけるのが面倒なだけだから。こっちの世界ってどこかそんな空気があるし」
「……心当たりがあり過ぎるわね」
「確かにそんな空気があるからこそ、何かあるたびに戦いとか決闘を求められやすいということか」
「忍、正解。そんなことに一々付き合って、魔法の研究の時間が削られるのが一番いやなこと――なんだよね」
「そういうことね」
伸広のスタンスを改めて確認できたアリシアは、それならばということでいよいよ本題に入った。
「だったら話は簡単よ。折角の機会だからこの際に伸広の実力を示して、逆に有象無象が近づいてこないようにしてしまいましょう」
「いや、それができたら簡単だったんだけれど……ね」
「師匠の言う通り、そんなことができるのであればこれまで引きこもっていなかったんじゃありませんか?」
「まあね。それはその通り。だけれど、今はこれまでと状況がだいぶ変わっているからね」
自信たっぷりに言ったアリシアだったが、他の面々は意味が分からずに首を傾げる。
「今は違うというのは賢者の石の件だと思いますが、それを利用するということでしょうか?」
「そうよ。賢者の石を作れるという生産面だけじゃなくて、戦闘面でもきちんと実力を示すことができれば、かなり状況も変わると思うのよ。あとは伸広自身が強いと分かれば、変なことをしてくる所も減ることを期待しているわ」
「有象無象が暴力に訴えてきても無駄に終わるということを示すわけか。理由と理屈は理解したが、どうやってそれを示すつもりだ? それに、実力を示したところで今度はそっちの方で面倒が起きるのではないか?」
「忍の言うとおりね。だからこそ――でも、そういう状況を喜びそうな人に心当たりがあるのよね」
相変わらずアリシアは自信がありそうな表情だったが、他の面々も先ほどと同じような顔をしていた。
「……まだ分からない? 以前、蓬莱国に行く前に面倒なことを起こしそうなひとがいたじゃない?」
「あっ……! 冒険者のギルドマスター……じゃなくて、ギルド総長?」
「そうよ。その総長に交渉を持ちかけて、公開することを条件に戦ってもらうの。あとは、今後伸広と戦いたければまずは総長に勝ってからということも付け加えてね。この二つが今回の最低条件かしら?」
「それが認められなければ?」
「別にこっちはどうしてもというわけじゃないんだから、普通に断っていいんじゃないかしら?」
「それなら、あり……か? いや、そもそもそんな条件で受けてくれるのかな?」
「私は大丈夫だと思っているけれどね。あとは冒険者ギルド次第じゃないかしらね」
伸広の疑問に、アリシアはそう答えた。
伸広は、『賢者の石』の作成者としていい意味でも悪い意味でも注目を集めることになった。
今のところ出ているのは名前だけで顔まで多くの人には知られていないが、教会だけではなく帝国や王国などこれまでの関係で推測できる材料のある国や組織はそれなりの数存在している。
そうした存在が軽々に伸広に手を出してくるわけではないが、そこから話が漏れて直接余計なちょっかいを出してくることもあり得るだろう。
アリシアはそうした存在に対して、冒険者ギルドを利用して伸広の盾になってもらうことを提案しているのだ。
「何というか……今まで関わるなと突っぱねていて、今度はいいように利用している気がするんだけれど……」
「それくらいはいいと思うわよ? それに、冒険者ギルドにとっても悪いことばかりじゃないし。それともやめておく? 別にどうしてもやっておかなければならないことじゃないし」
伸広の実力であれば、よほどのことがない限りは突っかかってこられても負けることはないだろう。
もし真正面からぶつかって伸広に勝とうとするならば、古代龍を複数体連れて来なければならなくなる。
変な策謀などに巻き込まれて実力が出せずに終わるということもあり得るが、ほとんどの場合は絶大な暴力で切り抜けられる。
もっともそんな策に巻き込また場合には、それこそ
「変に策を練ってくる人たちにとっては、せっかくの策を丸裸にされてしまうだろうから逆の意味で可哀そうになるわね」
少しばかり苦笑気味に言ったアリシアに、伸広も似たような表情になった。
「確かに、今更といえば今更か。それを考えると目に見える形で
「そういうことね。それに、冒険者ギルドにも利がないわけじゃないから一方的なものになるわけじゃないわよ?」
「あれ? そうなんだ」
「そうなのよ。まあ、それを利と取るかどうかは人それぞれだろうけれど……まあ、大丈夫だと思うわよ」
多少曖昧ではあったがアリシアがそう宣言したことで、伸広も納得の表情で頷くのであった。
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