(5)招待
女性陣の話し合いはまた後日ということでその日は一旦別れて、翌日は再びダンジョンへと潜った。
この日の目標は、第十層だ。
前日の後半には灯も幾分調子を取り戻していたこともあり、この日は少しペースを上げようということになっていたのである。
とはいえ、全く懸念材料がなかったというわけではない。
灯の調子はともかく、青龍から龍の精霊をもらった他の三人が突然同化をするかもしれない。
そうなった場合には灯と同じように魔法の調整が難しくなるので、さらにペースが落ちることもあり得る。
そのことを考えればむやみやたらにペースだけを考えて進むのも危険ということで、灯たちが出せる最高スピードの六割程度に落として攻略をしている。
その結果予定よりも少し早く、昼食をとってから二時間程度の時間で第十層に入ることができた。
夢幻ダンジョンの第十層は、転移層(陣)がある他のダンジョンと同じく、それぞれ上下の層に向かう通路(もしくは階段)と転移部屋しか存在していない。
外部へ向かう転移陣が存在しているすべてのダンジョンが同じ造りをしているわけではなく、割合にすれば半分程度がこの造りという感じだ。
中には転移陣がある部屋にトラップを仕掛けたり、多量の魔物を配置したり、部屋自体に辿り着きづらくしているダンジョンもある。
下層に行けば行くほどその傾向が強くなり、夢幻ダンジョンもそうなっているという報告がされている。
第十層から地表に戻れるようにするためには、転移陣にすべてのパーティーメンバーが触れて登録を行わなければならず、当然灯たちもその作業を行った。
そしてちょうどきりもいいところなので今日の攻略を終えて地表に戻――ろうとした瞬間に、それは起こった。
転移陣が作動して地表にある転移陣に戻るはずが、少しばかり広めの豪華な飾りつけがされた部屋に転移していた。
そして驚く灯たち(約一名を除く)の前には、胸に手を当てて頭を下げている執事風の男がいたのである。
「ようこそ夢幻ダンジョンへ。主がお待ちしておりますので、ご案内致します」
「あ~。やっぱり君が来たか」
突然の状況の変化に灯たちが着いてこれていない中、唯一いつも通りだった伸広が予想通りといった雰囲気でそう返した。
「魔帝様がいらっしゃるということでしたので、私以外にいないだろうと思いまして」
「いや、まあ……そうなのかな? 何かそれはそれで偉そうな気がするけれど……」
「何を仰いますか。魔帝様は、偉いのですが?」
ご本人が何を仰るという態度の男に、伸広は苦笑しながら誤魔化すように右頬を掻いていた。
伸広の魔帝であるという自覚がないのは今更のことなので、灯たちは勿論男もそれ以上は突っ込んでこなかった。
「それよりも、主がお待ちしております。一緒にいらしていただいてよろしいでしょうか?」
「そのつもりで来ていたんだからいいんだけれど……予想ではあと十層下になると思っていたよ」
「……それは私もまだ攻略途中だと提案したのですが、主が待ちきれなかったようで…………」
「あ~。それなら仕方ないか」
男の言い訳めいた言葉に頷きつつ、伸広はそれじゃあ行こうかと言わんばかりに歩みを進め――ようとしたところでアリシアの声に止められた。
「ちょっと待って、伸広。ちゃんと私たちにも説明してくれる?」
「あれ? 言ってなかったっけ……って、そうか。着いたらわかると思って説明してなかったか」
どうせこの状況になるだろうからその時に説明しようとした伸広は、アリシアたちに夢幻ダンジョンに来たもう一つの目的について話していなかったことを今の今まで忘れていた。
「簡単に言ってしまうと、この夢幻ダンジョン。マスターをしているのがカルラでね。以前の約束通りに会いに来たってわけ。ただ、本来ならもう少し攻略を進めてからと思っていたんだけれど……」
「
伸広の説明に付け加えるように、
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ザオクと名乗ったカルラの従者は、伸広に確認をとってから転移陣を動作させた。
その時転移陣に発生した魔力の光は、通常のダンジョンにある転移陣とは違った光の色が発色していた。
疑問に思ったアリシアの表情に気付いたのか、ザオクが転移を終えてから色の違いについての説明をした。
「転移陣の通常の発色は、侵入者用の色になっています。今回の色はダンジョン管理用のものになります」
「そういうことですか。わざわざ説明ありがとうございます」
「いえ。この程度のことでしたら隠すこともない……というよりも、魔帝様であれば既にご存じの情報だと思います」
「まあ、そうだね。付け加えると、ダンジョンによって色が違っているから一概にこの色が管理者用とはならないから注意が必要だね」
ザオクの説明で注目が集まったので、伸広も追加の情報を加えつつ頷いていた。
そんな会話をしつつ一行は転移陣があった部屋を出て、少し長めの廊下を歩いていた。
「――何か、大きめの屋敷を歩いているというよりも、城の中を歩いている気がするわね。窓があまりついていないから、外の状況はあまり分からないけれど」
「正解です。今私たちがいるこの場所は、夢幻ダンジョンのダンジョンマスターであるあのお方のための城になっています。少し歩くことになっているのは、万が一を考えてのことですのでご容赦ください」
メンバーの中では伸広を除けば一番多くの城と呼べるような建築物を見てきたアリシアの言葉に、ザオクが少し誇らしげな様子になって同意してきた。
ちなみのこのお城、カルラは必要ないと言っているのだが、ザオクをはじめとした周囲にいる者たちが権威を示すものとして必要だと主張して存在している。
そのためカルラ自身はほとんど城の管理には興味を示さずに、すべて部下任せになっていたりする。
一度ではとても覚えられそうもない通路を通りつつ、一行やようやく目的地であるとある部屋の前に着いていた。
「――――カルラ様、お待たせいたしました。魔帝様一行をお連れいたしました」
あくまでも伸広を立てるザオクだが、そのことについて灯たちが不満に思うことはない。
今回の訪問は、完全に伸広が中心であることを理解しているのだ。
ザオクの呼びかけに答えるように、ほんの数秒の間が空いてから部屋の中から答えを待たずに扉が開いた。
この扉も一枚の普通の家にあるような一般的なものではなく、左右で開くタイプの豪奢な造りになっている。
最初は魔法か何かを使って開いていると思われたが、扉が完全に開いた時点で左右両方にそれぞれ二人のメイドらしき恰好をした美女二人が開けていた。
それだけでもこの部屋(城)の主であるはずのカルラが、このダンジョン内においてはどういう扱いをされているのかが推測できる。
そして両扉が開いた部屋の奥には、伸広たちの招待主であるカルラが以前とは違った豪華なドレスを身にまとって立っていた。
カルラの特徴的な両目に合わせてなのか、あるいは別の目的があるからなのか、赤というよりは緋色に染められたそのドレスはカルラによく似合っていた。
着慣れていない者がそんなドレスを身にまとうと浮いてしまいかねないのだが、少なくとも伸広たちの目の前で嬉しそうに笑みを浮かべているカルラはそんな状態にはなっていない。
以前とはまた違った雰囲気を纏っているカルラの様子に、伸広を除いた面々は一瞬見とれるような表情になっていた。
伸広がいつもと変わらなかったのは、単純に以前にもドレス姿のカルラを見たことがあるからである。
そんな伸広たちに、カルラはニコリを笑って言うのであった。
「ようこそ夢幻城へ。わたくしたちは貴方たちを大切なお客様として歓迎いたします」
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